リテアはいい子①
リテアという少女は、悪戯っ子である。
いい子な面も持ち合わせながら、しかし凶悪な悪戯を繰り返したりもする、二面性のある少女。
リテアは、そんな現状が許容されてきたことを知っている。
ちゃんと反省しているから、謝れるから、わかってやっているからと、甘やかされてきたことを自覚している。
「……よしっ!」
だから、思い立った今こそが、みんなの愛情に報いるいい機会に違いないのだ。
◇
「兄様、兄様〜」
思い立ってすぐ、リテアはディライトの元に向かった。
ヴェルジアが仕事をしている部屋で、ヴェルジアにダル絡みをしていたらしいディライトを発見して、リテアはぴょこぴょこと自分の存在を主張する。
「兄様! 父様の邪魔をしちゃダメですよ! 私と一緒に行きましょう!」
「……リテアちゃん? どうしたの〜急に……いつもなら、一緒にヴェルくんへの悪戯を考えるところでしょ〜? 何かあった?」
「い……悪戯なんて、子どもみたいなことはしません! 行きますよっ、教えてほしいところがあるんです……!」
「……リテアちゃん、ちょっとおでこ貸してね〜」
ディライトがリテアの額に手を当てると、リテアはむっと頬を膨らませた。
熱を測ろうとするなんて、あまりにも酷すぎるというものだ。
「病気じゃありません! 本気で言っています!」
「え〜……あの勉強嫌いのリテアちゃんが? 悪戯しないのはともかく、自分から勉強しようとするなんて絶対おかしいよ〜……」
「……父様! 兄様が意地悪なことを言います!」
「ふふ……そうだね。ディライト、気持ちはわからないでもないけど……熱が出てないことは確認したんだから、もう言わないであげて。本人が嫌がってるでしょ」
「気持ちはわからないでもないんだ〜?」
「……揚げ足取らないでよ。そりゃ、普段と様子が違うからね。心配にはなるけど……でも、それが悪いものとは限らない。体調が悪いわけでもなければ元気がないわけでもないんだから、僕は見守るだけだよ」
ヴェルジアはそう言うと、リテアに近付いて優しくその頭を撫でた。
少ししゃがんでリテアと目線を合わせ、ヴェルジアは優しい声でリテアに言う。
「リテア。言い方はさておき……ディライトも、心配してるだけなんだよ。怒るのはいいけど、嫌わないであげてね。……言い方は、本当……悪いから……怒るのはいいんだけど……」
「……リテアはいい子なので、嫌いません。でも、やっぱり兄様に勉強を教えてもらうのはやめます。父様、お仕事頑張ってください! 私は母様のところに行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい。今日はこっちで国の方の仕事をしてるから、自分の部屋かリビング辺りに居るはずだよ」
「わかりました! ありがとうございます、父様!」
リテアはぺこりと頭を下げると、慌ただしく部屋から出ていった。
その背中を見送り、ディライトがヴェルジアの方へと振り返る。
「……ヴェルくん……本当に、いいの〜? やっぱり変じゃないかな〜……」
「心配は理解できるけど、今は見守るべきだよ。ディライトは心配しすぎ。様子は変だけどそれは悪い意味じゃないんだから、ちゃんと見ておけばいいだけの話だよ」
「……でも、ヴェルくんの時は……なんか変だな〜って思いながら放置してたら、急に爆発したし……」
「え? ……あ、ああ……あれか……反省を活かしてるのは、い、いいと思う……」
「ヴェルくん、まだボクのこと完全には信用してなくて、急に僕をどうしたいの!? って叫んで暴れ出して……大変だったな〜?」
ニヤニヤしながらそんなことを言うディライトに、ヴェルジアは顔を顰めてディライトを蹴り飛ばした。
◇
一方その頃、リテアはリアの部屋のソファーに腰掛け、仕事をしているリアの顔を眺めていた。
その真剣な顔を、なんだか物珍しく感じたのだ。
「……ふぅ。リテア……退屈していませんか? 随分待たせてしまいましたね」
「退屈なんかじゃありません! 真剣な母様、珍しくて見ていて楽しいです!」
「そうですか? それなら、いいのですが……それで、隣に来たのは……何か用事ですか?」
「私はいい子なので、手伝えることが何かないかな、と思って来てみました! ……勉強しようと思ったのに、兄様が変なこと言うから……」
不満そうにリテアがぼやくと、リアはニコニコしながらその頭を撫でた。
手伝いに来た、とは言うが、少し拗ねてしまって甘えたいというのが本心だろう。
それがわかるから、リアは何も言わずに、一先ずリテアを甘やかした。
しばらくの間抱き締めて頭を撫でていると、嬉しそうなリテアがパッと顔を上げ、にへらと笑う。
「母様、母様。こうしてくれるのは嬉しいですけど……お礼のためにも、何かお手伝いがしたいです」
「ああ、そうですね……そのために、来たんですから。ええと、それじゃあ……リテアなら見てもいいでしょう。書類の整理を手伝ってくれますか?」
「はぁーい! どうしたらいいですか? えっと……」
「こっちがまだ処理していない書類です。ええと……これと、これ……わかりやすい違いがあるのですが、わかりますか? ああ、内容には目を通さなくて大丈夫です」
「違い……うーん……? ……あっ、こっちの紙にはマークが付いてますね! これって……確か、母様の国を象徴するもの……?」
「そうです。こちらは、基本的に私が処理するべきもので、その他は私でなくとも処理できるもの。執務机から適当に持ってきたので、まだ整理が間に合ってなくて……マークがあるものと無いもので、分けてくれますか? 場所は……先にマークがあるものを片付けたいので、マークがある方はこっちに。無いのは、あそこに……できますか?」
リアがそう確認すると、リテアは楽しそうにしながら頷き、書類を手に取って仕分けを始めた。
リアも手近な書類を手に取り、内容を確認しつつちらりとリテアの様子を確かめる。
拗ねてはいたが、きっと何か理由があって手伝いに来たはずだ。
だが、その表情は元気そのもので、その理由も良くないものではなさそうだ。
「……リテア。飽きてしまったら、別のことをしてもいいですからね」
「飽きたりしません! ……でも、ありがとうございます!」
楽しそうに、嬉しそうに笑うリテアに、リアも頬を緩めて書類仕事に戻った。
新作のプロットを書いたりする時間が欲しいので、やっぱり少しお休みします!
再開時期は未定ですが、一週間ちょっとくらいかな? とは思っております。
よろしくお願いします。




