リテアはいい子③
「リテアちゃんは凄いねぇ〜。もうこんなに作業が進んでるなんて……」
「ふふーん」
ディライトに褒められ、リテアは胸を張って嬉しそうに笑ってみせた。
ぐりぐりぐりぐりと頭を撫でられ、リテアはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。
「私、凄いですか? いい子ですか?」
「凄くていい子だよ〜。でも、後はもう具材に火入れたりするだけだし……他のところに行ってこようね〜」
「はいっ! ……でも、誰のところに行きましょう。天使さんたち……? 父様……の、書類には触らせてもらえないから……大伯母様……?」
「ダメ。マリーツィアのところは、ダメ。いいね?」
ディライトが圧を掛けながらリテアにそう言うと、リテアは若干不服そうながらも、こくりと頷いた。
ディライトがマリーツィアのことを嫌っているのはリテアも知っているし、少しずつ改善はされているものの、その怒りと嫌悪は妥当なものだと、リテアも理解しているから。
不用意に名前を出してしまったな、と少し反省しつつ、リテアは一先ず厨房から出た。
「うーん……レアちゃんと姉様のところは……急に押しかけても、困ってしまいますよね。他には……他には…………」
どうしても思い付かなくて、リテアはむむむと唸りながらヴェルジアの元へと向かった。
天使たちはきっと手伝わせてくれないから、まだヴェルジアの方が可能性はある。
ヴェルジアの執務室に到着すると、コンコン、と扉をノックして、リテアはヴェルジアの返事を待った。
「入っていいよ、リテア」
「失礼しますっ、父様!」
「どうしたの? また来るなんて……」
リテアを部屋に入れるなり、そう声を掛けてきたヴェルジアにリテアは小走りで駆け寄った。
そして、その様子を確認してからぎゅうっと抱き着くと、リテアは嬉しそうに訊ねる。
「父様! 何か、お手伝いできることはありませんか?」
「手伝い? ……んー……お手伝い頑張っててえらいけど、疲れてない? 疲れたらちゃんと休むんだよ?」
「まだ大丈夫ですっ。それで、お手伝いは……!」
「……あ〜……うーん……わかった。これは触らせられないから……お茶を淹れてきてくれないかな? そろそろ休憩しようと思ってたんだ。自分の分も用意しておいで、一緒にお菓子でも食べよう」
「お菓子っ! ……あ、でも……私、もうおやつを食べてしまいました……もし兄様にバレたら、怒られてしまいます」
「そうなの? んー……ちょっとディライトに相談してみるね。とりあえず、一緒にお茶は飲もうか。用意してくれる?」
はい、と元気よく返事をして、リテアはお茶の準備に向かった。
相変わらず元気そうなその後ろ姿を眺めつつ、ヴェルジアはディライトに連絡を取る。
作業と並行してヴェルジアが相談をしていると、リテアが危なっかしい動きで紅茶を運んできた。
ヴェルジアは微笑みながら立ち上がり、リテアから紅茶を受け取って机に並べる。
「……リテア。クッキー数枚くらいなら、特別に許してくれるって。ただ、もう夕食が近いから……食事に支障が出ない程度しかダメだよ。僕も、リテアと同じくらいしか食べないから」
「むっ……兄様ったら、私がたくさん食べると思っているんですね! おやつはもう食べたんですから、節度くらいは守れるのに! 特別に、なんて言葉を付け足さなくても、それくらいわかっています……」
「あはは……食べすぎて夕食が食べられなくなったら、リテアが落ち込むと思って言ったみたいだし……数枚はって許してくれたのも、お手伝いを頑張ってるところを見てたからみたいだよ。あんまり怒りすぎないであげて」
「父様は兄様の味方をするんですか? 父様は、私の父様なのに!」
拗ねているリテアに苦笑いして、ヴェルジアはその頭を撫でた。
ディライトはきっと色々考えた上でああ言ったのだろうが、それでもリテアの顰蹙を買ってしまったらしい。
リテアはむっとして、自分の淹れた紅茶を飲む。
「……美味しくできたので、早く飲んでほしいです」
「ん? そうなの? じゃあ、いただきます……ああ、本当だ、これまでで一番美味しいね……香りがよく出てる」
「えへへ……上手にできてるでしょう? たまに練習していたんですよ! 苦味……渋味? が、出てないでしょう……!」
「これまでのも美味しかったとは思うけど……まぁ、でもそうだね。うん……これまでで一番美味しい」
「……私の淹れた紅茶……いつもちょっと、苦いのに。どうしてみんな、これはこれで美味しいって言うんですか?」
心底意味がわからない、と言いたげな顔で、リテアは首を傾げた。
苦味や渋味のある紅茶は、美味しくなんてないはずだと。
そんなリテアに、ヴェルジアは薄く微笑む。
「大好きなリテアが、一生懸命淹れてくれたものだから。どれだけ苦くても、渋くても、美味しく感じるんだよ。苦味も渋味も、ちょっとしたアクセントでしかなくなるんだ。ふふ……」
「……そうなんでしょうか……。……でも、まぁ、いいです。私、上手に紅茶を淹れられるようになったので! これからは、みんなに美味しい紅茶を楽しんでもらえます!」
「ふふっ、そうだね。……リテア、ほら。クッキー美味しいよ」
「あむ……んん〜っ、んふふふふ……」
幸せそうにクッキーを頬張るリテアに、ヴェルジアは頬を緩めて笑った。




