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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第一章】

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14/299

1‐04‐1 神官長

 


 窓の外は、どこまでも続く蒼い空と、のんびりと草をはむ白い毛並みの家畜の群れ。もう何度見たか分からない、見慣れた景色が広がっている。相変わらず窓には見えない障壁が張られ、顔や手を出すこともできない。

 借りた本はすべて読み終えてしまい、さて、どうしたものかと考えていると、まるでこの退屈を見計らったかのように、呼び出しを受けた。



 迎えに来た神殿騎士に「ご自身で歩けますか」と尋ねられ、ナギサは内心、何故そんなことを聞くのだろうと首を傾げた。しかし、歩き出してすぐにその理由を悟る。

 随分と長く部屋から出ていない。ほとんど寝ているか、横になっているか、本を読んでいる生活を続けていた。

 気づかないうちに筋力が驚くほど衰えていたのだ。子供の体でもここまで弱るのかと驚きつつも、「歩けない」と言っておけばよかったと後悔する。必死に騎士の後ろについていくのが精一杯だった。



 必死になって追いついた先はひときわ大きな扉がある部屋。その前には別の神殿騎士が控えている。騎士同士で何か言葉を交わしたかと思うと、入室を促された。




 通された部屋は、ナギサが過ごしてきた病室とはまるで違う空間だった。

 華美ではないが品があり、落ち着いた色調で整えられている。大きな執務机が目の前に置かれ、その後ろには大きな窓。陽光が差し込むその窓から見える景色は、ナギサの部屋からは見ることができなかった景色が見える。部屋の右手には来客用なのか所謂応接セットがある。


 そして目の前、執務机とナギサの間には長身の男性が立っていた。

 薄茶色の短めの髪を後ろで縛り、細いフレームの銀縁眼鏡をかけた、無表情系美形男性だ。


『部屋に入ったら、すぐに礼をとり、許可があるまでしゃべらないように』

 先ほどの騎士に言われたことを思い出し、ナギサは慌てて本で学んだ礼の姿勢をとる。


 男性は、そんなナギサをじっと見つめていたが、やがて静かに口を開いた。


「ふむ、学んでいるようだな。君は療養中の身。その姿勢はきつかろう。そこの椅子に座りなさい」


 ナギサが跪いたまま顔をあげると、目の端に小さな丸椅子が用意されていることに気づく。子供用なのか随分と小さい椅子である。

 とりあえず素直に座るのだが、視線をどこに向ければよいのかわからない。そのまま前を見れば神官の服しかみえず、なんだか落ち着かない気分である。


 ナギサが椅子に座ったことを確認すると、目の前に立つ男性が話し出した。


「わたしはこの大神殿で神官長をつとめるウォーリ。ナギサ君といいましたか、クラーヴィア様からおおよそのことは聞いていますが、何か思い出したことはありますか?」


 好悪を感じさせない事務的な話し方だ。ナギサとしてはありがたいのだが、果たしてこの時点で何を言えばいいのだろう。

 そもそもナギサは記憶喪失ではない。単に《女神》の手をとってからのいきさつがわからないだけだ。そして、この世界のことがまったくわからないから戸惑っているだけなのである。


「何も、何も思い出せなくて申し訳ありません。あの、本をありがとうございます。いろいろ学べて助かりました」


 ——話しをそらそう。

 ナギサは話題を借り受けた本にふってみた。


「そうですか。あの本を楽しむことができたのであればそれは結構。では、本の理解についていくつか......」


 話題をそらすことができたのだが、本の内容についてナギサがどこまで理解しているかの問答が始まってしまった。





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