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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編

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レインの勇者育成スパルタ指導?⑯

 リウに報告をしてから、数日後。

 先日、魔法でリウから準備完了という旨の連絡が届き、レインはせっせとユウをリウのもとへと送る準備を進めていた。

 リウから伝えられた作戦概要としては、適当な名目でユウを人目に付かない場所に連れていき、暗部に所属するリウの配下がユウを気絶させ、城へと誘拐してしまう、というものである。

 レインが介入するとユウに怪しまれかねないので、レインは予め城に移動しておき、見守ることに徹する手筈となっている。


 ――と、いうわけで。


『ユウ君、もし良ければ……なのですけれど。買い出しに付き合っていただけませんこと? 昨日、お兄様に調味料を切らしたことを伝え忘れてしまって……買い出しに行く必要がありますの。それから、お兄様がご不在ですので、お菓子をたくさん買って、たくさん食べてしまいましょう! ふふっ、今ならお兄様に食べ過ぎを咎められることもありませんわ!』

「絶対怒られると思うけど……まぁ、いいか。いつもたくさんは食べさせてくれないもんな! 準備してくる!」

『ええ、わたくしも準備を進めますわ』


 そう言いながらレイシェはユウの背中を見送り、ほっと息を吐き出した。

 レインなら怪しまれるが、レイシェなら大丈夫だろう、という判断で、ユウを人目に付かない場所に連れて行く役目はレイシェが担うことになったのである。

 幸い、レイシェはレインに隠れてこそこそと裏路地の雑貨屋なんかも探し出しているし、それをユウに話すようなこともあったので、実際適任ではある。

 とはいえ、レイシェとしては、緊張するから遠慮したかった、というのが素直な感想ではあるが。


 だが、緊張してばかりで怪しまれたりするわけにはいかないので、レイシェはもう一度息を吐き出すと、テキパキと準備を進め、ユウとともに屋敷から出た。

 先ず、二人は普段からお世話になっているお店で調味料を買うと、顔を見合わせて楽しそうにどこのお菓子から買うかの相談を始める。

 そして、レイシェは始めに幾つか表の通りにあるお店を何件か巡ってから、いつもと変わらない声色でユウに提案した。


『ユウ君、裏の方にも行ってみませんか? 美味しいお菓子を売っているお店があるんですのよ!』

「裏? それって……もしかして、レインさんに内緒で食べさせてくれたやつか!?」

『ええ、あれはユウ君のお気に入りでしたわね。ですけれど……通り道に一軒お店がありますから、そちらから行きましょうか』

「わかった! そのお店は、どんなお菓子が売ってるんだ?」

『素朴でシンプルなお菓子がメインですわね。ユウ君が食べたことがあるのは……クッキーだったでしょうか。可愛い動物型だったはずですわ』

「……ああ! あれか、美味しかったなぁ……!」


 ユウが目を輝かせながらクッキーの味を思い浮かべていると、ピクリとその肩が軽く跳ねた。

 レイシェはそれに気付きながらも、気付いていないふりをして笑顔を浮かべて会話を続けようとする。


『ユウ君。クッキーの他には何を買いましょうか』

「待って、レイシェさん。なんか、人に囲まれて……うっ!?」


 トン、と首に衝撃が走って、一瞬でユウは意識を手放した。

 レイシェは心配そうにそれを見つめながら、ユウの意識を奪った人物に対して、軽く頭を下げる。


『ユウ君をよろしくお願いたしますわね。勇者である以前に子どもなのですから……どうか、丁重に扱ってくださいまし』

「ええ、わかっているわ」


 聞き慣れた声がして、レイシェは目を丸くした。

 黒い衣服に身を包み、全身を隠しているその人物を見つめていると、その人物はフードを外してみせる。

 すると思った通り、ユウを気絶させたのはリウだった。


『……ちょ、っと、待ってくださいまし……り、リウ?』

「ええ、そうよ。ふふ……あのね、気付いたの。こういうの、私がやるのが一番手っ取り早くてリスクも少ない、って」

『そ、それは……それは、そうかもしれませんけれど……! いくらなんでもそれは……』

「ああ、大丈夫。配下たちにお願いする前に気付いて、そのまま来ただけだから。迷惑は掛けていないわ。……レインといいレイシェといい、どうしてそんなに慌てるの?」


 リウはそう言って首を傾げると、まぁいいわ、と呟いて、そっとユウを抱え直した。

 そして、レイシェに向かって微笑むと、その頭を撫でる。


「安心して、不必要な怪我はさせないから。演技として必要な、必要最小限で済ませるわ」

『……はい……よろしくお願いいたします』

「ふふ……そんなに心配そうにしないで。ちょっと……その、私が……興奮しすぎちゃった時のために……レインがいるのだし」


 リウは目を逸らしながら微妙に安心できないことを言い、誤魔化すように笑った。

 興奮しないとは断言してくれないらしい。


『……もういいですわ。安心はできませんけれど……わたくし、リウのことは信じておりますもの。ユウ君をよろしくお願いいたします』

「ええ、任せて!」


 リウは笑顔で頷くと、ユウを連れて今回のために用意した場所へと向かった。



 そこは、リウが生み出した空間の中に設置された、巨大な城。

 その玉座の間で、ユウは目を覚ました。


「……う……」

「ようやくお目覚めね、小さな勇者さん」


 からかうような声が聞こえて、ユウははっと顔を上げた。

 正面、玉座に腰掛けるは、淡い金色の髪と二色の瞳を持つ、美しい少女。

 だが、その美しい顔には、愉悦に浸ったような感情が浮かんでいる。


「……レイシェさん……レイシェさんは、どこだ!?」

「……ああ……一緒にいた子のこと? 大丈夫、危害は加えていないから。ふふ……私の目的はあなたよ、勇者。同行者に興味は無いの」

「……あなたが……魔王、なのか?」

「ええ、その通り。……あなたのお師匠様に連絡をしようとしているのね? 無駄よ、既にそれは対処済み……ここから出たいのなら、私と戦ってからになさい」


 少女――リウがそう言い、武器を手にして玉座から立ち上がった。

 そして、ゆっくりとユウの方へと近付いていきながら、名乗る。


「魔王、リウ・ノーテル。恨みはないけれど、勇者であるあなたは私の敵……容赦はしないわ」


 そう言って、戦いの火蓋は静かに切って落とされた。

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