レインの勇者育成スパルタ指導?⑦
それから、数日が経ち。
レインはユウがこの世界に馴染み始めた頃を見計らい、ダイニングでくつろいでいる最中のユウに声を掛けた。
「ユウ、今いい?」
「んっ? んぐ……何かあったのか、レインさん?」
「あ、またお菓子食べて……はぁ、レイシェに餌付けは程々にするよう言ったのに……食べるのは構わないけど、食べ過ぎないようにしなよ。……コホン、本題に入るね。この世界にも慣れてきたみたいだから、そろそろ勇者としての修行を始めようか」
「……それをして、勇者として活躍しないと、元の世界には帰れないんだよな……うん、やる。どうしたらいい?」
ユウは頷くと、ソファーから立ち上がって首を傾げた。
レインはそれに笑みを浮かべると、ユウの手を引いて庭へと向かう。
草は生い茂っているが、綺麗に整えられているわけではないので、踏んでも大丈夫だし、クッションにもなるし丁度いいだろう、とレインは満足そうに頷く。
「さて、それじゃあ……元勇者として、きっちりやらせてもらうよ」
「えっ、元勇者って――えっ」
瞬きをした直後、首元に木剣が当てられていて、ユウはぱちぱちと目を瞬かせた。
左手に剣を持ったレインは、驚くユウに向かって笑顔を浮かべたまま言う。
「とりあえず、これを防げるようになることを最終目標にしようか。いくつかの段階に分けて……先ずは、見えるようになることからかな」
「……う、うん、わかった……よろしくお願いします。……なぁ、レインさん、元勇者って……本当か?」
「本当だよ。こんなところで嘘吐く必要ないでしょ……全盛期ほど強くはないけど。えーと、じゃあ、そうだな……今回に限っては付け焼き刃で大丈夫だし、魔法で動体視力諸々上げれるようになろうか。魔法は……レイシェのを何度か見せてもらってたね。自分で試したことはないかな?」
レインの全盛期ほど強くない、という言葉に、とても若いのに今が全盛期じゃないのかとユウが不思議そうに首を傾げていると、レインから確認を投げられられてこくりと頷いた。
なお、レインの全盛期ではないという言葉は魔法やらが使えないからだったりするが、もちろんユウは知る由もない。
というのはさておき、魔法が使えなくては魔法を教えるのもやりづらい。
そんなわけで、魔法の先生は別で用意している。
「僕は魔法が使えないから、そっちは別の先生に教えてもらおうね。僕は補助に回るから。……レイシェ」
もちろん、魔法の先生はレイシェである。
異世界人であるユウに、そうやすやすと外部の人を接触させるわけにはいかない。
レイシェは専門家ではないが、精霊としても人間としても魔法には馴染みがあるし、専門的な知識であればレインが補うことができるので、先生としては充分だろう。
と、そんなことを事前にレイシェに相談していたレインが呼び掛けると、どこからともなくレイシェが現れた。
レイシェは宙に浮かび、くるりと一回転してみせると、優雅にレインの手を取って微笑む。
『ただいま参上いたしましたわ。わたくしの出番でしょうか、お兄様』
「うん。僕、魔法使えないから……使い方については、任せても大丈夫?」
『ええ、お任せくださいまし。わたくしが完璧に教えて差し上げますわ! ……さて、ユウ君。剣術はお兄様が、魔法はわたくしが教えますわね。先ずは魔法の基本から……ですわね。ユウ君は試していましたから知っているでしょうけれど、魔法というのは詠唱をしたり、魔法名を口に出したりするだけでは発動しませんの』
「れ、レイシェ、余計なこと言わないであげて……」
試していたから、と口にしたレイシェに、レインが困った顔をしながらそう言った。
一人の時に試したはずなのに、と震えているユウに、レインは憐れみの目を向けつつ咳払いをする。
『……ごめんなさい、わたくし余計なことを……コホン! ええと、そうですわね……実践しましょうか』
レインに窘められ、レイシェがはっとして空気を変えた。
レイシェはユウの後ろに回ると、魔法を発動して見せ、言葉で解説をしながらユウにも試してみるように言う。
そうして、勉強が順調に進むのを眺めながら、レインはゆっくりと息を吐き出した。
ユウが勇者となるために、レインが修行を付けるに当たってリウからいくつか指示が飛んできている。
基本的には、ユウを守るために必要なことや、レインの立場を考慮しての当然のものたち。
だが、一つだけ、レインの頭を悩ませている指示があった。
リウの良い評判を、ユウに聞かせないこと。
ユウが帰るために勇者としての役割を果たすに当たって、一番早いのがリウが世界の脅威として君臨し、ユウに倒させること。
本当にリウが世界の脅威になる必要は無いが、ユウにはリウが世界の脅威であると信じてもらう必要がある。
だから、そんな指示を出されるのも理解はできる。
意図は理解できるが、それを守るのは簡単なことではなかった。
何せ、ここはリウのお膝元であり、優秀な国王であるリウの悪評などそうそう聞くものではない。
逆に、良い評判であればどこでだって聞けるだろう。
だというのに、良い評判を聞かせるなだなんてとんだ無茶振りである。
奴隷であるレインには、拒否権など無いが。
「……最短で鍛え上げるしかないな……はぁ」
レインはそう呟き、ぼんやりとユウを眺めた。




