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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編

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レインの勇者育成スパルタ指導?⑰

 最初に仕掛けたのは、リウの方だった。

 ユウがまだ状況の把握すらもままならず、動揺している間にリウは腕をゆっくりと振り、魔法の矢をユウへと降らせる。

 話し合いの余地を残してはいけない。

 もしもユウが話し合いの余地があると感じてしまえば、きっとユウは戦いよりも話し合いを優先してしまうだろう、と、レインからはそんな忠告を受けているから。


「なんで、勇者と魔王だからって戦わないといけないんだ……!? 恨みは無いんだろ!?」

「そんなことを言っている余裕があるの? では、様子見はさっさと切り上げましょうか」


 リウは余裕綽々にそう告げると、一気にユウとの距離を詰めて近接戦を仕掛けた。

 魔王らしさの演出の一つとして、リウは今魔剣を扱っており、巨大なそれをリウは大振りでユウへと振るっていく。

 ユウは必死になりながらそれを捌き、隙を見て攻撃を仕掛けようとするが、リウはそう甘くはなかった。

 これはユウに掛けられた魔法を騙すための戦いでしかないが、だからと言ってリウは必要以上に手を抜くつもりもない。


 ――だって、彼はレインの弟子である。


 楽しませてくれなければ、とリウは心の中で呟き、その感情をしっかりと表情に乗せる。

 それは魔王らしいものだと、リウは理解しているから。


「……あ〜!! 諦めるつもりはないんだな!?」

「ええ、そうよ。私が諦める瞬間は、敗北を味わったその時だけ。その後でなら、なんとでも言えばいい。それは、勝者の権利なのだから」

「なら勝つ! ……すぅ、はぁ……」


 ユウは剣を構えて深呼吸すると、静かにリウを捉えた。

 良い目、とリウは目を細め、丁度いいかと攻撃を受ける心の準備をする。

 もしその攻撃に自分が納得行ったのならば、そこで切り上げよう、と。


「……はッ!」


 それは、シンプルな攻撃だった。

 剣に炎を纏わせて、真っ直ぐ振るうだけの攻撃。

 だが、ちゃんと真剣に戦っているのだろう――それには、ちょっとした小細工が仕掛けられていた。

 リウが魔剣を構え、そして――その立ち位置が、ほんの僅かにずれる。

 ユウの剣の先が、リウの頬を掠めた。


「……! …………転移で、私の位置を……」


 リウは即座に状況を把握し、口に出す。

 そして、にいっと、その口元に深い笑みが刻まれた。


「……ふ、ふふっ……ふふ、ふはっ、あはははははははは! ああ……なんて素晴らしいの! その年齢で、こんなにも器用なことを!? ああ、ああ、ああ! あははははは! もっとよ、もっと見せて頂戴な! 一緒に、遊びましょう!?」

「えっ、うわぁっ……!?」


 リウが興奮を一切隠すことなく魔剣を振った。

 ユウはそれに焦り、目を白黒させながら魔剣を躱そうとする。

 だが、ユウが動き出すよりも先に、リウとユウの間に人影が割り込んだ。


「――絶対、こうなると思った……!!」


 ひどく苦々しい顔をしたレインである。

 リウは、頬に傷を負った。

 事前に魔法で小細工をしておいて、リウはほんの僅かな傷だけでユウの勇者としての役目が果たされるようにしておいたわけだが、レインの見立てでは、リウはユウのことを過小評価していた。


 その状態で、ユウがリウのお眼鏡に適うようなことをすればどうなるか。

 その結果は、現状を見れば火を見るより明らかである。


「えっ……な、なんでここにレインさんが? どういうことだ?」

「話は後! とりあえず落ち着いて……」

「あらレイン、私の邪魔をするのね。なら貴方でもいいわ、剣を取りなさい」


 リウは話を一切聞かず、ぽいっと地面に剣を放り投げた。

 テンションが上がりまくっておかしくなっているリウに頬を引き攣らせつつ、レインはちらりと地面に落ちた剣を見る。


「僕に否はないけど、とりあえずユウに諸々説明――」

「あなたと殺り合うのは久しぶりね! ふふっ、あははははは!」

「話聞いてっ――わっ、と!」


 一切話を聞いていないリウがレインが剣を取るのも待たずに斬り掛かってきたので、レインは地面に落ちた剣を足先で蹴り上げ、その斬撃を躱した。

 躱した先で剣を掴み、レインは目元を引き攣らせる。


「……レイシェ! ユウの保護!」

『りょ、了解ですわ!』


 呼び出されたレイシェが動揺しながら二人との距離を取り、ユウを抱き上げた。

 結界を配置してなんとか一息つけるようになると、レイシェは申し訳なさそうにユウを見る。


「れ……レイシェ、さん? ……な、何がどうなってるんだよ……?」

『ごめんなさい、混乱していますわよね。後ほど、お兄様やリウからも謝罪があるとは思いますけれど……申し訳ありません、ユウ君。リウは……あそこにいる魔王は、悪人ではありませんの。ユウ君が帰れるように、演技をしてくださっていたのですわ。とはいえ、わたくしたちも隠し事をしていたわけですから、怒るのは当然ですけれど』

「……えっと、まだちゃんとわかってないけど、怒ってはない。戦う理由がはっきりしてなくて、不思議に思ってたから……ちょっと納得もしてる」


 ユウはそう言うと、ちらりとリウの方を見た。

 リウは楽しそうに、かつ狂ったように笑っているので、ユウはそっと目を逸らす。


『……リウには後で、絶対に謝らせますわね』


 レイシェはそう言うと、少し遠い目になりながら二人の戦いを眺めた。

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