1‐03‐2 知らない言葉
時間もあることだからと、丁寧に読んでいたら意外に時間がかかる。結局、すべてを読み終えるのに数日かかってしまった。
この本は、学舎に十一歳で入学する子供達に貸与するものだからか、かなり易しい表現で書かれている。十一歳の子供相手というより、小学生低学年相手のような表現が多い。物足りなさは否めなかったが、反面、この世界を知らない己にとってはかなり読みやすく、この世界のことが少しだけ理解できた。
主な内容は、元世界でいう社会と道徳。それに、簡単な創世神話だ。
この本によれば、この国は“ヴィルディステ聖国”、首都は聖都イスで、大神殿が国の中心。王制ではなく、巫女姫が最高権力者を務めている。
王政でないためか、王族や貴族といったものはないようだ。上位者への礼を尽くすことなどは記載されているが、それ以上のことは触れてなかった。他国については、ほとんど記載がない。ただ、王族や貴族がないとわざわざ明記されているあたり、他国にはそういう階級社会があるのだろう。
だが、貴族という身分はないとあるが、この国での神官の地位は高いようだ。高位神官への対応や礼儀作法がこと細かに記されていた。
(建前はともかく、実質的な身分制はあるというわけか)
本の後半には学舎で学べること、その先の進路の概略があった。
学舎は神官を目指す子供達が学ぶ場所だが、資質によっては学舎を卒業した後に研究者(学者)になることも可能なようだ。まぁ、医療神官、神殿騎士も神官扱いだというのだから、神官と言っても、帰属が神殿であるだけで、かなり職業選択の自由はありそうな気がする。
学舎で学べることの一つに“魔法”という文字があった。
この二文字を見つけた時、胸がどくりと高鳴るのを感じた。
元世界で散々魔女と罵られ、出来もしない魔法を強要されたことが幾度となくあった。忌避感や恐怖がないと言えば嘘になる。だが、おとぎ話でしかなかった力が、この世界では現実に存在するのだ。
ただ、元世界の知識に倣うなら、魔法と言えば魔力である。魔力がなければ、魔法は使えないだろう。果たして異世界人の己が、すんなり魔法が使えるようになるのだろうか。それでも、その可能性を夢想するだけで、何故だか楽しくなってくる。
もちろん、首をひねる記述も少なくない。
その中で、魔法や魔道具と並んで述べられ、誰もが知っている前提で書かれている単語があった。
——“コーマの技”。
一体、それは何を指しているのだろうか。
国名や巫女姫のことは、クラーヴィアからの名乗りで聞いているのですが、あの時点のナギサは理解が追いついていなかったのです。




