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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編

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レインの勇者育成スパルタ指導?⑭

『お兄様。一体、どうして……』


 心配そうにそう口にするレイシェに、レインは歩みを止めて振り返ると、ふっと笑った。

 そして、静かな声で、レイシェに確認する。


「気付いてる? ユウが……元の世界について、一言も口にしないこと。家に帰れないのに、焦りも修行に対する熱意も無いこと。ユウは……数日間修行を始めなくても、急かしたりせず、くつろぐだけだった」

『……ええ……気付いていましたわ。口では修行をしないと帰れないと言いながら……この世界のことを学ぶことにとっても夢中で……あまり、帰りたいとは思っていない様子……でしたわね』

「帰りたくないんだろうね」


 レインは困った顔をしながらユウがいる部屋の方を見ると、溜息を吐いた。

 そして、苦笑いを浮かべながら言う。


「本当に、似てる……一番最初の僕と」

『一番最初? ……と、なると……確か、アージェストリの初代公爵……でしたわね。その時のお兄様と、ユウ君が似ていると?』

「うん……一番最初は、本っ当に酷くてねぇ……幼少時代、僕は……物心付いたときから、奴隷として生きてて。従わないと死んじゃうから、必死になって……同じ境遇の子もいたけど、馴れ合いなんてしていられないくらい余裕が無くて、仲間なんていなくて……その上、僕は、奴隷なのに妙に賢くて、綺麗な容姿をしてて、色々……器用で、才能があって。誰からも疎まれてたんだ。居場所がどこにも無かった。だけど……少し経って、僕を奴隷として扱ってた奴らが殺されて、僕は救出されて……あの時、鏡なんてなかったけど……水面に映った、初めて僕が自分の顔を見た時と……同じ目をしてる。孤独で、寂しそうで……だけど、ほんの少しだけ、希望が見えた時の目」


 過去を懐かしむように、レインは目を細めて語った。

 過去のレインは、まだ幼いにも関わらずこの世界に絶望していた。

 きっとここから抜け出せないまま一生を終えるのだと、そう思っていたのだ。

 だが、絶対的な存在だった〝主人〟は呆気なく死んで、レインは救われたのだ。

 当時、レインは本当に救われたのかすらも疑っていて、助けてくれた人たちにも懐疑的だったが、僅かながら希望を抱くことができていた。

 その瞬間のレインと、ユウは同じ目をしているらしい。


 レイシェは少し困ったように目を伏せると、ゆっくりとユウが居る方向を見る。


『……良いこと、と捉えてもいいのでしょうか』

「僕の場合は良いことだった。けど、ユウの場合……断定はできないね。あくまで同じ目をしているだけで、その内心まで同じとは限らないから。……ユウはまだ幼い。例えば……そうだな、家族と大喧嘩をした直後の召喚だったりしたら、ユウは元の世界に居場所が無いと感じてもおかしくない、そうでしょ? ……もっとも、この場合は時間が解決してくれるだろうけど」


 レインはそう言うと、ゆったりとした足取りでユウが居る部屋の方へと足を進め始めた。

 レイシェも慌ててそれに続き、隣に並ぶと溜息を吐く。


『結局のところ、今は結論を出せないというわけですわね』

「うん、人の心の問題だからね。単なる推測だけで他者が断定して結論を出せるわけもない。ただ……理解を深めるために必要な時間だったとは思うよ? 少なくとも、現在のユウが元の世界に居場所がないって感じているのは確かだからね」

『ええ……ユウ君が自分から話してくれるといいのですけれど』


 はぁ、ともう一度溜息を吐いたレイシェが、ユウが居る部屋の扉を開けた。

 ユウはソファーでくつろぎながら扉の方を眺めていたようで、扉が開いたのを観てか、あ、なんて声を小さく零す。

 レインはちょっとお行儀の悪い姿勢になっているユウに少し眉を顰めると、わざとらしい笑顔を浮かべてみせる。


「……ユウ? あれこれぐちぐち言うつもりはないけど……行儀の悪さ、前にも注意したよね? あの時治すって言われた覚えがあるんだけど……気のせいかな? 自分から約束したなら、破っちゃダメだよね?」

「あっ……ご、ごめん。話し声が聞こえたから、つい気になってさ……」

「……あー……内容、聞こえた?」

「え? ううん、聞こえてないけど」


 不思議そうにするユウにレインはそっか、とだけ呟くと、ユウの隣に腰掛けた。

 そして、足を組むと、隣を向いてユウの頬を摘む。


「ここで行儀悪くするくらい、僕は気にしないけど……約束は破っちゃダメだよ」

「うん……ごめんなさい。約束は、なるべく破らないようにする」

「ならよし。さて……修行しようか。ユウは帰らないといけないもんね」

「うん……修行しないと、帰れないんだもんな」

「……」


 修行しないと、帰れない。

 そう言いながらも、ユウの視線はレインからは少し逸れていて、目が合わなかった。

 その声もどこか言い聞かせるような響きを帯びていて、レインはそっとレイシェに目配せをする。

 レイシェはそれに浅く頷いて応えると、ユウの傍にしゃがみ込む。


『ユウ君。もしわたくしたちに言いたいことがあれば、いつでも遠慮なく言ってくださいまし。……まだ、少し遠慮しているのは……わかっていますから』

「あ、ありがとう……」


 レイシェが踏み込みすぎない程度に言えば、ユウは嬉しそうに頬を緩めて、少し照れながら外へと走っていった。

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