リテアはいい子④
その日は夕食の後、少ししてから眠り、次の日。
リテアはノルティアナを訪れていた。
元々、レアと少しだけ会って話をする予定があったので、少し早めに来て手伝いをしようと思ったのだ。
リテアは急いでリウの執務室に向かうと、コンコンと扉をノックする。
「姉様、レアちゃん、お手伝いに来ました!」
「あら、リテア? 入って大丈夫よ、レアも中にいるわ」
扉の向こうから聞こえるリウの言葉にリテアは嬉しそうな顔をして、扉から顔を覗かせた。
すると、リウが優しい表情でこちらを見つめていて、レアは少し驚いたような顔をしている。
「……リテアちゃん。早かったですね。ごめんなさい、まだ仕事が片付いていなくて……すぐに終わらせます。そしたら、一緒にお話しましょうね」
「いーえっ! レアちゃん、言ったでしょう? 手伝いに来たんです。何かできることはありませんか?」
「……えっと……ない、です。お客様に働かせるわけにはいきませんから、リテアちゃんはくつろいでいてください」
「……リテア、私からちょっとしたお願いがあるのだけれど、いいかしら?」
レアに手伝いを拒絶され、リテアがしょんぼりしているとリウがそう声を掛けてきた。
ぱあっとリテアは表情を明るくすると、嬉しそうにリウの言葉に耳を傾ける。
「えっと……ね。大したお手伝いではないのだけれど……あそこの棚の下から三番目の段から、インクを持ってきてくれる? そろそろ切れちゃいそうなの」
「はい! わかりました、姉様! 下から〜、いち、にー、さ〜ん♪」
「あっ! リテアちゃん、それくらい私が……!」
「レア。リテアがやりたがっているのよ、それくらいやってもらってもいいじゃない。ね? リテアでも手の届く位置にあるのだし」
「……うぅ……でも、友達を無償で働かせるなんて……」
「姉様とレアちゃんが喜んでくれたら、それが報酬になりますから! ……姉様っ、どうぞ! これで合っていますよね?」
「ええ、これよ。ありがとう、リテア」
リウがお礼を言いながらリテアの頭を撫でると、リテアは嬉しそうに目を細めた。
それに少し嫉妬したのか、レアはリテアの隣に立つと、少しだけ唇を尖らせながらリテアの頭を撫でる。
それに、リテアは更に嬉しそうな顔をしてレアに抱き着いた。
二人ともとっても可愛いので、リウはニコニコしながら両手で二人の頭を撫でる。
「……よしっ。二人とも、私のことは気にしなくていいから遊んでいらっしゃい。そろそろ時間でしょう?」
「あ……すみません、リウ様。予定より、仕事があまり……」
「そうなんですか? 私、今日は時間がありますから、待てますし手伝えますよ!」
「いいの。二人とも子どもなんだから、大人しく遊んできなさい。確かに、予定よりは進んでいないけれど……誤差程度ではあるわ。大きな影響はない。……えっと……私も、深夜まで仕事したりはしないから……ねっ?」
レアがじっとリウのことを見つめていると、リウは目を逸らし、若干嫌そうに、渋々といった様子でそう口にした。
リウの本心としては、残業もしたいのだがこういう時のレアは頑固なので仕方が無い。
残業よりも、優先すべきはレアがちゃんと遊びに行くことである。
「姉様! それでは、レアちゃんお借りしていきますね!」
「ええ、気を付けて行ってらっしゃい。廊下は走っちゃダメよ」
「はぁい! 行きましょうレアちゃん、事前に姉様に中庭の使用許可をもらっているんです! 楽しいお茶会をしましょう!」
「えっ、そんなの私聞いてな……り、リテアちゃん、走っちゃダメですよ!」
「そうでした! えへへっ、レアちゃんと早くお話したくって!」
リテアが笑顔でそう言うと、レアは嬉しそうに頬を緩めてふにゃりと笑った。
◇
それからレアとたっぷりと話をして、満足したリテアはレアとともに執務室に戻ってきた。
するとそこには、リウの他にレクス、そしてレインがいる。
「……あら。お話はもう終わってしまったの? もっとお話していても良かったのに……」
「予定通りに終わらせないと、レアちゃんが困ってしまいますから! ……私たちが話している間に、随分たくさん人が増えたんですね……ええと、皆さまお久しぶりです!」
「こんにちは、リテア。元気だったかい? ……祖父とはいえ、私のことはあまり知らないだろう。緊張させていなければ良いのだけれど……」
先ずレクスが目線を合わせながら挨拶をしてくれて、リテアはにこりと笑った。
そして、スカートをちょこんと摘むと、綺麗なお辞儀を披露する。
「お久しぶりです、おじいさま。お会いできて嬉しいです! おじいさまこそ、お元気でしたか?」
「そんなことを言ってくれるなんて……おじいさまは感激だよ。ほら、手を出して。お小遣いをあげよう」
「わあ、ありがとうございま……わあ!?」
「お父様! お小遣いは構いませんが、あげすぎはいけません! リテアが驚いているでしょう、もう……!」
「す……すまない、リテア。少し喜びすぎてしまったようだ」
「は、はい……ええと、これだけ……貰いますね?」
リテアは気持ち程度に、ほんの少しの量のお金だけを受け取って残りはレクスに返した。
それを見届けた後、次はレインが挨拶をしてくる。
「久しぶり……に、なるかな? 調子どう?」
「はい! お久しぶりです、レインさん! 元気です! 男装してください!」
「……僕はそもそも男なんだけど……今も、してると言えばしてるよ。それなりに正装で来てるし、これで満足してくれない?」
「ダメです、普通すぎます」
「……はぁ……なんで僕にだけ、男装しろって言うの? 僕のこと、女だと思ってる?」
「うーん……華奢だから?」
「リテアぁ……?」
こてん、と可愛らしく首を傾げつつ放たれた言葉に、レインは頬を引き攣らせてリテアを見た。
そしてレインは、溜息を吐いてコツンとその頭を軽く小突く。
「別に僕は、舐められたっていいんだけど……男装は嫌だからね。しないから」
「むぅ……、……わかりました……リテアはいい子なのでっ、我慢します……ぐぬぬぅ……」
「……いい子……いい子ねぇ。いい子になりたいの?」
「はいっ! だって、いつもいつも悪戯しちゃって、周りの人に迷惑かけちゃうから……そろそろ私は、悪戯を卒業するべきだと思うんです」
「……それは、そうだね。うん、自分で気付けてえらいと思う。……でも……他人に迷惑の掛からない悪戯は、してもいいんじゃない? いい子な悪戯ってあると思うんだよ。例えば……んー、部屋を勝手に綺麗にしちゃうとか? 僕はリテアの悪戯っ子なところが好きだから、完全には潰さないでほしいなぁ……決めるのはリテアだけど」
レインはそう言って肩を竦めると、執務机の方に戻って書類を手に取った。
リテアが少し考え込むような仕草を見せると、リウがふと立ち上がり、ぺしんとレインの頭を叩く。
「いたぁい……」
「力込めてないわよ。……リテアがいい子になろうとしているのだもの、悩んでいるならともかく、頑張っている最中に……悪戯っ子なところが好き、とか言わなくてもいいでしょう? ……もしリテアがそうしたいのなら、私も悪戯の内容について、少しくらい助言はできるけれど……」
「……わかりました! 私、そろそろ天界に帰りますね!」
「あ、ちょっと待っ――」
レインの制止を聞かず、リテアは楽しそうに、急いで天界に向かった。
新作
「私」と『わたし』の共同生活
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二人の少女が同じ身体で共同生活をするお話です!
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