0‐01‐1 声
祖母が、亡くなった。
ナギサの唯一の庇護者だった。
49日が過ぎ、悲しみは癒えぬまま。それでも、唯一の庇護者を失ったと知れ渡れば、周囲からの風当たりは日に日に強くなり、陰口や視線が鋭い刃となって突き刺さった。
ナギサは思う。
髪と瞳の色が周りと違うことは、そんなに悪いことなのだろうかと。
ナギサの髪色は街を見渡せば普通にみかける色合いである。
ただ、同世代でみれば異質。
10代の少女が白髪。
街を歩けば否応なく目を引いた。
当初は、コスプレだと色めき立って近寄ってくるが、深く紅い瞳を覗き込めば、彼らは一様に息を呑んだ。
本格的だと暫くはもてはやされるが、それが生まれつきのものだと知るや否や、掌を返したように人々は冷たく距離を取った。
ただ違うというだけで避けられる。何故違うのか、合わせられないのかと責められ、好奇の目に晒される。
普段はウィッグと眼鏡で容姿をごまかしているが、それでもどこかで噂を聞きつけた者が現れ、何故その姿であるのかと問い詰めてくる。
その白髪と紅い瞳は何かの呪術かと言われたこともある。見た目だけで不吉と言われ、どこかの国の昔語りに出てくる取り替え子ではないかとも囁かれた。
ただ言われるだけならまだしも(いや、それはそれで辛いのだが)、その身を狙ってくる者もいた。きっと同じような理由であろうが、誘拐されかけたことさえあったのだ。
どうか、放っておいて欲しい。
珍しいからといって、どうか、そんなに見ないで欲しい。
不吉だと言わないで欲しい。
誰も傷つけたりしないし、盗みや悪いことだってしていない。
魔女と言われても、わたしは魔法も呪文も何も知らない。
取り替え子と言われても、この身は別世界を知っているわけでもない。
お願いだから放っておいて欲しい。
あと五十年も生きれば、この髪も年相応の白さと言われるのだろうか。だが、この紅い瞳だけは、きっと、永遠に変わらない。
ナギサは、ただひたすら普通に静かに暮らしたいと願う。
髪色も、瞳の色も、誰も気にすることのない場所へ行きたい。
祖母がいなくなった今、その望みは果てしなく遠くへと、手の届かないものとなってしまった。
《後悔せぬか?》
唐突に、その声は聞こえてきた。
ここはナギサの自室である。
当然、周りを見渡しても誰もいない。
誰かいるほうが危険である。
空耳かと思ったが、その声は再び聞こえた。
それも、頭の中に響く声で。
《後悔せぬか? 後戻りはできぬぞ》
何を後悔すると?
この声は何を問うているのだろう?
《叶えようぞ。そなたの望み。異なる世界へ招こうぞ》
——異なる世界......。
叶うなら、
ここではない世界へ行けるのなら、
わたしは、後悔などしない。