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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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113/308

2‐13‐3 市

 


 幼いころ、月の決まった日に近所の神社に市がたった。

 祖母が手を引いて連れて行ってくれたことが懐かしい。白い髪は短く切って帽子で隠し、紅い瞳は子供用サングラスをかけて。傍から見ると、病弱な孫を連れた老人が、のんびり屋台巡りをしているように見えただろう。


 実際そんな感じで、祖母は特に何かを買うとか、買ってくれることはなく、見るだけの屋台巡りであった。ただナギサが屋台を覗くことを止めることはなく、好きにさせてくれた。

 まだよくわかっていない子供だったから、屋台に並ぶ物珍しいもの─綿菓子・りんご飴・水風船─が、欲しくて駄々をこねて祖母を困らせていた。


 そんな昔の光景を思い出しながら、この世界の屋台とはどんなものだろうとナギサは想像する。カエルやヴルペから既に何度も聞いているが、やはり実際どんなものであるか見てみたい。




 大神殿の正門から中央通りを南に下る。

 中央通りに屋台は出せない決まりらしく、その手の賑やかさはない。大神殿へ向かう人々と馬車で混雑している。通りの両側は大きな建物がひしめき、昔写真で見た西欧の古い街並みを思い起こさせる。

 どこも扉は閉まっているが、看板状のものが見えたり、ショーウィンドウとは言わないが、窓越しに商品棚らしきものが見えたりする。一般の家というよりも、お店が軒を連ねているのだろう。


 この中央通りをそのまま南下すると中央広場に行きつく。そして、その中央広場の辺りに屋台が軒を連ねていた。


「ここも凄い人混み!」


 モリスが驚きの声をあげる。


 ナギサも人の多さに驚いているのだが、視線は数々の屋台にくぎ付けだ。

 目の前の中央広場の様子が新鮮すぎる。

 連なる屋台の数々。どの屋台にも見知らぬもので溢れている。


 どれもこれもが気になる。売っている小物類は日用品? それとも魔道具なのだろうか? アクセサリーめいたものも数多くある。


 だが、屋台といえばやはり食べ物。それは世界が異なっても同じようで、圧倒的に食べ物を売っている屋台が多い。

 あちらこちらから良い香りが漂い、インパクトある食べ物が目に飛び込んでくる。



 6人とも食堂で集合したにも関わらず昼食は食べていない。空腹は一番のスパイスとばかりに、6人が6人とも早速食べ物を手にしていた。


 ナギサが買ったのは揚げパンのようなもの。それはピロシキのような見た目。一口かじってみると、甘くはなく、少し塩気がある。周りのカリっとしたパン粉状のものがサクサク感を出して、パン自体のふわっとした食感とマッチして美味しい。


 モリスとゴリツィアも揚げパンを買っているが、ナギサのものとは異なりなんだか甘い香りがする。


「それは?」


「甘くて美味しいよ。揚げパンに蜜がかけてあるの。ちょっとお高いけど、こういう時じゃないとね」


「そうそう。村では手に入りづらいしね」


 2人はそんなことを言いながらあっという間に完食してしまう。


 カエル達3人は...... なんだろう、串焼き? お肉らしきものを食べている。モリスも気になるのか、


「ウルサス、それ何のお肉?」


「野兎。食べなれていると思うんだけど、なんかいつもより美味しく感じるよ」


「串に刺してあるだけ、と思ったけど、なんか違うんだよなぁ」


 カエルも不思議だと言いながらも、その表情は満足げである。




 軽く食べ物を口にしたせいか、美味しい香りに惑わされるよりも、屋台に並ぶいろいろなモノが気になってくる。

 モリスは魔道具が気になるのか、ちょっと怪しい雰囲気の屋台に興味津々。ヴルペとゴリツィアはアクセサリーらしき小物が気になるようだ。

 カエルとウルサスが見ているのは...... 武器? ウルサスはともかくカエルについては意外。ナギサは少し興味が沸き、二人の後ろから覗いてみた。


 ウルサスが熱心に店主と話している。手に持っているのは手甲てっこうか。確かマニカという腕に巻く防具のはずだ。話を聞いていると、コーマでの体力強化を補強してくれる魔道具的な防具らしい。ウルサスはあまり魔力が多くないので、この防具が気になっているようだ。

 カエルも真剣にその話を聞いている。カエルは魔導士志望だと思っていたが、こういうものにも興味があるようだ。


「カエル、防具や武器にも興味があるの?」


「! ビックリした、ナギか。そうだね、防具や武器に興味があるというより、騎士に興味がある、っていうのが正しいかな」


「えっ? カエルって魔導士志望なんじゃ......」


「表向きはね。ただ、騎士にも憧れていてさ。向き不向きで言えば魔導士向きなんだろうけど......」


「いいと思うよ。憧れって大事。前向きになれるもの」


「! ありがとう。そう言ってくれると嬉しいな。皆、向いていないって言うからさ」


 伏し目がちに話していたカエルだったが、振り向いてナギサに向けた表情は明るくすっきりとしたものだった。




 しばらくすると、お揃いで髪飾りを買ったヴルペとゴリツィアが早速髪につけてナギサ達に合流する。ウルサスは店主と値段交渉を頑張っていたようだが、無理だったようで肩を落としている。

 後はモリスだけ、と辺りを見回すが見当たらない。


「モリスが見当たらないのだけど」


 ナギサがそう告げると、


「ああ、収穫祭のときも......」


 ゴリツィアが苦笑している。

 先回の収穫祭。やはりモリスが一人でどこかに消えてしまい、屋台をめぐって探したという。その時は小物屋で何やら値段交渉中だったらしい。


「仕方がない。探すか」




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