2‐14‐4 呼び出し
今日、ナギサとモリスは午後から街へ行く予定でいた。
いつものように食堂で待ち合わせをしていたのだが、朝から二人してマグナルバに呼び出された。
これは計画変更になるのかと不安になりながらも、呼び出されたからには行かねばならない。
ナギサは魔法学を履修している。モリスは希望はしていたが、今期は履修していない。いったい何故二人が呼び出されたのか?
呼び出された先は学舎、マグナルバの執務室。
通常、休みの時は学舎内に入れない。指輪の認証で特別に通用口から中へと二人は通された。
人気のない学舎内をナギサとモリスは呼び出しの理由をあれこれと考えながら歩く。
「やっぱりカエルの家であったことかな?」
「ん、そうだと思うけど。ゴリツィアやウルサスが呼ばれていない」
「そうなんだよね。でも、それ以外で学舎が休みの時、わざわざ呼び出しって......」
あの時居た寮組4人の内、ナギサとモリスだけが呼び出される理由は何と、これはこれでわからない。
そんなことを言いあいながらも気づけば執務室へ到着する。
戸惑うモリスに対してナギサは慣れた風で中へと入ろうとする。
「ちょっ、ナギ」
「ん? ほら、入るよモリス」
モリスはナギサに手を引かれる形で部屋へと入った。
「来たか。まぁ、そこへ座れ」
マグナルバはチラリと視線を二人に向けただけで、ナギサ達に背を向けて何やらしている。
思わず二人で顔を見合わせてしまうが、大人しく“そこ”であろうソファに腰を下ろした。
部屋の中は、ナギサが前回訪れた時よりも浸食が酷くなっている。モノの洪水だ。このソファにローテーブル、向かいにあるソファと、これらだけを無理矢理その洪水から引き揚げたかのような有様だ。
モリスはあまりの物量に目を白黒させている。モリスが好む魔道具や素材に目がいっているが、それを遮る本や書類の山々。きっとそれらを払いのけて、魔道具や素材を手に取って見てみたいのであろうことは、横に座るナギサでも察せてしまう目つきである。
「待たせたな」
マグナルバはローテーブルに3人分のお茶を置き、自身も二人の向かい側のソファへとゆったりと座る。
静かにティーカップを手に取り、お茶を口にする。
「朝から悪かったな。すぐに済む話だ」
「「あの、どのようなお話でしょうか?」」
ナギサとモリス、尋ねる声が揃ってしまう。
「ふっ、そう心配するな。昨日、アウルスから連絡があってな」
二人は顔を見合わせ、そのまま視線をマグナルバへ戻す。
「ああ悪い。カエルの祖父だ。そう言えばよかったな。もう、尋ねたいことはわかるな?」
「はい。ナギが、あっ、ナギサさんが浄化した件ですね?」
「ああ、堅苦しいから普段通りでいいぞ。で、そのことなんだが......」
マグナルバが問うてきたのは、二人が件の石がどう見えたかということ。鑑定する前と鑑定した時。他には部屋の雰囲気など、それらについて教えて欲しいと言われた。
「わたしはナギにその石を鑑定してみて欲しいと言われて。それで鑑定して初めて汚染に気付きました。言われるまで注意も向けていないものだったので、どう見えたかと言われても」
モリスが先に話し始める。早く話してしまってこの状態から脱したいという感じだ。
「モリスは鑑定前はまったく気づかなかった、ということだな」
マグナルバの言葉にモリスが頷いている。それをうけてマグナルバがナギサに視線を向けた。
「ナギサ、アウルスや今の話ではお前が異変に気付いたという話だな。何故気づいた?」
「えっ、何故と言われても」
影が見えたと言っていいのか自問する。
今はまずい。
魔力探知のこと、モリスがいる場ではまだ言えない。とりあえずそれらしい理由を言わなければ。
「あの、以前浄化の練習をした時にいただいた石ですが、先生は覚えてられますか?」
ナギサはその時の石が今回汚染されていた石とそっくりで、気になった為鑑定してみたと、若干苦しい理由を口にした。
自身の見立てが間違っていないことを確認したかったので、あの場で友人達にも試してもらったと、これは本当にそう考えてのあの時の提案だった。
マグナルバはその時の石のことは覚えていると言い、ナギサの苦し紛れの理由を意外にも真剣に聞いてくれている。では、その時部屋の雰囲気でおかしなものはなかったか。他で嫌な雰囲気は感じられなかったかと、いろいろと尋ねてくる。
「なるほど、大体のことは了解した。また聞くかもしれないが、今日はここまでだな。時間を取らせて悪かった」
ひとまずマグナルバが聞きたいことは一通り聞き終えたようだ。
「では、これで失礼します。お茶もごちそうさまでした」
とモリスが早速暇乞いをしている。余程この場にいるのが辛いらしい。
「あの、先生。魔法のことで少しだけ質問したいのですが。今よろしいですか?」
ナギサはもう少しマグナルバと話したいので、魔法を口実に少し時間が欲しいと頼んでみた。
マグナルバは特に気にした風でもなく了解し、モリスとは食堂で落ち合う約束をした。




