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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐13‐5 歓談室

 


「今日は正面玄関から入れるよ」


 カエルの言葉に前を見れば、これは以前皆が言った通り“お屋敷”である。モリス達が話していた通り、かなりの有力者のお屋敷に見える。大きな構えの門。その脇には門番小屋もあり、当然のごとく門番も立っている。

 今日は特別なのだろう、その門は大きく開かれている。奥に見える屋敷は白い壁面に、青を基調とした屋根が美しい。門から玄関までは距離は短めだが、その足元に敷かれた石畳は不思議な模様を描き、その周りの花々や生垣も手入れが行き届き目を楽しませてくれる。


 ウーラニアに遭遇した後、もう少し屋台を見たいというモリスに付き合ってあれこれと見て回ったのだが、片づけ始める屋台がちらほらと出始め、そろそろ帰ろうという話になった。

 そこでカエルが『今日も僕の家に来ない? 今回は家の者に言ってあるから』と言いだして強引に話が決まり、皆でカエルの家までやってきたのだ。


 こんな子供だけで、このようなお屋敷の正門からの訪問。よいのだろうかとソワソワしながらカエルの後に皆で続く。カエルが門番に何かを伝え、そのままカエルに先導される形で門を通り抜けた。




「この部屋だよ」


 カエルが案内してくれたのは、明るく落ち着いたとても広々とした部屋。応接室といった畏まった雰囲気はない。カエル曰く“歓談室”だという。気の置けない友人たちと語らい、同じ部屋にいても皆が好きに過ごしてもよい部屋らしい。

 前回モリス達を招いた時、この部屋を使うつもりだったのだが、前もって確認をしていなかったので既に使用中。結果として応接室を使うことになり、少し堅苦しくなってしまったと、その時のことを思い出しているのか残念そうにカエルが話してくれる。


「あの時の応接室も素敵だったけど、この部屋は解放感があって落ち着くわね」


 ヴルペが部屋をぐるりと見回しながら呟いている。


 部屋に入れば真っ先に目につくのが大きな暖炉。その暖炉を覆うマントルピースの設えも美しい。暖かい色を発しているその暖炉のおかげなのか、部屋の中は心地よい暖かさだ。皆今日はローブを羽織って寒さ対策をしているので、この部屋では少し暑いかもしれない。


 奥を見ると、大きなガラス扉がある。テラス風の設えだ。その先は中庭なのだろう。部屋の4面あるうちの1面がガラス扉で外と接しているのだが、先の暖炉のおかげか、中庭からの冷気は感じられない。


 そして、部屋の中にはそこここにイスやソファー、ローテーブルにクッションが。無造作に置かれているようにみえるが、居心地良く過ごせるよう気配りが感じられる配置だ。


「とりあえず、ローブは暑いと思うから、そこの衣装掛けに......」


 カエルが主人役らしく、皆にいろいろと気を配ってくれる。その言葉にありがたく従い、ローブを外し、ソファーや椅子へと体を預ける。そして、皆が腰を落ち着かせたのを見計らったかのように、お茶とお菓子が用意される。



「落ち着く部屋ね」


 ヴルペがお茶を手に取りながら、カエルに改めて言う。


「そうよね、いろいろ無造作に置いてあるように見えるけど、ちゃんと調和しているのかすごくホッとする」


 ゴリツィアが大きく頷き返している。


「ありがとう。そうやって言われると嬉しいよ。後で飾ってあるものも見てほしいな。僕が置いたものもあるけど、家族や召使達が気に入ったものなんかを飾っているんだ」


 その言葉に周りを見れば、マントルピースの上はもちろんだが、飾り棚やティーテーブルの上、そこかしこに小物が飾ってある。


「君達は落ち着いているなぁ。この間もそうだったけど僕は慣れないよ。カエルの家、立派すぎる!」


「まぁ、確かにウルサスが言う通りではあるわね。村出身のわたし達からすると見慣れない物や縁遠い物が多いから」


「ん、見慣れないって言えば、その暖炉。薪じゃないよね? 大きな石が燃えているの?」


 普通の暖炉であれば薪が燃えているであろう場所に、赤々と炎を揺らす不思議な石がある。ナギサは先ほどからこの石が気になって仕方がなかった。


「あっ! 暖炉石! カエル、すごい! わたし、初めて見た」


 ナギサの言葉に真っ先に反応したのはモリス。しかも、椅子から飛び出すごとく暖炉の前に座り込み、その石をしげしげと観察しはじめた。


「あぁ、モリス、触ると熱いよ!」


 カエルが慌ててモリスの手を引き戻す。恐ろしいことに、モリスはその赤々とした石を触ろうとしていたのだ。


「えっ、だってこれって魔道具で、見せかけの炎なんでしょ?」


 モリスの言葉にカエルがいろいろと補足説明をはじめる。

 確かにこれは疑似的な炎。この暖炉石は範囲を指定すると、その範囲内を暖かくする効果がある。暖炉内で燃えているように見せるため、疑似的に炎を演出している。ただし、子供が炎を安全だと思い込まないように、触るとそれなりに熱く感じるようになっているという。


「へぇ、じゃぁこの石って魔石? にしては大きいよな」


 ウルサスが感心したように暖炉石を眺めながら、カエルに聞いてくる。


「いや。この石は魔道具で、魔石ではないよ。魔力供給用に底に、ここからは見えないよ、魔石が組み込んである。だから、魔燈と同じで、魔石を交換する必要があるんだ」


 カエルがウルサスの問いに答えながら、一度暖炉石の炎を止めてみせた。そこにあったのは意外に小さな石のようなもの。カエルが暖炉石を手に取り、皆に見せてくれる。


「まだ少し熱いから、触るならコーマで強化してからね」


 モリスが早速手に取って、上下左右と観察している。

 横でモリスと一緒に見ている限り、先のカエルの説明と合わせても、電気ストーブならぬ魔力ストーブといったところか。炎の演出がないほうが汎用性が高いと思うけどどうなのだろう、などとナギサはつい考えてしまう。


「ねぇ、カエル。これって炎の演出なしにして、単に暖を取るようにはできないの?」


「できるよ。ていうか、もとはそれだから」


「そうなんだ!」


「そうなのよ、ナギ。この暖炉石の凄いところは、この炎の演出と暖房範囲が指定できることなの」


 モリスが言うには、元になった魔道具は人一人ぐらいの範囲を暖かくすることができるもの。だが持続時間が短くて、燃料が魔石の為、維持費用が高くつくらしい。

 対してこの暖炉石は、範囲も一部屋ほどであれば余裕。持続時間も長く、炎の演出付き。ただし、珍しい魔道具の為、本体費用はとてつもなく高いので、一般家庭にはまずない。大神殿でも貴賓室にあるらしいと噂に聞いているぐらいだという。


「つまり、どちらにしても魔石を燃料に使うから、維持費用がかかって普段使いには向いていない、ってことか」


「そういうこと。魔石の魔力切れ自体は、魔力量が多ければ自分で魔石に魔力を補充すれば買わなくてもいいのだけど。でも、それだけ魔力量があるなら、一人用に限ればコーマで暖をとったほうが楽よね」


 なるほど。確かにそれは言えている。この世界にはコーマというものがあった。まだ1年も経っていないのに、すっかり体に染みついて、移動中などナギサ自身も寒暖差対策でごく自然に使っている。


 暖炉石の話から、モリスが屋台で買ったアレコレへと話は移り、そしてしばらく経てば供されたお菓子の話になったりと、賑やかに、そして穏やかに時間が過ぎていった。




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