1‐10‐2 洗濯場の仕事
「ふぅ……」
部屋に戻り、パタリとベッドに倒れ込んだ。
あの後、セラスに連れられ、洗濯場にて手伝いの手続きを行った。毎週聖の曜日、午後からの作業という約束。人手が足りないから、早速今日も手伝ってほしいと言われた。
任された作業は至極単純なものだった。
洗濯物を回収して、転移陣——なんと魔法の力で一瞬で荷物を送る仕組み——に運ぶだけ。洗濯物は、対になる洗濯場の転移陣に転移する。回収作業が終われば、転移陣に戻ってくる洗濯済みのものを指定の場所へと届ける。目の前で魔法陣が輝き、置かれたものがすっと消えていく様は、まさしくファンタジーな光景だった。
今日、回収場所として派遣されたのは一般宿舎。大神殿を訪れる一般の参拝客や来客が利用する施設だ。ちなみに賓客には、上級宿舎が別に用意されていると、事のついでに教えられた。
仕事は、宿舎から使用済みのリネン類を回収し、それを集積場に運び、設置された転移陣を起動して洗濯場まで送るだけ。
——とても簡単そうな作業に思えたけど……現実は甘くなかった。
シーツやタオルの山は乾いているものでも意外なほど重く、集積場までの移動はじわじわと体力を削っていく。
この移動も何往復もする必要があり、これまた距離が長いのだ。コーマの身体強化をかけていなければ、とてもではないが続けられない作業だった。
作業中は常に身体強化をかけていないと体力が持たず、結果、魔力ががっつり消費された。
そして、とどめは魔法陣だった。
回収した洗濯物を転移陣へ置く。この時、転移陣の起動に少量だが魔力が必要なのだ。一度に転移できる物量は少なく、何度も繰り返すことになり、魔力がここでもたっぷりと使わされた。
「もっと大きな転移陣を用意すれば、楽じゃないですか?」
集積場を管理する神官につい零すと、彼は困ったように笑って教えてくれた。
「ナギサ君、それは贅沢というものだよ。転移陣を用意できる上級魔導士は数少ないんだ。この国ですら、十人といないと思う。それにね、これ以上の大きさのものは神様にしか作れないんだ」
思いがけない話を聞かされた。
「人や生き物を転移させる魔法陣は神様にしか作れないし、余程の理由がない限り、神様も承諾してくれないから、めったにお目にかかれないよ」とも。
害意を持つものの侵入や危険物が安易に転移されないように、と考えてのことらしい。
確かにこの集積場でも、ここに爆弾——この世界にそんなものがあるのかわからないがーがあれば、それを転移陣で洗濯場に送ろうと思えば送れてしまう。そんな物騒なものでなくても、毒蛇を一匹送り付けるだけで、大騒動になることは簡単に想像できた。魔法があるから何でも楽になるという考えは、甘いらしい。
今日の作業を改めて思い返してみる。
体力よりも魔力の消費。そして信じられないほどの疲労感。
セラスの下でコーマの技を訓練していた時も疲れはあった。だが、これほど長時間かつ一定量を使い続けることはなかった。今日はこの“長時間かつ一定量”ということが、どれほど体に負担になるかを実感した。
セラスがこの手伝いを勧めてくれたのも頷ける。これはとても良い訓練になる。仕事でコーマを使うというのは、きっとこういうことなのだ。
——でも……とりあえず、魔力が足りてよかった。
以前、セラスとの訓練中、気づかずに魔力切れをおこし、気を失ったことがある。そんな危険な状況を避けるためにも、この仕事は良い訓練になるはずだ。毎週続けていれば、魔力量も増え、コーマの技の技量も上がる。本当に、良い手伝いを教えてもらえた。
このままベッドに倒れ込んでいると眠ってしまいそうだ。
夕べの祈りを今日はまだ行っていないことに気づき、ナギサは慌てて寮の祈りの間へと向かった。
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