レインの勇者育成スパルタ指導?⑲
その後、数日して。
ユウはレインとレイシェが住んでいる洞窟に足を踏み入れると、きょろきょろと周囲を見回した。
「おぉ……意外と……人がたくさんいるんだな」
「ああ、言い忘れてた。ここは特殊な環境で、研究をする人たちがいっぱいいるんだよ。嫌だったら別のところに行って、わざわざこんなところにいる必要なんてないんだから。リウも、諸々手配してくれるはずだよ」
「あっ、嫌ってわけじゃないんだ。ちょっとびっくりしただけで……」
「……そ、そんなに……えっと……僕たちのことが好きなの?」
少し照れくさそうに、レインはユウに質問した。
ユウはにへらと笑うと、それにこくりと頷く。
その様子は堂々としていて、恥ずかしさなんて微塵も感じていない様子のユウに、レインは眩しそうに目を細める。
こんなに純粋な好意を向けられることは、家族を除いて久しく無かったことだから。
ディライトも友達として親身にしてくれているが、悪友的な立ち位置なので、ユウの子どもらしい無垢な好意とは別物なのだ。
嬉しいような、気まずいような、そして自分はこんないい子に慕われるべきではないような、なんてことを思い、レインは複雑そうな表情になった。
レイシェはそれを静かに眺め、苦笑いする。
『……お兄様がその意識を持ち続けることは、とても……良いことですわね。とはいえ、罪悪感に押し潰されないよう、気を付けてくださいまし』
「なんで何も言ってないのに見抜かれるかな……レイシェは妹なんだから、ユウの前くらいはお兄様を立ててくれてもいいんじゃない?」
『今更でしょう?』
あっけらかんと返されて、レインはなんとも言えない表情になった。
ユウとも一ヶ月間過ごしてきて、レインはもちろん情けない姿も見せてきたので、レイシェの言葉は至って正しいのだが。
「はぁ……それはそうなんだけどね……あ、着いた。いい? ユウ、嫌になったらいつでも言うんだよ。本当、狭いから。あの屋敷とは雲泥の差だからね。大して無かった期待が悪い意味で裏切られるくらい!」
「わ、わかったから……自分の家をそんな風に言わなくても……なんか、会ってばっかりの時みたいだな」
『まぁ、そうですわね! いいですこと? お兄様、ユウ君を心配するあまり、自分を疎かにはしないことですわ! でないと、ディライト様にまた同じことで叱られてしまいますからね!』
「それはめんど……コホン、嫌だね。はぁ……わかったよ、腹括るよ……これだけ言ったんだから、もう嫌ってほどわかったよね。じゃあ……中にどうぞ」
レインは少し嫌そうにユウを本来の家へと招き入れると、ユウは少し緊張した面持ちで、お邪魔します、と小さく呟いて中に入った。
レインの言い草の割に家は綺麗に整っているし、言うほど狭くもなかった。
ちょくちょく、レインが貴族家の出身であることは聞いていたので、感覚がおかしくなっているのだろうとユウは自分で納得しつつ、嬉しそうに笑う。
「ここが、レインさんとレイシェさんがいつも過ごしてた場所なのか……! なんというか……穏やかで、過ごしやすそうなところだな!」
「あ、ありがとう……洞窟の中にあるから、陽が差し込まないのが難点だけどね。日光を浴びる時は洞窟の外まで出ないといけないから、ちょっと大変なんだけど。……身体にも良くなさそうだし」
「へー……なぁ、こっちの部屋は?」
「そっちは僕の部屋。大したもの置いてないよ、贅沢できないから必要最低限。見ても面白くないよ」
「見てもいいか?」
「ダメ」
笑顔で即答されて、ユウが面食らったような顔をした。
却下されるとは思っていなかったらしい。
「……ちぇ〜……じゃあ、レイシェさんの部屋は?」
『わたくしのお部屋は……ふふ、お気に入りのぬいぐるみがいくつか置いてあるくらいですわ。見ていかれますか?』
「行く!」
興味津々でレイシェとともに部屋に入っていくユウを横目に、レインは自分の部屋に入った。
そして、ベッドの傍に置いてあった小さな箱を手に取り、中身を見る。
箱には、小さな紫色の水晶と透明な水晶がいくつか入っていた。
レインの魔力の器が壊れてしまわないよう、リウが用意してくれていたものである。
ちょくちょくこっちに戻ってきて魔力を注いでいるので体調は問題ないが、一応ユウに見られないように隠しておこう、とレインは棚の奥底にしまい込んでおく。
物が無いので普通に見えているが、たぶん大丈夫だと信じることにしてレインは部屋から出る。
「……家族みたいな人増えて、本当にいいのかな……」
「へへ……レインさん、俺のこと家族みたいだって思ってくれてるんだな?」
「うわっびっくりした。扉の前で待ち伏せないで……はいはい、思ってる思ってる。……たぶん、こういう話したくないんだろうけど……ユウ。本当に良かったの? この世界に留まるってことは、もう元の世界の誰にも……」
「……いいんだ。元の世界のことは……いい。レインさんとレイシェさんが、これまでの人生で一番、俺に優しくしてくれた人だから」
ユウは目を逸らしながら、言いづらそうに口にした。
少し誤魔化すような態度で、だがその言葉に偽りは無いとわかる。
わかるからこそ、レインは苦々しい表情になった。
だってそれは、この幼い少年が、今までまともな経験をしてきていなかったという証明に他ならないから。
元の世界から急に引き剥がされ、わけもわからぬまま辛い特訓をうけさせられて、それでもなおレインとレイシェが一番優しいと言うのだから。
「……大変な思いをしてきたんだね。僕もレイシェも……国王であるリウも、元の世界に無理矢理帰らせるようなことはしない。だけど……この世界の住民になると決めたなら……ユウの話を、聞かせてほしい」
「…………わかった」
静かに踏み込んできたレインに、ユウは目を伏せながら小さく頷いた。




