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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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120/313

2‐14‐2 厩舎へ挨拶に行く

 


「今年もよろしくお願いします」


 ナギサはペコリと厩舎の馬丁達に挨拶をしてまわる。

 乗馬の講義とクラウスのことで、なんやかんやと迷惑をかけ、気にかけてもらってもいる。馬丁達は「何をあらたまって」とちょっと驚いた表情をするが、要はナギサの気持ちの問題なのだ。

 元の世界の風習だから、本当にナギサの心の中の区切りだけ。

 こっそりと馬達にも念話を飛ばし、ナギサなりの新年の挨拶をしてまわる。


「あの、ファイヌム様は?」


 一通り厩舎内を回り終えたのだが、普段であれば厩舎を覗けば必ずといっていいほどいるはずの人が見当たらない。

 ファイヌムは相談に乗ってもらうことも多く、お世話になっている人の上位に入る。挨拶を是非しておきたいところだ。


「ああ、預かり馬用の厩舎だよ」


 言われてみれば納得の場所にいる。ナギサは馬丁達に礼を言い、厩舎を後にした。




 預かり馬達がいる厩舎へと歩いていると、向こうからファイヌムがやってくるのが見えた。


(ああ、やっぱりファイヌム様にも魔力のオーラが見える)


 昨日の二人とはまた違った雰囲気であることにナギサは気づく。これは個性なのか? 魔力は指紋のように個人判別ができるものかもしれない。それならば、他の人もいろいろ意識して確認しておくと何かで役立つかもと、あれこれ頭に考えが浮かびはじめる。


 ナギサが足を止め、自分の考えに没頭していると、ファイヌムの方から声をかけられてしまった。


「やぁ、ナギサ君。今日はどうしたんだい? クラウスのところかい?」


「ファイヌム様、今年もよろしくお願いします。年が改まったので、ご挨拶をと思いまして」


 ナギサの言葉にファイヌムが目をしばたたかせる。


「そんなこと言われたの初めてだよ。こういう場合、ありがとう、でいいのかな?」


「そんなに変ですか?」


「変というより、言われたことがないから驚いただけだよ。でも、それならクラウスにも挨拶をしてくるといいよ」


「? クラウスは明日までいないって聞いていますが」


「ああ、予定が変わったらしく、さっき戻ってきたよ。行ってあげると喜ぶよ」


「はい! では、これで失礼します」




 クラウスはリュークと仕事で忙しいと聞いていた。なので、ナギサは4日にでも厩舎を覗くつもりでいたのだが、戻ってきているのであれば別である。

 急いでクラウスの馬房に向かうと、


 《ナギサ、来てくれたんだ!》


 顔を合わせる前からクラウスに気付かれていたようで、念話が送られてくる。


 馬房に入るとクラウスが待ち構えていたとばかりに体を摺り寄せてくる。

 ここしばらく会っていなかったこともあり、ナギサはゆっくりとブラシをクラウスにあてながら、日々の何気ない出来事を話していく。

 クラウスからは、念話でのつっこみやら同意やらと反応がいろいろ返ってくる。ゆっくりと時間が流れていく中で、ナギサはふと気づく。


(あれ? クラウスの魔力って......)


 そう、シンバであるクラウス。その能力を聞いた範囲では生半可な神官よりもはるかに高位の存在。そのクラウスの魔力が感じられない。これはどういうことなのか?


 《ああ、それね。ナギサと同じで偽装しているよ。普通の馬ぐらいの魔力値を装っている。魔力を視るつもりで僕を視れば視えると思うよ。まったく魔力がない馬なんておかしすぎるからね》


 クラウスの言葉に引っかかるモノがある。ナギサが偽装している? 確かに今まで深く考えてこなかったことだ。年の終わりに《女神》に会った時、『鑑定阻害をまとっている』と当然のように言われて、あの時は問うことを忘れてしまった。

 ウーラニアにも初めて会った時にそのようなことを言われて詳しくは教えてもらえなかった。


 《ねぇ、クラウス。わたしの鑑定阻害は《女神》様だと考えているけど、鑑定偽装って誰がかけてくれたの?》


 《内緒》


 即答である。あまりの即答にクラウスをマジマジと見つめるが、クラウスはそっぽを向いて目を併せてくれない。

 そんなに秘密にしないといけないことなのだろうか。


 《もう...... そんな拗ねたような態度をしないで。別に無理強いするつもりはないから》


 そう、癒されに来たのに、落ち込んで帰りたくはない。ナギサはコテリと額をクラウスに当てる。クラウスの体温が感じられる。しばらくこの姿勢で気持ちを落ち着かせよう。




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