レインの勇者育成スパルタ指導?⑧
一時間ほどが経ち、レイシェがユウに魔法の基礎を叩き込み終えてレインの傍に戻ってきた。
レインは何も言わずにレイシェの頭を撫でると、げんなりした様子のユウの傍でしゃがみ込む。
「ユウ、お疲れ様。魔法のことはある程度わかったみたいだから、休憩したら剣術を学ぼうか」
「……う、ぅ……なぁ、レインさん、休憩ってどれくらい……? あ、頭がくらくらする……長めがいいんだけど……」
「……急激な魔力の使用によるもの、かな。数分もすれば収まるよ、座って休もうか。休憩は……身体は動かしてないだろうしねぇ……ほら、こっちおいで。木陰で座って休もう」
レインはそう言うと、ユウを抱き上げて木陰に座らせた。
その間に、レインは少し離れると、ユウの体格にあった木剣を選び始める。
小柄だが、ユウは見た目よりはしっかりしているので、小さめながら多少重さがあるものがいいだろう。
レインは軽く振って木剣の調子を確かめると、頷いてユウの元に戻ってくる。
「ユウ、これちょっと握っ……あ、休憩終わってからでいいや。……はぁ……ダメだ、休憩潰しちゃダメ……」
『お兄様……自分の時の癖が、まだ抜けないのですわね。木剣も置いて、お兄様も休憩なさったらどうです?』
「休むほど働いてもないのに? まだ基礎的なことだから、僕の専門的な知識とか、まだ必要な段階に達してないし……魔法分野では、僕は活躍してなかったよ」
『お兄様ったら、責任感がおありなのは良いことですけれど……背負い過ぎるのも困ったものですわね。今は何も考えずに休んでくださいまし。何もしていない人は休んではいけない、なんて誰も言いませんわ』
「けど僕は、……ああ……はぁ、ダメだ……疲れてるのかな……なんかちょっと昔に戻った感じがする。やだなー……レイシェ、今晩ちょっと屋敷空けるね。愚痴ってくる……そのまま向こうで寝るかも」
『了解いたしましたわ』
レインとレイシェのやり取りを、ユウはぼんやりとしながら聞いていた。
友達のところにでも行くのかな、と考えつつ、ユウは何気なくレインの言葉で気になったことを質問してみた。
「なぁ、レインさん、昔に戻ったみたいって……」
「あ。……あ〜……まぁ……簡単に言うとね、元勇者にも荒んでた時期があったってことだよ。昔……色々あったから。面白い話じゃないから、あんまり深掘りしない方がいい」
「……ごめん、俺、言いづらい話させちゃったよな……えっと、お詫びじゃないけど、俺……修行、頑張るから! そうしたら……昔の嫌なこととか、ちょっとは忘れられる……かな?」
「……ユウはいい子だねぇ。ふふ、ありがとう。そんなに心配しなくてもとうに克服したことだから、無理はしないようにね。頑張ってくれるのは嬉しいけど」
レインは最後にそう付け加えつつ、ユウの頭をわしゃわしゃと撫でた。
初恋拗らせてずっとずっと一人の女性に執着して粘着して、今では償いのために奴隷をしています、なんて言えるわけもなく、レインは苦笑いしながらユウを見つめる。
「……さ、そろそろやろうか。くらくらする感覚も、そろそろ落ち着いてきたでしょ?」
「うん……大丈夫だ。えっと、何からしたらいい?」
「とりあえずこの木剣握ってみて。柄は大きすぎたりしない? この重さで大丈夫? 振れる?」
「よ、い、しょっ……お、重いけど、振れる……これでいいのか? わかんないんだけど……」
「そんなものだよ。そりゃあ重すぎちゃダメだけどね。さて、それじゃあ素振りからだね。とりあえず適当に振って……うん、筋はいいね。もう少し背筋を伸ばして……いい? 手で剣を支えるんじゃなくて、腕全体を使うんだ。わかる?」
レイシェはユウに見えるように剣を構えながら言葉で説明し、ユウの背後に回るとそっとその姿勢を正させた。
重いせいか、軽くぐらつくユウの剣先を軽く摘み、レインは告げる。
「剣先が揺れるのは、単なる筋力不足じゃない。確かに今はまだ足りないけど、もう少し抑えられるはずだよ。もっとしっかり握って……少しだけ腰を落として、重心を安定させる。……ああ、行き過ぎ。もう少し上げて大丈夫……うん、その辺かな。どう? 感覚でわかるかな、少し揺れが小さくなったよ。……いい? 構える時は、この角度。感覚で覚えて」
「う、うん……」
「……まだ……握りながらの魔法の行使は難しいかな。やってみる? 魔法で筋力を強化すれば、もっと揺れなくなるんだけど……」
ユウはそっとレインを見上げると、少し緊張した面持ちになりながら頷いた。
そして、レイシェに教わったことを繰り返し頭の中に浮かべながら、魔法を発動しようとしてみる。
「……えっ、あれっ、うわ……!?」
だが、魔法を発動させようと魔力を集めた時点で、その魔力はユウの制御を離れ、暴れ出してしまった。
どうしよう、と焦るユウの肩に手を置き、レインが手に持っていた木剣を一振りする。
それだけで、暴れていた魔力はすぐに落ち着いた。
「……もう少し慣れるまで、やめておこうか。魔力の暴走くらい簡単に収められるけど……負担は掛かるだろうから」
「……う、うん……わかった。なぁ今の、どうやったんだ? 剣を振っただけなのに、すぐに楽になった!」
「ああ……えっと……魔力を斬ったんだよ。暴走した魔力は一本の紐みたいなもので、全部繋がってるから。場合にもよるけど、今回のは一度断ち切っちゃえば収まるものだったからそうしただけ。……危ないから、やろうとしないでね……」
きらきらと目を輝かせているユウに、レインは困った顔をしながらそう言うと溜息を吐いた。




