レインの勇者育成スパルタ指導?⑥
それから、レアはまだまだ仕事があるからと屋敷を後にし、部屋にはユウとレイン、そしてレイシェが残っていた。
ユウはそわそわと視線を彷徨わせた後、躊躇いがちに口にする。
「あ……あの……これから、よろしくお願いします……」
「リラックスしていいよ。これから一緒にここで過ごすんだから、家族同然……とまでは行かなくても、同居人としてある程度、肩の力は抜けるようにならないと」
『そうですわ、ユウ様……いえ、様付けでは少々堅苦しく聞こえますわね。うーん……ユウ君、とお呼びしても?』
「えっ、あっ、ど、どうぞ!」
『まぁ、ありがとうございます。これからよろしくお願いいたしますわね、ユウ君』
レイシェはそう言うと、優しくユウの頭を撫でて、レインの方へ視線を移した。
レインを一人にはできないから、監視役という意味もあり一緒にここで過ごすわけだが、レイシェはレインによる勇者となるための特訓については口を出せない。
合理的な鍛え方とか、戦い方とか、そういうものとはレイシェは無縁だから。
身を守るために、とレインに教えを請うても、必要無いと一蹴されるばかりで厳しい特訓どころか優しい訓練にすら辿り着けない日々である。
レイシェには、レインにこれからどうするかを訊くことしかできない。
「……コホン。とりあえず、レアから説明は受けたと思うけど……おさらいしようか。君は勇者としてこの世界に召喚されたから、ある程度勇者としての役目を果たさないといけない。僕はそのために君を鍛える。いいね?」
「はい、……うん、レアさんにも説明してもらった」
「よし。理解はできてるようで何より。それじゃあ、先ずは……――食事にしようか」
「えっ」
何が課されるのかと身構えていた矢先にぽんっと放たれた言葉に、ユウは目を丸くした。
言われてみれば、わけがわからないことばかりで気になっていなかったが、ユウはこちらに来てからお菓子しか食べていない。
「お腹空いてるでしょ? ねぇレイシェ、なんか食べれるものあったっけ? なんか買い食いとかする?」
『……はぁ、お兄様ったら……そう言うと思いましたわ。食事は用意してあります』
「流石レイシェ、いい子いい子してあげる。ふふっ……」
『……ユウ君、お兄様のことはどうかお気になさらず。平常運転ですわ、適度に無視しておいてくださいまし』
酷い、と言いたげな視線も無視して、レイシェはそっとユウに手を差し出した。
ユウがその手を取ると、レイシェはそっとその手を引き、ダイニングに案内する。
「……え、えっと、敬語じゃない方がいいんだよな、レインさん……? レイシェさん、にも……」
「もちろん、そうして。失礼な言動さえしなければ、喋り方は僕もレイシェも気にしないから。砕けた態度で接してくれていいからね」
「……じゃ、じゃあ、そうする……あの、確認したいんだけど……俺って、この格好でいいのか? レインさんも、レイシェさんも、綺麗な服着てるし……大きな屋敷だから、なんか……浮いてる?」
『わたくしたちは、気にしませんが……ユウ君が気にするなら用意しましょうか。一先ずは……そうですわね、その格好では外に出る時に目立つでしょうから、お兄様のお古を探しておきますわね』
レイシェはユウにそう応じつつ、扉を開けた。
すると、一気に美味しそうな香りが鼻腔を擽るので、ユウが目を瞬かせる。
流石に料理をする暇なんて無かったはずなので、レインがちらりとレイシェを見てみると、浅く頷かれた。
リウの手配らしい。
『ご覧の通り、食事の準備はできておりますわ。ユウ君がいらっしゃるということで、少々特別な料理をご用意させていただきましたの。ぜひとも、美味しく召し上がってくださいまし!』
「あ、ありがとうございます……えっ、あっ……な、なんか、凄く……高級そう、じゃないか?」
「今日限りだけどねぇ。こっちに負担掛かってないから、遠慮せずに食べて。異世界からの人間って希少で、どうしても、君の意思とは関係無く……国が動くんだよ。政治とか……まぁ、色々な面倒事にも繋がるんだけど……これは、君に最大限配慮した上での、歓迎の気持ちの表れだよ。何もしないってわけにもいかないしね。まぁ、国からのささやかな贈り物って捉えればいい。……料理が冷めちゃう。ほら、食べよう」
レインはそう言い、椅子に腰掛けてユウに隣に来るよう促した。
ユウは躊躇いながらもそっと隣に腰掛け、まじまじと料理を眺める。
そうして、三人は静かに食事をし始めた。
城で振る舞われるような高級なそれは、素材の味が生かされた味付けでとても食べやすい。
クセもなく、馴染みがなくとも食べられるよう考えて作られているのがわかった。
『どうですか、ユウ君。美味しいですか?』
「うん……美味しい。こんなの、食べたことない……」
『それは良かったですわ。何をするにしても、英気を養うことからですから……美味しいものをたくさん食べて、休んでくださいまし』
ふふ、と微笑むレイシェに頷き、ユウは緊張しながらもその料理を味わった。




