0‐01‐2 そして、目
(――ここは?)
はっと気が付くと、薄墨を垂らし込んだような、薄ぼんやりとした空間にいた。
広いのか、狭いのか。
伸ばした先の手指が、なんとなくわかるぐらいの薄暗さ。
どこかに灯があるのかと見回すが、自身の周りがうす明るく見えるのみ。遠くを見ようとしても、灯りらしきものは見当たらない。
《我は万象の主、万象を司る者。
ここは狭間。万象の狭間。あらゆる世界に通ずる場所である。
そなたの声、叶えようぞ。
ここから先はそなた次第。新たに生きる場所を決めるがよい。
様々なモノが、そなたを覗きに来るだろう。
そなたが自ら声をかけてもよし、声がかかるのを待つのもよし。
決めねば、永遠にこの狭間にとらわれる。
時間も過ぎず、何も変化のない永遠のこの狭間に。
この先はそなたが決めることである》
一方的に頭の中に響き続けた声が、唐突に途絶える。
ようやく質問できると声を張り上げるが、己の声がただ虚しく響くのみ。
辺りを再度見回しても、薄ぼんやりとした世界が広がっているだけであった。
結局、声の主はその後も現れず(声を聞くことなく)、ただ一人膝を抱えて考え込むしかないナギサである。
それでも、少し周りを見てみようと顔を上げる。
咄嗟に口元を両手で押さえ、上げそうになった悲鳴を押し込める。
ナギサの周りに、無数の“目”が浮かんでいる!
一つではない、それこそ数えきれないほどの“目”だ。
ナギサは、改めて周りを見渡す。
先程まではなかった。ただ薄暗く手先がぼんやりとわかるだけの空間。
それが、頭の中に響く声に気を取られている間になのか、ナギサの周囲をあまたの“目”が漂っている。
嘲るような視線、品定めするような視線、そして何一つ感情を宿さない無機質な眼差し。
冷静に考えれば、それはかなり異様な風景だった。
座り込む人の周りを“目”だけが漂っている。
さっきの......『様々なモノがそなたを覗きに来る』ってこういうこと?
無言の視線がまわりを漂う。
“目”のみ故に、その眼差しの目的はわからない。
監視、観察、それとも見世物としてなのか。
先の声に従うのであれば、これらの視線に向かって、自ら声をかける、もしくは呼びかけられるのを待つことになる。
どちらを選ぶにしても、なかなか勇気がいる話だ。
故に、この状況を声の主に改めて問いたいと考えるのだが、声の主は当然のごとくいないのであった。