レインの勇者育成スパルタ指導?⑫
レインが洞窟で研究員たちに挨拶をし、食材を持ってのんびりとした足取りで屋敷に帰ると、既にレイシェは目覚めていて、朝食の準備に取りかかっていた。
レインは一言レイシェに声をかけると、持ってきた食材を適当な場所に保管しつつ、息を吐き出す。
「はぁ……あ〜〜……遠いよねぇここ。あっちから食材持ってくるの大変だよ……レイシェぇ、労って〜」
『まぁ、お兄様ったら……お疲れ様ですわ。いつの間にか帰ってきて、食材の回収までしてきてくださったのですわね』
「うん。面倒だけど、腐らせるわけにもいかないし……しょうがないんだけど、ほんと大変。遠いよ……誰かに頼んじゃダメかなぁ?」
『わたくしは良いと思いますが、それを良しとしないのはお兄様自身でしょう?』
「…………まぁ、ねぇ……」
レインはレイシェの指摘になんとも言えない顔をすると、遠い目をした。
今回に限っては、屋敷への一時的な引っ越しだってレインの意思ではなくリウの指示である。
食材を運んでもらうくらい、きっと過度な要求ではないのだろうが、レイン自身がその甘えを許せなかった。
自分は大罪人で、許されざる存在で、奴隷なのだと。
自分自身に対してそんな認識をしているレインは、当然の要求すらも許せない。
レインは、そう自分を客観視しながらディライトの言葉を思い出す。
自分自身に目を向けろ、とディライトは心配そうに、真面目に怒っていた。
だから、レインは自分自身に目を向ける――
「……僕にそんな資格無いな」
目を向けた上で、レインが出した結論はこれだった。
別にディライトは、レインが自分自身を軽視し、感情を無視してこき使うことに対して怒っていたのであって、レインの自分自身の評価を上げろだとか、そんなことは言っていなかった。
だからたぶん、これでいいのだろう。
だってちゃんと、自分に正直な結論を出したのだから。
「……よーし……暇になった! 何かやることあるっけ?」
『教材の準備か……あるいは、お屋敷のお掃除などいかかですか? わたくし一人では、手が回らないのですわ』
「えっ、一人でやろうとしたの。声掛けてよ……任せて、料理はてんでダメだけど、他の家事はできるから! ……知ってるか」
『はい、知っています。ふふ……お兄様ったら、わたくしに褒めてほしいのですか? ここ最近、いつも自慢げに他の家事ならできると……』
「あはは……いやね、こっちに移ってから料理はレイシェに任せるしかなくなってるから、他のことで存分に頼ってくれるよう、ちょっと誘導を……いや、なんでもない。行ってくるね!」
誘導をしていた、と白状しかけて、急いで去っていくレインにレイシェは苦笑いを浮かべた。
ほとんど全部白状しているようなものだが、レインはレイシェに対してはこんなものである。
『……お兄様……ディライト様と話したことについて、一切言及しませんでしたわね……忘れていただけ、でしょうか』
「……あの、レイシェさん? おはよう……!」
『まあ、おはようございます、ユウ君。朝食ができるまでは、まだもう少しかかりますから……もうしばらく、くつろいで過ごしていてくださいまし』
「あっ、いや……手伝おうと思ってきたんだ。特訓もあるけど……何もしないの、落ち着かなくてさ。何かできることってないかな?」
『……では、お料理を手伝っていただきたいですわ。お皿を準備して、このお野菜を盛り付けておいてくださいますか?』
「わかった!」
ユウは頷くと、せっせとお皿を準備し、そこに野菜を盛り付けた。
レイシェはそれに微笑むと、その間に完成した料理をお皿の上に盛り、二皿を両手に持ち、残り一つのお皿をユウに任せる。
『落としたりは……大丈夫そうですわね? では、ゆっくりで大丈夫ですから、こちらを運んでくださいまし』
「うん、気を付けて運ぶ」
ユウの返事を聞いてからレイシェがダイニングへと料理を運ぶと、そこにはレインが居て、窓の拭き掃除をしているところだった。
窓の一部が、魔法でも使ったかのように新品同様のピカピカなものになっている。
『相変わらず……お料理以外は、なんというか……どんな分野においても、凄まじい技術をお持ちですわね。あの短時間でどうやって……』
「ふふ……色々経験してるからね、慣れだよ慣れ。道具片付けて、手も洗ってくるね。先食べてていいから」
『そんなことするわけな――ああ、もう……お兄様は仕方の無い人ですわね。ユウ君、すぐに戻ってくるはずですから、少しだけ座って待っていてくださいまし。わたくしは……少しだけ、後片付けをしてきますわ』
レイシェはユウにそう言って、ダイニングから出た。
少し離れた位置には、ありえない速度で片付けと手洗いを済ませたレインが立っている。
『……お兄様。何かわたくしに、伝えておきたいことがあるのですわね?』
「まぁ、うん……僕、ユウに対して、まだ心を開くことができずにいて……ディライトに自分に目を向けろとか、怒られて……無理をしないようにユウに接してるんだけど……さっきの態度、大丈夫だったかな。ユウとは言葉交わしてないけど、冷たく感じた?」
『……だ、大丈夫だと思いますけれど。気にしすぎなのでは……?』
「前までがこれ以上に気にしてたんだよ。用が無くてもユウに声掛けて、気に掛けて……そういうの減らしたいけど、きっとあの子は心細いだろうから、慎重にならないと。不安にさせたいわけじゃないから。嫌いなわけでもないし」
レインがそう言うと、レイシェは苦笑いしながらダイニングの方を見た。
たぶんユウは、気付いていなくて冷たく感じるなどという次元ではない。
『冷たく感じることがあれば、わたくしが指摘いたしますわ。ですから、お兄様は思うままにすれば大丈夫です』
「……そっか……わかった。……じゃあ、戻ろっか」
そう言って、レインはレイシェと手を繋ぎ、ダイニングに戻った。




