ifストーリー 楽しい学園生活㊱
翌日、リウが教室に行くと、実行委員の子が待っていた。
「あっ、リウさん……! 昨日はありがとう、送ってくれたの提案してみるね」
「あ……そんな、まだ採用もされてないのに、お礼なんていいのよ。それに、一つしか思い付いていないし……」
「一つだけでも充分。とにかくありがとう、採用されるかどうかはわからないけど……結果が出たら、すぐに教えるね」
「ええ。……あ……採用されなくても、どうか気にしないでね。色々と……難しい提案であることは、承知の上よ。……今日も引き続き、考えてみるわね?」
「ありがとう。でも、本当に無理はしなくて大丈夫だから」
リウは気遣いの言葉にお礼を言って、教室へと向かった。
実行委員の子と別れると、リウはゆっくりと息を吐き出す。
その表情は物憂げで、美しく、無自覚にクラスメイトの視線を奪い、見惚れさせる。
教室全体が妙な雰囲気に呑まれた時、なんとも気安い雰囲気でクラスメイトの一人がリウに声を掛けた。
幼馴染であり、リウが見せるこういうところに耐性のあるレインである。
「リーウ、何悩んでるの? 昨日と同じ悩み?」
「わっ。……う、後ろから話しかけないで。昨日とは違う悩みよ……何か用事?」
「用事っていうか……声かけた方が良さそうな顔してるなーって?」
「……なんで疑問形なの? まぁ、いいけれど……」
他のクラスメイトの前ではレインに対して毒を吐けないリウが、レインにだけわかる程度の嫌そうな雰囲気を出して軽く顔を逸らした。
レインはそれを良いことに、リウが顔を逸らした意味もわかっていながら無視をして、笑顔で言う。
「そんなことより……悩みがあるなら聞こうか?」
「えっ。……ああ……その、ありがとう。でも、本当に大したことではないのよ。気にしてくれてありがとう」
「うーん……ここだと、話しづらい? 幼馴染だよ、わかるよ」
「………………あ、ありがとう……でも、大丈夫だから」
全然引き下がらないレインにリウは内心怒りつつ、そう言って周囲からは見えない場所でレインの足を踏みつけた。
それでもレインは顔色一つ変えないので、リウは少しだけ眉を顰める。
「……はぁ。話さないとダメなのね……わかったわ、場所を変えましょう。大丈夫だって言ってるのに……」
リウはそう言って、仕方無くレインとともに人気の少ない場所へと移動した。
そこでリウは周囲を確かめてから、キッとレインを睨む。
「あなたねぇ……! あんなにしつこく聞いてきて……一体何のつもりなの?」
「ごめんね。嫌なのに強く拒否できなくて困ってるの見てたら、ついからかいたくなって……でも、心配なのも本当だよ? 昨日の悩みじゃないんでしょ? どうしたの? あ、教えてくれるまでどこにも行かせないから」
「……この……! あ〜〜……! …………、……み、みんなと……友達になれている気がしない、から」
仕方無くリウがそう口にすると、レインは小さく首を傾げた。
その割に、リウはよく頼られているし、孤立している感じはしないので。
「……リウって結構……人気者じゃない?」
「誰からもある程度好かれている、というだけ。誰も私のことを嫌ったりはしていないけれど……私は頼られたいんじゃなくて、お友達がほしいの……」
「……あ〜……えーと……言い方とか、気を遣わずに言うけど……まぁ、言ってしまえば知り合いが多いだけ、だよね。逆に友達はほぼいない……」
「最後のは余計でしょう! ……うぅ……昨日、お母様に……学園は楽しいかって聞かれて……新しい友達もできたって言っちゃったの。でも実際は、頼りにはされていても友達はいない……どうしてなの。あなたは人気者で、お友達もすっごくすっごく多いのに」
リウが羨ましそうにレインを見ると、レインは苦笑いした。
人気者ではあるのだが、友達がいないことに悩んでいたらしい。
「リウは……友達になるには、高嶺の花過ぎるというか……リウ自身は気さくなんだけど、近付き難いんだよね。高貴な雰囲気があるから……」
「そんなのいらないっ。それに……あなたにはそれが無いって言うの?」
「無い……とまでは言わないけど、少なくはあるんじゃない? 割と不真面目だし。真面目そうなのは見た目だけだからねぇ……リウは根も真面目だし、優しいし……なんか、触れちゃいけないような気がする。触れたら死ぬ儚い妖精扱いだよ。特に異性からはそうじゃないかな……誰々の顔が好み〜なんて失礼な話題は挙がるけど、リウはそういうのに一切挙がらないんだよね。というか、名前を出したら……軽蔑の対象になる感じ……」
はは、とレインが乾いた笑みを浮かべれば、リウは冷めた目をした。
軽蔑されるのをわかった上で、名前を挙げたりしていそうだ。
とにかく、リウに友達ができない理由についてそう説明して、レインは苦笑いする。
「……神聖視されている……ということ?」
「大体そんな感じ。でも……友達になりたいって言えば、友達になってくれる人も多いんじゃない? 友達って言えるほど距離が近い人がいないってだけで、ある程度仲の良い人はたくさんいるでしょ?」
「それは……そう、だけれど。……友達、なってくれるのかしら……」
「なんでそこで自信ないの? 大丈夫だって……ほら、あんまり一緒にいると変な噂立つよ。そろそろ行きなよ。僕はちょっと遅れて向かうから」
レインはそう言ってリウの背中を押し、教室に戻らせた。
実際のところ、リウの異性からの印象が触れてはならない妖精さんなのは、レインの牽制の影響もあったりはするのだが、もし何もしていなかったとしてもリウの評判はそんな感じに落ち着いていたことだろう。
リウの雰囲気は、それだけふわふわしているのだから。
「……さて……適当に時間潰すか〜……」
レインはそう呟き、ゆっくりと足を動かし始めた。




