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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第一章】

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1‐09‐1 学舎寮へ



「さぁ、引っ越しよ!」


 翌日、いつもの時間にやってきたセラスが、勢いよく宣言する。


「んと、引っ越しですか? 学舎に通うと神官長から言われていたと思うのだけど」


 ナギサは意味がわからず、コテリと首をかしげた。


「だから、そのために寮へ移るのよ。

 まずは着替えて。今着ているのは寝間着みたいなものだから。これ、わたしやほかの神官見習いの子たちからかき集めてきた服。少し大きいかもしれないけれどそこは我慢して。ブラウスにスカート、ズボン。靴はゴメン、これ一足しか手に入らなかった。下着はわたしからのプレゼント。下着以外はみんなお古で着なくなったものだから、気を使わなくてもいいわよ」


 ナギサは、セラスの言葉に驚き固まってしまう。

 セラスが“大荷物”を持って部屋に入ってきたことは、なんとなく気づいたが、これだったとは。確かに今着ている寝間着もいつの間にか着せられていて、どこでどうしたかもわからない。

 よくよく考えてみれば、授業を受けるにあたって必要な身支度など、気にしてもいなかった。それに、今更だが、元々身につけていたものはどこへいったのか......。


 いやいや、それよりも古着とはいえ、そこまでサイズを見繕って用意してもらえるとは、なんてお礼を言えばいいのだろう。


「ナギ、何固まっているのよ。ほら、着替えて。学舎寮に行く準備しないと。お礼? いいから、ほら、早くして。

 寝間着はそのまま使うから畳んでおいて。他には......。貸してあった本と蝋板・尖筆と。何か私物はあるかしら?」


 動きが止まったままのナギサに声をかけながら、セラスは荷物をまとめていく。ベッドの上にはこれを着なさい、とばかりにブラウスとスカートが置いてある。

 セラスの言葉になんとか反応して服を着替えると、脱いだ寝間着もさっと荷物にまとめられる。


「んと、学舎って制服みたいなものはないの?」


 元世界では寄宿舎といえば制服である。


「ないわよ。神官見習いや神官は見ての通り決まった服装があるけどね」


 そう、神官や神官見習いは基本となる長衣がある。丸首、長袖、足首までの長さのストンとした服だ。見習いはグレーのみ。神官は白が基本だが、好みで異なる色を使ってもよいという。そして、この長衣に役職や仕事に合わせていろいろと上にまとう形式だ。

 セラスは療養棟に来るときは白いチュニック状のエプロンを長衣の上につけていた。今は長衣と同じくグレーのチュニックを身につけている。


 学舎寮と聞いて、勝手に制服を期待していたナギサにとって、非常に残念なセラスの一言だった。


「さぁ、行くわよ」


「でも、セラス。部屋の掃除とか、何かしないと」


「大丈夫。ここは療養棟。部屋を引き払った後は専門の掃除が入るから。それに学舎寮で過ごすようになれば嫌というほど掃除をすることになるわよ」


 セラスは戸惑うナギサの手をつかむと問答無用に引っ張って行く。しかも、学舎寮までの移動は馬車を使うという。


(大神殿内で馬車?)

 疑問に思うナギサだが、そのまま大人しくセラスに引かれていくのであった。



△▼



 馬車から降り、辺りを見回すと、似たような建物が並ぶ一角。学舎寮や独身寮など、基本神殿関係者の住居区画だという。


 ここまでの移動は、(本当に)馬車を利用した為、あっという間のこと。十分歩ける距離ではあるが、ナギサの体調と荷物量を考えての選択だった。


 そう、馬車といえば、引いていたのは馬であった。いつか見たシンバと言われる白馬ではなく、足ががっしりと太く短く、首も短めな茶色の馬だった。荷下ろしをしつつ、さりげなく馬の話題をセラスに振ってみると、いろいろ聞くことができた。


 この馬は馬車や荷馬車などに使われている種類。先日見かけたシンバは基本色が白で細身、貴人の馬車を引くこともあるが、基本は上位騎士の騎乗用だという。


「そうそう、学舎では“乗馬”の講義もあるの。使う馬はこの種類の馬だったり、乗馬用の馬だったり、いろいろ。今日は荷物があるから馬車を利用したけど、神殿内での移動用で馬や馬車を借りれるから乗馬の講義は役に立つわよ」


(移動に馬? この神殿ってどれだけ広いの?)


 思ったことが顔に出ていたのだろう。


「大神殿って言っているけど、それに付随して療養棟・学舎・騎士舎・文書館、他に学舎寮も含めたこの住居棟もあるし、まだほかにもいろいろあるから、かなりの規模よ。わたしだってすべて回ったことはないもの」


「......ちょっとした、街ですね」


「そうね、街の中に街があるみたいな感じよね。まぁ、市場とかないからちょっと違うけど」


 こんな雑談をしながらもセラスはテキパキと作業を進め、荷下ろしから馬車の返却まで済ませてしまう。


「さぁ、行きましょ」

 セラスはナギサに声をかけると、やはり返事も待たずにナギサの手をとり先に進むのであった。



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