レインの勇者育成スパルタ指導?⑨
夜、リウの執務室にて。
仕事をしていたリウは、ふと扉をノックされて不思議そうに首を傾げた。
夜遅くに執務室に来るような人なんてほとんどいないので、少し驚いてしまったのだ。
しかし、その奥にある気配を捉えると、リウは納得したような顔になる。
「……入っていいわよ、レイン。あの子についての報告でしょう?」
「あ、やっぱり起きてた。無理してない? 大丈夫?」
「少しの間城を留守にしていたから、その分の仕事を処理しているだけよ。すぐに終わるわ。それよりも気に掛けるべきは、あの不幸な子……ユウ、だったわね。どんな様子だった?」
「慣れない環境で、まだちょっと緊張してるみたいだけど……ここ数日で、ちょっとずつ肩の力は抜けてきてるよ。ちゃんとリラックスできるのも時間の問題。軽い修行をさせたから、今は疲れてぐっすりだよ」
「それは良かった。……お茶を淹れるわ。あの子のことは、ちゃんと話を聞きたいから……もっと詳しく話して頂戴な」
リウの言葉に、レインは浅く頷いてソファーに腰掛けた。
手伝いたいところだが、レインが手伝ったところでリウはいい顔をしないのでもう諦めている。
リウは真面目な顔のままお茶を淹れ、お皿にお菓子を盛り付けると、机に置いてレインの対面に腰掛けた。
そして、少し迷った後、言いづらそうにリウは質問する。
「その……あの子の、才能とかは……どう? 手加減はするけど……私の前に、立っていられる?」
「……聞くまでもないんじゃない? あの魔法陣は勇者を喚び出すものだよ……相応の才能があるに決まってる」
「だけど、勇者は勇者でもあの子はあなたとは根本から違うわ。召喚をした人物は、私を憎んでいて……私を殺すために、勇者を召喚したんでしょう。ほんの僅かな欠落があっただけで、魔法陣は完璧だった。となれば、召喚された『勇者』は……この世界の定義ではなく、召喚をした人物が定義した『勇者』となる。……どうしてあんな才能があって、あんな方向に進んでしまったのでしょうね……」
「感情って、人なんか簡単に変えられるからね……あはは」
乾いた笑みを浮かべてそんなことを言うレインに、リウが微妙な表情になった。
冗談のつもりかもしれないが、それはちょっと笑えなかった。
「……はぁ。才能、才能ね〜……魔法とか、剣術の才能は、勇者として十分にあるよ。ちゃんと育てれば、かなり高い水準まで行くだろうね。……けど……魔王を倒す勇者としての才能は、無い。断言するよ」
「……ふふ……殺しの才能が無い、というわけね。そんなもの、あったって不幸になるだけ。安心したわ……」
「ま、そういうこと。戦えるけど殺せない、それで十分でしょ?」
「ええ。何せ、私があの子と戦わないといけないのは、魔法を騙すためだもの。それさえ叶うなら、どちらも傷つく必要なんて無いわ。ふふっ」
リウは嬉しそうに微笑むと、そっと目を細めた。
レインもそれに少し嬉しそうな顔をして、ふと訊ねる。
「そういえば……レア、話したんだね。あれが、リウのことを憎んでたの。レアはまだ、仕事の都合より自分の気持ちを優先することがあるよね?」
「ええ、そうね。そういう時は大体、お父様やお母様に相談しているようだからそれ自体はいいのだけれど……今回は、大事なお話だから。ちょっとした誘導尋問をね」
「ああ……そういうこと……」
まんまと誘導尋問に嵌まり、悔しがってちょっと怒りつつ、リウには何も言わないであろうレアを思い浮かべてレインは苦笑いした。
きっとレインがこんなことを言っても嫌そうな顔をするだけだろうが、まだまだ未熟で可愛らしい子どもである。
「……未熟だね。もうしばらく、それが続いてくれたらいいんだけど」
「そうねぇ……でも、どうかしら。本人はその辺り自覚して、直そうとしているから。……コホン、レアの話は後回し。あの子のことだけれど……元の世界について話したり、する? 寂しがったりとか……」
「うーん……まだ心を開いてないからか、そういう話しないんだよね。僕たちの話は聞きたいってちょくちょくせがんでくるんだけど」
「……そう……うーん。場合によっては、この世界の住民になることもできるけれど……今はまだ判断できないわね。怪しまれない程度に探ってみてくれる?」
「了解。……定期的に報告、いるよね? 資料にしてレイシェ辺りに運んでもらおうか?」
直接行くより怪しまれづらいかも、とレインがそう提案したが、リウはゆったりと首を横に振った。
そして、紅茶を一口飲むと、目を眇めて笑う。
「随分と……鈍ったというか、なんというか。剣術や魔法の才能はあるんでしょう? 魔法を使ったら、いずれバレるわよ」
「……あ、確かに。はー……魔法を使わない期間も結構長いもんね、その辺りまでは気が回らなかったな……ちょっと気が緩んでるかも」
「私としてはいいことだけれど。……さて……大変でしょうけれど、報告は定期的に。何か、急ぎの報告が無ければ回数は少なくてもいいわ」
「ん、ありがと。……ユウが病気に罹った時とかでも、報告って欲しい?」
「病気……そうね、必要だわ。異世界人となると、特殊な病気にも罹ったりするかも」
了解、とレインは頷き、席を立った。
そして、執務室の上の書類をちらりと見て、溜息を吐く。
「しばらく手伝いには来れなさそう。流石に……怪しまれるリスクよりリウに会うことを優先するのは……無理だよねぇ。はぁ……」
「……肝に銘じておきなさい。バレたら、そう簡単にあの子を元の世界に帰せなくなる可能性もあるのだから。絶対に、そんな感情を優先したりしないで」
「わかってるよ。リスクはなるべく減らすようにする。まぁ、一緒に暮らしてるし、僕もユウに情は湧いてる。そんなことは絶対に無いって誓える程度にはね。……その、うっかりバレたら……誤魔化すの、手伝って……これからディライトに会うし、そっちにもお願いしとくけど……」
「手伝うけれど、もう少しこう……体面とか、気にしないの……? ……もういいわ、苦労を掛けるでしょうし天界には送ってあげる。溜め込んでることしっかり吐き出して、ちゃんと休みなさい」
「ありがとうリウ大好き!! その言葉だけで溜まってた心労が吹き飛ぶ気がするよ!!」
一気に笑顔になって飛び跳ねるレインになんとも言えない表情をしつつ、リウはレインを転移させた。




