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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【序】

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3/343

0‐01‐2 そして、目


 


 気付くと、ナギサの眼前には見知らぬ景色が広がっていた。

 何もかもが溶け込み薄墨を垂らし込んだような、薄ぼんやりとした空間。

 音すらもその薄墨に溶け込んでしまったのか、息をする音さえ吸い込まれてしまうような無音の世界。


(ここは何処?)


 つっと伸ばした手指すら、満足に見定められない。

 広いのか、狭いのか。

 どこかに灯があるのかと見回すが、周りがうす明るいだけ。遠くを見定めようとしても、灯りらしきものは見当たらなかった。




 《我は万象のあるじ、万象を司る者。


 ここはあらゆる世界が交差する狭間。


 そなたののぞみ、叶えよう。


 ここから先はそなた次第。


 有象無象がそなたを覗きにこよう。


 己で掴み取るか、あるいは拾われるのを待つか。


 選ばぬならば、永劫の虚無に囚われるのみ。


 ——選ぶがよい》



 一方的に頭の中に響き続けた声が、唐突に途絶える。


 ようやく質問できると、ナギサは声を張り上げるが、自身の声がただ虚しく響くのみ。

 辺りを再度見回しても、薄ぼんやりとした世界が広がっているだけ。

 いくら声を張り上げようと、ただ静寂が横たわっていた。




 ナギサはただ一人、首を垂れ、膝を抱えて途方に暮れていた。

 自身が置かれた状況が呑み込めず、言われたことも理解できていない。


「……っ!?」


 顔を上げた瞬間、咄嗟に口元を両手で押さえ、悲鳴を内側に押し込めた。


 ナギサの周りに、無数の“目”が浮かび上がっていた。

 一つや二つではない。それこそ空間を埋め尽くすほどの、数えきれない“目”。




 いつの間に——

 声が響く前は、こんな状態ではなかった。

 響く声に気を取られている間にこうなったのか、覆いつくすかのようにあまたの“目”がうごめいていた。


 嘲るような視線、品定めするような視線、そして何一つ感情を宿さない無機質な眼差し……

 ああ……これは。見られている、値踏みされている、そんな馴染みの気配だ。


 ただ“目”だけが宙に浮かび、こちらを凝視している。その光景は、おぞましいほどに異様だった。


 さっきの……『有象無象がそなたを覗きに』とは、このことなのだろうか。


 無言の視線が周りをゆらゆらと巡る。

 “目”のみ故に、その眼差しの目的はわからない。


 監視、観察、それとも見世物としてなのか。




 先の声に従うのであれば、これらの視線に向かって、自ら声をかける、もしくは拾われるのを待つことになる。

 どちらを選ぶにしても、なかなか勇気がいる話だ。


 それ故に、この状況を声の主に改めて問いたいと考えるのだが、主は当然のごとくいないのであった。



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