表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第一章】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/343

1‐09‐1 学舎寮へ



「さぁ、引越しよ!」


 翌日、いつもの時間にやってきたセラスが、勢いよく宣言した。


「えっ、引越しですか? 学舎に通うことになると、神官長がおっしゃっていましたけど……」


 ナギサは意味がわからず、コテリと小首をかしげた。


「だから、そのために寮へ移るのよ」


 満面の笑みを浮かべたセラスが、ちょんとナギサの鼻先を指で弾いた。

 

「まずは着替えてちょうだい。今着ているものは、ほとんど寝間着みたいなものだから。ほらこれ、わたしや他の神官見習いの子たちからかき集めてきた服。少し大きいかもしれないけれどそこは我慢してね。ブラウスにスカート、ズボン。靴はゴメン、これ一足しか手に入らなかった。下着はわたしからのプレゼント。下着以外はみんなお古で着なくなったものだから、気を使わなくてもいいわよ」


 ナギサはセラスの言葉に驚き固まってしまった。


 セラスが“大荷物”を抱えて部屋に入ってきたことに違和感があったが、まさかこれだったとは。確かに今着ている寝間着もいつの間にか着せられていた。着替えの寝間着に下着類、どこでどうしたのかもわかっていない……


 ——迂闊だった。学舎に通うために必要な身支度など、考えてもいなかった。それに、今更だが、元々身につけていた衣服はどこへいったのだろうか……


 いやいや、それよりも。古着とはいえ、そこまでサイズを見繕って用意してもらえるとは、なんてお礼を言えばいいのだろう。


「ナギ? 何固まっているのよ。ほら、着替えて。学舎寮に行く準備しないと」


「あの……」


 ナギサが慌ててお礼を口にしようとするが、セラスはひらひらと軽やかに手を振って遮った。


「お礼? そんなのいいから、ほら、早くして。

 寝間着はそのまま使うから畳んでおいて。他には……貸してあった本と蝋板・尖筆、っと。何か私物はあるかしら?」


 動きが止まったままのナギサに声をかけながら、セラスは荷物を手際よくまとめていく。ベッドの上にはこれを着なさいとばかりに、ブラウスとスカートがいつの間にか置かれていた。


 セラスの言葉になんとか反応し、服を着替えていると、脱いだそばから寝間着もさっと荷物にまとめられた。


「んと、学舎って、制服はないの?」


 元世界の感覚では、寄宿舎といえば制服である。


「ないわよ。神官見習いや神官は、見ての通り決まった服装があるけどね」


 神官や神官見習いは基本となる長衣がある。丸首、長袖、足首までの長さのストンとした服だ。見習いは薄い灰色のみ。神官は白が基本だが、好みで異なる色を使ってもよいという。そして、この長衣に役職や仕事に合わせ、飾帯や肩掛けといった物を纏う形式だ。

 セラスは療養棟に来るときは白いチュニック状のエプロンを灰色長衣の上につけていた。今は長衣と同じ灰色のチュニックを身につけている。


 学舎寮と聞いて、勝手に制服を期待していたナギサにとって、非常に残念なセラスの一言だった。


 ナギサが慌ただしくもなんとか着替え終わると、待っていたとばかりにセラスから声がかかった。


「さぁ、行くわよ」


「でも、セラス。部屋の掃除、何かしないと」


「大丈夫。ここは療養棟。部屋を引き払った後は専門の掃除が入るわ。それに学舎寮で過ごすようになれば、嫌というほど掃除をすることになるわよ」


 セラスは戸惑うナギサの手をギュッと握ると、問答無用で部屋の外へと引っ張っていった。しかも、廊下を歩きながら聞かされたこの後の予定——学舎寮までの移動は馬車を使うというのだ。


 移動に馬? 大神殿はどれだけ広いのだろう。


 そんな素朴な疑問と違和感を抱きつつも、ナギサはセラスに手を引かれるまま、慣れ親しんだ療養棟を後にした。






 ——なんだか街みたい……


 馬車から降り、辺りを見回すと、似たような建物が並ぶ一角。

 学舎寮や独身寮など、大神殿関係者の住居区画だと教えられた。


 療養棟からここまでの移動は、(本当に)馬車を利用したので、あっという間のこと。十分歩ける距離だと思ったのだが、体調と荷物量を考えての選択だとセラスに言われた。


 そう、馬車といえば、引いていたのは馬であった。

 当たり前と言えばそうなのかもしれないが、いつか部屋から見たシンバと言われる白馬ではない。足ががっしりと太く短く、首も短めな茶色の馬だった。馬車から荷物を下ろしつつ、さりげなく馬の話題をセラスに振ってみると、いろいろ聞くことができた。


 この馬は馬車や荷馬車などに使われている種類。先日見かけたシンバは、以前に聞いた通り、基本色が白で細身、貴人の馬車を引くこともあるが、基本は上位騎士の騎乗用だという。


「そうそう、学舎では“乗馬”の講義もあるの。使う馬はこの種の馬だったり、乗馬用だったり、いろいろよ。今日は荷物があるから馬車を利用したけれど、神殿内での移動に馬や馬車を借りられるから、乗馬の講義は役に立つわよ」


 神殿内で移動するために馬を借りる……?

 思ったことが顔に出ていたのだろう。


「大神殿って言っているけど、それに付随して療養棟・学舎・騎士舎・文書館、他に学舎寮も含めたこの住居棟もあるわ。まだほかにもいろいろあるから、かなりの規模よ。わたしだってすべて回ったことはないもの」


「……ちょっとした、街ですね」


 想像していた以上の規模感だ。


「そうね、街の中に街があるみたいな感じよね。まぁ、市場とかないから、ちょっと違うけどね」


 雑談をしながらもセラスはテキパキと作業を進め、荷下ろしから馬車の返却まで済ませてしまう。


「さぁ、行きましょ」


 セラスはナギサに声をかけると、やはり返事も待たずにナギサの手を取り、ぐいぐいと先へ進んでいくのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ