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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第一章】

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1‐07‐1 次の行先

 


 しばらくして、再び神官長から呼び出しを受けた。


 前回と同じく神殿騎士が迎えに来てくれた。そして、今日は騎士の後をついて歩くことが辛くない。

 毎日朝晩と部屋の中でラジオ体操をしたかいがあった。多少は体力が回復している気がする。

 もし誰かが部屋の中のナギサを監視していたら(監視されている気がするのだが)、変な動きをする子供と思われているだろう。だが、考えられた動きのラジオ体操は素晴らしい。部屋の中での運動でここまで体力維持ができるのだから。


 騎士についていくと、前回と同じ療養棟内の部屋に通された。

 部屋に入って直ぐ、目に入ったのは窓際に立つ神官長の後ろ姿だ。

 その背がゆっくりとナギサの方に向き直った。ナギサが礼の姿勢をとるために跪こうとしていると、神官長は今回も「礼は不要だ。その椅子に座りたまえ」と促された。


「堅苦しい挨拶は抜きにする。ナギサ君、今日は君の状態を確かめる為に来てもらった」


 神官長の話し方は相変わらず事務的だ。

 淡々と必要なことだけを口にし、先へ先へと話を進めてくる。


「わたしの状態ですか?」


 ナギサは少し不思議に思う。日々の健康状態であれば、セラスや他の神官見習い達が報告を上げているはず。

 わざわざ偉い人が直接確かめる必要もないであろうに。


「まずは健康状態。日々の報告は当然こちらも目を通している。本日の様子からも健康体と言っても差し支えないようだな。そして、もう一つ、“コーマの技”の上達具合だ。コーマが上手く操れないと、学舎での生活に支障をきたすからな」


(なるほど)


 ナギサは神官長の言葉に納得する。もともと療養棟に入れられていたのは療養のため。健康になったのであれば、当然出ていくべき。健康体で病室に居座るのは流石に問題がある。

 加えて“コーマの技”の上達具合。これは確かに周りが皆使えるのに、ナギサ一人が使えない状態では周りが迷惑であろう。


 ナギサは、ここまで考えたところで疑問が一つ浮かび、コテリと小首をかしげてしまう。

 と同時に、疑問が口から零れた。


「学舎ですか?」


「何か問題でも? 療養棟を出た後、学舎に通うのであれば必須であろう」


 当たり前のように返す神官長の眼鏡の奥が、若干半眼気味になる。


「お言葉ですが、神官長は気にされないのですか? 記憶がないわたしをこのまま学舎——神殿に置くことに。わたしは行く当てもなければ、頼る相手もありません。ですから、このままここにいてよいと言われるのであれば、とても助かるのですが」


 せっかくの機会である。ナギサはずっと気になっていたことを聞いてみた。子供とはいえ身元不明の不審人物。それをそのまま置いておくというのは、あまりにも不用心ではないだろうか。


「気にはしている。が、君はこの一節ひとせつ程の間、素直に言いつけに従っている。特に不審な行動もしていない。学ぶ姿勢も褒められるものだ。街の身寄りのない子供を引き取ったと考えれば、大差はない。

 それよりも、ナギサ君、君は年齢の割に大人びた言動をとる。“聞き分けがよい子供”というよりも、“大人の振る舞い”に見える。現に今もそう感じている。

 故に、何故君の記憶がないのか、以前は何処でどのような暮らしをしていたのか、ということに非常に興味はある」


 ナギサの疑問に答えていたはずの神官長だが、何故か途中からは、独り言めいた小声になっていた。



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