1‐04‐2 知らないと?
神官長から、矢継ぎ早に質問が降ってくる。
「首都の名前は」「国の指導者の名は」「礼の取り方は」「春の新学期は何節から始まる」……
いくらじっくり読んだとはいえ、流石にすべてを答えられるわけがない。特に学校制度や暦。元世界と変に似ているので、かえって混同してしまって即答できない。いくつか間違えたり、詰まったりしてしまう。
「初等科は何歳から入学許可が下りる」
「あ……初等科……ですか……」
初等科——小学校のようなものらしいが、何歳からだったろうか。記述はあったような気がするが、変に納得して軽く流してしまったあたりだ。
ここでも返答に詰まり、つい黙り込んでしまった。
「……ところで君はいくつだね」
「——え?」
唐突に投げかけられた問い。
元の年齢である“十七歳”と言うべきか、この縮んだ身体の見た目の歳を言うべきなのか。
そもそも、ナギサ自身が今どういう状態に置かれているのか分かっていないのだ。とてもではないが、年齢など答えられるはずもなかった。
固まってしまったナギサを見透そうとするように、ウォーリは眼鏡の奥の瞳を静かに細めた。
不意にナギサの前に膝をつくと、その華奢な手首を、逃がさないと言わんばかりの確かな力で掴んできた。
「今から君の鑑定を行う」
有無を言わせぬ絶対的な口調。
(鑑定って……?)
よくわからないままにナギサが頷くと、彼はナギサの手を握ったまま、静かに何かを呟き始めた。
「……」
ほんの僅かな時間のはずだが、とても永く感じられる。
掴まれた手首から伝わるのは、温かさではなくひんやりとした水の冷たさ。
その冷たさが“鑑定”という言葉の意味を、今更ながらに思い出させてくれる。
(知られてしまう……っ!)
ナギサの動揺を悟ったかのように、動きを止め集中していた神官長がわずかに顔をあげた。
眼鏡越しの瞳が一瞬大きく見開かれたような気がした。だが、彼は一度瞼を伏せた後、再びナギサを静かに見つめ直し、何故か深いため息をついた。
「十歳……か」
ウォーリはそれだけを口にすると立ち上がり、部屋の外で待つ神殿騎士を呼び、ナギサを部屋まで送るよう言いつけた。
「神官長様! あの本でまったくわからない言葉があるのですが」
「役職に様はいらぬ。“神官長”でよい。……それで、何かね。手短に言いなさい」
「はい。“コーマの技”とは、どのようなものですか?」
空気が凍る、というわけではないが、周囲の動きが止まった。神官長も部屋にいた神殿騎士もこれでもかというほど目を見開き、ナギサを見つめている。
——これは……やってしまったのか?
「“コーマの技”を知らない……と?」
信じられない、とでもいうように銀縁眼鏡の奥の目を更に見開いたウォーリは、指でそっとこめかみを押さえた。




