2‐14‐3 大人はずるい
「本当に君達は仲良しだね」
(あっ……)
聞き慣れた優しい声がする。
その声に、落ち込んでいた心が浮き立つのを感じる。
顔をあげ、振り返ると、柔らかな笑みを浮かべたリュークが、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてきた。
「ん、仲良しですよ。たまにクラウスが意地悪ですけどぉ」
《それはナギサだよ。現に今! 僕は何も意地悪していないよ》
二人(?)のそんな言葉を聞きながら、リュークは静かに二人に近づいてくる。
ナギサとクラウスの間に立つと、双方の頭をやさしく撫でた。ナギサがリュークを見上げれば、輝くような微笑みがこぼれてくる。先ほどのナギサとクラウスの会話を知っているのか知らないのか、言葉は何もないのだが。
ふと気づけば、また盗聴防止と読唇阻害の結界が張られていた。
(いつのまに?)
リュークがスクロールを使ったり、呪文を唱えたりしているのは見たことがない。熟練の魔導士であっても簡易詠唱が必要なはず。無詠唱などマグナルバかクラーヴィアぐらいしかできないのではないだろうか。リュークのこの素早さと完璧な結界、いつもどうしているのだろう。
「クラウス、ありがとう。それから、ナギサ。僕が今から言うことが精一杯だ。それで我慢してほしい」
ずっと口を閉じていたリュークが、静かに語りだした。
最初に、クラウスが何も教えてくれなかったのは、リュークとの約束があるから。この件ではできればクラウスに聞くのは止めてほしいとも言われた。これは理由が分かればナギサも納得できたので、リュークへ素直に同意を示し、クラウスに対しても素直に謝罪した。
ナギサが気にしている鑑定偽装は“誰が”ではなく、例の“首飾り”の効力だと告げられた。
首飾りをナギサに渡したのはリュークだ。間接的にはリュークが鑑定偽装をナギサに施していることになると思うのだが。
「そうだね。君を護る為に僕が用意した」
真摯な眼差しが、優しい声と共に返ってきた。
先日リュークが戻ってきた時にも似たようなことを言われた。ナギサを護る為と。その時もナギサの問いかけに答えはなかった。
一体何から護られているのか。
リュークは何を危惧しているのか。
ナギサは危険な状況に置かれているのだろうか。今まで溜め込んできた疑問が、ぽこりぽこりと胸の内に沸きあがってくる。
「——何から、ですか?」
リュークは星金のごとき輝きを放つ双眸をナギサに向けたまま。リュークの上着の裾をつかみ、ナギサは見つめ返した。
「例え話をしよう」
リュークの声が一段低くなり、その表情が真剣味を帯びる。
「シンバの盟友という特殊能力がある。これを授かっている者は非常に少ないんだ。各国や権力者が喉から手が出るほど、その能力を持つ者を欲しがる。故に専用の探索者を用意する国があるぐらいだ」
リュークは、どこか遠くを見るような目で続けた。
もし能力者が大人なら、金や人脈で懐柔しようとし、応じなければ力ずくで奪う。
だが、子供相手ならもっと残酷だ。
「良家の子女なら養子縁組。一般庶民なら金で奉公へ出す。……それでもダメなら、やはり力ずくだ。子供が一人、どこかへ“迷い込んだ”としても、世間はさほど騒がないからね」
「……っ」
「そこで、君のような女の子がその能力を持っていると知れたら?」
「わたし、ですか?」
自分の腕を抱くナギサに、リュークは星金色の双眸を向けた。
「ああ、親もいない、記憶もない。だが、素晴らしい特殊能力を持っている子供だ」
(ん~、まぁ、面倒だから攫ってしまうのが簡単かな。騒ぐ親もいないわけだから)
「そう。だから偽装する。……この例えでは、納得してもらえないかな?」
(……ずるいなぁ)
確かにナギサが主と再会した直後に、この首飾りをもらった。だが、この鑑定偽装にはもっと違う理由がある気がするのだ。だが、理由としては筋が通っていて、これ以上のことが尋ねられないではないか。
「そう、大人はずるいんだよ」
降ってきた声に顔を上げると、リュークは再びナギサの頭に手を置き、幼子をあやすようにポフポフと軽く叩いた。
ナギサがムッとして見返しても、彼はふわりと優しく目を細めるだけだ。
「……やっぱり、ずるいです」
——その夜
ナギサはリュークとの先程の会話を思い出す内に、ある違和感を覚えた。
リュークとは念話をしていたわけではない。そもそも、人同士ではできないはず。だが、リュークはナギサの考えを読み取っているかのようだった。
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