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しばらくして、再び神官長から呼び出しを受けた。
前回と同じく神殿騎士が迎えに来た。だが、今日は騎士の後をついて歩くことが辛くない。
毎日朝晩、部屋の中でラジオ体操をしたかいがあった。多少は筋力が戻ったのだと思いたい。
もし誰かが部屋の中を監視していたら——恐らくされている、変な動きをする子供と思われていたはずだ。だが、考えられた動きのラジオ体操は素晴らしい。狭い室内での運動でここまで体力維持ができるのだから。
騎士についていくと、前回と同じ療養棟内の部屋に通された。
部屋に入ってすぐ目に入ったのは、窓際に立つ神官長の後ろ姿だ。
気配に気づいたのか、その背がゆっくりとこちらへと向き直った。礼の姿勢をとるために跪こうとすると、今回も「礼は不要だ。その椅子に座りたまえ」と促された。
「堅苦しい挨拶は抜きにする。ナギサ君、今日は君の状態を確かめる為に来てもらった」
神官長の話し方は相変わらず事務的だ。
淡々と必要なことだけを口にし、先へ先へと話を進めていく。
「わたしの状態ですか?」
何故そんなことを尋ねるのか。日々の健康状態であれば、セラスや他の神官見習い達が報告を上げているはず。
わざわざ神官長ほどの地位の人が、直接確かめる必要もないであろう。
こちらの戸惑いに気づいているのか、いないのか。神官長の言動はぶれることがない。
「まずは健康状態。日々の報告は当然こちらも目を通している。本日の様子からも健康体と言っても差し支えないようだな。そして、もう一つ、“コーマの技”の上達具合だ。コーマが上手く操れないと、学舎での生活に支障をきたすからな」
(なるほど……)
神官長の言葉に納得する。もともと療養棟に入れられていたのは療養のため。健康になったのであれば、当然出ていくべきだし、病室に居座るのは流石に問題がある。
加えて“コーマの技”の上達具合。これは確かに周りが皆使えるのに、己だけが使えない状態では周りが迷惑であろう。
ここまで考えたところで浮かんだ疑問に、小首を傾げた。
「あの……学舎、ですか?」
「何か問題が? 療養棟を出た後、学舎に通うのであれば必須であろう」
当たり前のように返す神官長の眼鏡の奥が、若干半眼気味だ。
「お言葉ですが、神官長は気にされないのですか? 記憶がないわたしをこのまま学舎——神殿に置くことに。わたしは行く当てもなければ、頼る相手もありません。ですから、このままここにいてよいと言われるのであれば、とても助かるのですが」
せっかくの機会である。ずっと気になっていたことを聞いてみた。子供とはいえ身元不明の不審人物。それをそのまま置いておくというのは、あまりにも不用心ではないだろうか。
「気にはしている。が、君はこの一節程の間、素直に言いつけに従っている。特に不審な行動もとっていない。学ぶ姿勢も褒められるものだ。街の身寄りのない子供を引き取ったと考えれば大差はない。
……それよりもナギサ君。君は年齢の割に大人びた言動をとる。“聞き分けがよい子供”というよりも、“大人の振る舞いをする子供”に見えるのだよ。現に今もそうだ。
故に、何故君の記憶がないのか、以前は何処でどのような暮らしをしていたのか、ということに非常に興味はある」
疑問に答えていたはずの神官長だったが、途中から言葉はどこか独り言めいた小声になり、探るような視線がこちらに注がれていた。




