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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐13‐4 教えてくれれば



 


 屋台は中央広場に集中している。中央通りは大神殿正門につながるため、年越しの祭りでは屋台を出すことは禁じられている。街の他エリアでも市が立つ場所では屋台が出ているのだが、やはり一番はここ、中央広場——多くの屋台が所狭しと並んでいる。そこにいつも以上に人が集っているのだから、人一人を探すのは大変である。


 子供とはいえ、五人が固まってうろうろしているとかなり邪魔なのだろう、あちらこちらから向けられる非難の視線が痛い。視線を避けるように少し人気がない屋台のほうへと流れていくと……モリスがいた。


「モリス!」


 五人の声に、ビクッと肩を揺らすのがわかる。どうやら自覚があるようだ。




「ごめん! つい夢中になっちゃって……」


 店主と何やら掛け合っていた屋台で、何かを買ったようだ。店主にペコリと頭を下げ、小さな包みを手に五人のほうへ駆け戻ってきた。

 今手渡されたと思しき包みとは別に、モリスの荷物袋は、今にもはちきれそうだ。この短い時間に何をどれだけ買ったのか。


「いい買い物ができた?」


「もちろん! 怪しいものもあるけど、戻ってから鑑定していろいろ試してみたいわ!」


 カエルが優しい。言葉を返すモリスも非常に良い笑顔である。


「そうねぇ……しっかり鑑定したほうがいいわよぉ。今買ったものはよいとして——」


「!!!!!」


 人混みを避けて屋台裏に固まったナギサたちの耳に、喧騒を縫うようにして、いきなり間近で若い女性の声が響いた。


 いつの間にかモリスのすぐ横に、フードを目深にかぶった女性神官が立っている。

 しかも彼女は、驚くモリスを余所に、その戦利品を覗き込んであれこれと論評を始めていた。



 モリスは当然だが、ナギサ達も、目を見開きその女性神官を見つめた。だが……ナギサはその声に聞き覚えがあった。それにフードからこぼれ出るあの群青の髪色。そう、確か最近——


 《ナギサ、わたしだってことは今は言わないで》


 《やっぱりウーラニア様なのですね。お忍びですか?》


 《そのつもりではないのだけど、ここまで人が多いと、ね。わたしがここから立ち去ったあとに教えてあげて》


 《わかりました。あの、これって念話ですよね?》


 《わたしから一方的に繋いでいるの。神様ですからね、これでも》




 ナギサとウーラニアが念話をする一方、神官姿のウーラニアはモリスへの忠告をそのまま続けている。

 だが、ナギサ自身はウーラニアとの念話に気を取られているためか、モリス達の様子は薄い霧の向こうでの出来事に感じていた。

 ウーラニアはナギサに、そしてモリスにも伝えるべきことを伝えたのか、立ち去る様子を見せる。

 このまま雑踏へと紛れ込むのかと眺めていると——


 女性神官はナギサの前に来るなり、驚きに固まっていたナギサの額に軽く口づけを落とし、立ち去り際にそっと耳元で囁いた。


「彼、いい勘してるわ。わたしに気付いているみたいなの」


(彼?)


 ウーラニアの視線を辿ると、そこには目と口を大きく開き、ウーラニアを凝視するカエルがいた。ウーラニアはナギサから離れると、カエルの額へも軽く口づけを落とした。


「ありがとう。黙っていてくれて」


 その一言を最後にウーラニアは足早に人混みの中へと紛れていった。




「ナギ、今の方って」


(ウーラニア様は立ち去ったら話してもよいと言ったはず)


 視線の先のウーラニアは、ちょうど今、すっと人混みに紛れていったところだ。


「カエルの推測通り、ウーラニア様だよ」


「えーーーっ!!」


「ナギ、カエル、どうして教えてくれなかったの! わたし、お礼も言えなかったよ。誰このひと? 何? って、すごく失礼な態度だったよぉ~」


 ナギサとカエルの言葉に、皆が一斉に抗議の声をあげる。モリスに至っては自身の態度を顧みて落ち込んでしまった。


「んと、ごめんなさい」

「ごめん」


 皆の抗議の声に、素直に謝るナギサとカエルである。




 ◇


「お待たせ。あの子が例の子よ」


「なるほどね。ありがとう、ウーラニア」


「どういたしまして。でも、こんな回りくどいことしなくても」


「そうだけど。エクースも気になるっていうからいいじゃない」


「ああ、わたしも気になっていてね」


 今ここには三柱の神がいる。ウーラニア、ミラクルゥム、エクースの三柱。読唇阻害や隠蔽といった魔法を展開し、周りからその正体と会話内容が悟られないようにしていた。

 今もすぐ横を人が通り過ぎたのだが、そこに誰もいない、何もないかのように彼らを越えて屋台に目をやっていた。


 ウーラニアは偶然ではあるが、ナギサとは面識がある。

 ミラクルゥムとエクースは《女神》が呼び込んだという少女を一度見てみたいと常々考えていた。そこで、ウーラニアに声をかけ、今日この場で、ナギサ達を少し離れたところから観察していたのだ。


「わたしのファイヌムが、珍しく興味を示しているんだよねぇ」


「ファイヌムってエクースが加護を与えた子よね? 馬にしか興味を示さない、ちょっと変わった子の。魔法の適性も高いから、優秀な魔導士にもなれそうなのに」


「ファイヌムは、馬をとても大切にしてくれるいい子だよ。シンバ達も懐いているし、助かっているんだ」


「ふ~ん、それでエクースは、ファイヌムが馬以外に興味を持ったのが気に入らない、と」


「違うよ、ミラクルゥム。そこまで狭量じゃないよ、わたしは」


「はいはい。それで、ミラクルゥムとエクース。どう?」


「どうと言われても、ねぇ」


「ああ、あのローブ……」


三柱の視線はナギサが纏うローブに向けられていた。


「そうよね。過保護すぎるわよねぇ……」


そう、リュークがナギサに贈ったローブは完璧だった。神々の鑑定すら弾いてしまうのだから。



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