1‐09‐2 部屋、そして
「ここがナギの部屋!」
「......ここが」
信じられない、といった様子でナギサが零す。
セラスに促されて入った部屋は、ベッドと机と椅子が1セットある小さな部屋。だがナギサにとっては贅沢にも、一人部屋らしい。
壁際に寄せられた、真っ白なシーツのベッド。そのすぐ上にある窓からは、少し開いているのか、入り込んだ風にカーテンが揺れている。ベッド脇の机は、書き物机——というか勉強机といったところか。部屋に入ってすぐ脇には、小さなクローゼットも用意されている。
(わたしなんかの為に、なんて贅沢な......)
ナギサが部屋を見回して、分不相応な贅沢さに落ち着かない気持ちでいると、セラスから直ぐに顔を出しておくべきところがあると言われた。
「本当は、落ち着いて荷物を整理したいけど、わたしもこの後予定があるから。まずは学舎長であるトランキリタ先生の部屋へ挨拶に行こう」
荷物をベッドの上に置いたかと思うと、すぐに部屋を出た。
学舎長の部屋へ向かう中、セラスは学舎寮と学舎での一日の流れを大まかに説明してくれた。
聞く限り、ここでの一日はかなりせわしない。
朝一番の祈りの時間。続けて調理・掃除の手伝い。その後にやっと朝食。朝食が済むと、学舎へ向かい、学びの時間となる。夕食の前後は自由時間。就寝前にも祈りの時間があり、すぐに消灯時間である。身支度やら勉学の予習復習は合間の時間や自由時間でなんとかする。
ナギサにとっては、いわば二度目の学生生活だ。元世界での学生生活は、ひたすら目立たず大人しくして無風に過ごすことに徹していた。常に周りに気を使い、楽しいという記憶がまったく出てこない(そもそも楽しいことがあったのか?)。そんなことを思い返しながらセラスの話を聞いているうちに、目的の場所に着いた。
目的の部屋の扉の前で、二人は一度立ち止まった。
セラスは隣に立つナギサへ柔らかな視線を向けたかと思うと、すぐに前を見据え、背筋を伸ばして扉をノックする。
「トランキリタ先生、ナギサさんを連れて参りました」
△▼
その部屋は以前神官長と会った部屋とよく似ていた。目の前の大きな執務机、その横にある応接セット。ここも華美ではなく品よくまとめられた部屋である。
執務机の前には穏やかな雰囲気の女性が立っている。年齢は40代? それとももう少し上? 襟元までのゆるふわカール、濃い緑の髪が印象的である。
ナギサが礼の姿勢をとろうとしたところ、軽く手で制された。
「ナギサさんですね。わたしに礼は不要ですよ。学舎の中でいちいち礼をとっていては、皆が困ってしまいますからね。セラスさん、ここまでありがとう。もう下がっていいわよ。お仕事、頑張りなさいね」
セラスが学舎長と挨拶を交わし退室した。退室際にナギサに小さく手を振ってくれたことに気づき、なんだか胸のあたりがぽわぽわする。
「さて、あらためて。こんにちは、ナギサさん。わたしは学舎と学舎寮を任されているトランキリタ。ナギサさん、あなたを歓迎します。まずはこちらへ」
トランキリタは柔らかな笑みを浮かべ、ナギサを座り心地がよさそうなソファに座るよう促してくれた。
トランキリタ自身も、ナギサの前のソファにゆったりと腰をおろす。
「学舎についてはセラスさんから何か聞いたかしら? でも、わたしからも少し説明するわね。
学舎は将来神殿に入ることを願う子供達が学ぶ場所です。市井であればちょうど中等科に該当するわ。修了すると、基本そのまま神官見習いになるの。ただ、一口に神官見習いといっても、医療・魔導・騎士、その他にもいろいろ進む道があるわ。騎士の場合は、神官見習いとは言わずに、騎士見習い、って呼ばれるけれど、神殿に属していることには変わらないわ。
それから、神官に向いていないと思えば、途中であっても街の中等科へ編入もできるから安心なさい。学舎で学ぶのは中等科の内容に加えて神殿で必要とされること。午前中は座学、午後は鍛錬と実技が中心となるわ......」
この後もトランキリタの説明は続いた。学舎寮の決まり事、学舎での決まり事、最初に受けるべき授業のことなど諸々だ。
神妙な表情で頷きながら聞き入っているナギサであるが、実は知らない言葉と事物の連続で、聞き洩らさないようにすることで精一杯であった。
仮にナギサが中等科に編入しようとするとかなり難しいです。住居の問題や生活費の問題で。




