ifストーリー 楽しい学園生活㉛
教室にて、リウがうんうんと小さく唸り声を上げていた。
隣の席にすら聞こえなさそうなその声を聞き付けて、レインがリウの傍に寄ってくる。
「どうしたの、リウ。そんなに悩んで……」
「……。……はぁっ。あなたに相談するのは癪だけれど……今度の学園祭、どうしようかな……って」
「あれ? 実行委員とかなんだっけ?」
「ううん、お手伝い。色々立て込んでて、準備が遅れているらしいの。それで……案出しくらいならと思って、引き受けたのだけれど……いざ考え出したら、何も思いつかなくて……」
リウはそう言うと、小さく溜息を吐いた。
だが、これもいい経験になるはず、とまた気合を入れ直して考え事を再開する。
「……案出しっていうのは、そもそものテーマとかそういう話?」
「ええ。ここって……学園祭、豪華でしょう。ある程度の統一性を持たせるために、テーマが欲しいらしくて……もういっそ自由とかでいいんじゃないかしらね……」
「もう考えるの嫌になってない?」
適当なことを言い始めたリウに、レインが呆れた視線を向けた。
そして、眉を顰めているリウの顔を覗き込みつつ、レインは言う。
「そうだねぇ……豪華にするために統一性が欲しい、というよりは……テーマを決めることで、内容を制御したいように見えるな」
「……ああ。私やあなたのように……身分が高い人も多いわけだし、やろうと思えばどこまでも行けてしまうものね。本質を捉えるなら、確かにそっちの意図の方を考えて……ふむ。一応、クラスに分かれて出し物をすることにはなっているけれど……複数のクラスが合同で出し物を用意した事例は少なくなかったはずね。……いえ、学園側の意図としては内容の制御だとしても、今の実行委員がどう思っているかは……」
色んなところを気にしているリウに、レインは呆れた視線を向けた。
そういうところは、リウの美点ではあるのだが、レインとしては気にしすぎだと思うのだ。
「……もう少し、一緒に考えようか?」
「いらない。あなたには頼りたくないの、友達と会話でもしてきたら?」
「……友達……?」
「ど、どうしてそんな反応をするの。いないわけではないでしょう? 知ってるんだから、人気者なの」
「や〜……単なる人付き合いというか……リウに比べたらどうでもいいかな……」
「……」
リウはちらりと周囲の視線を確認すると、レインに冷たい目を向けた。
少なくとも相手の方はレインのことを友達だと思っていそうなのに、その言いざまはあまりにも失礼だろう、と。
少しリウが怒っているのを感じてか、レインは困った表情で弁明する。
「嘘、嘘だから、ただの冗談……! いやリウに比べればどうでもいいのは確かなんだけど、だからと言って別にぞんざいな扱いをしてるわけじゃなくて……!」
「どうして私に対して弁明を? どうでもいいと思っているわけではないのなら、楽しく談笑でもしていなさいな。私は考え事で忙しいの」
リウはそう言ってレインを追い払うと、再度考え事に集中し始めた。
テーマを、とは言われたが――
「……例年通りではつまらないし、時間が無いのなら……いっそ、全て融合させてしまったら早いんじゃないかしら。テーマは……たとえば……全体の調和とか? それっぽくないから、言い方は変えるとして……」
うん、とリウは満足げに頷いた。
もちろん、これが実行委員会の意図にそぐわないのであれば却下されるだろうが、提案くらいはしてもいいだろう。
「毎年、どうせ廊下も校庭も体育館も全部飾り付けるのだし……やることを完全に統一しても変わらないものね。ふふっ……確か、放課後はすぐに実行委員会の集まりがあるから難しいって言っていたし……スマホでいいわよね」
リウはそう呟き、時間を見てから次の授業の準備を開始した。
◇
それから放課後になり、リウは帰り道を歩いていた。
その後ろから、笑顔のレインが着いて来ている。
「リ〜ウっ、今日は一人なの? 危ないよ?」
「……」
「無視? 酷いなー……ねぇ、結局案って纏まった? あ、後ろから車来てるからもうちょっと寄った方がいいよ」
「……」
既に十分寄っていたので、大丈夫だと思うけど、とリウが思いながら足を止め、くるりと振り向いた。
無視を決め込んでもへこたれず、平然のように立っているばかりか反応してくれたことに嬉しそうにしているレインがそこにいた。
本当に鬱陶しい、と思いつつリウは溜息を吐く。
「付き纏わないで……ふん、お父様とお母様、それからおじさまとおばさまにも言い付けてあげるわ。レインがストーカー行為をするって」
「僕のことが嫌いすぎて目曇ってるよね、リウって。これ別にストーカーじゃないと思うんだけど。堂々としてるし、何もしないよ?」
「家まで着いてくるんでしょう」
「女の子一人で歩くのは危ないって。家もう知ってるし、家まで着いていくからって何かある?」
「……一人じゃないもの」
「なにそれ怖い。どこをどう見ても一人だけど?」
リウの無理のある言い訳にレインがおどけた態度でそう返し、その隣に並んだ。
そして、顔を顰めているリウのことを気にすることなく、レインは上機嫌に笑う。
「リウを一人で歩かせるわけにはいかないからね」
「……免罪符を笑顔で使わないで……」
リウは嫌そうにそう口にし、早足で帰路を急いだ。




