レインの勇者育成スパルタ指導?④
それからしばらく待つと、突然魔力の気配がして、レア、レイン、そしてリウの間で、秘密の会話が繋がった。
それに反応して、レアは少し驚いたように瞬きをして、レインは眉一つ動かすことなくユウとの会話を続ける。
『コホン……待たせたわね。そっちはどう? 召喚されちゃった子、怖がったりとかしてない?』
『うん、大丈夫。少しずつだけど、心も開いてくれてるよ。それで……どうしたらいいかな』
『私たちでは、勝手に行動することもできなくて……指示が欲しいです』
『ええ、わかっているわ。一応、それに関する法律も無いわけではないけれど……不完全だし、マニュアルなんてないものね。かといって、勝手な行動をできるほど軽い話ではない。……まぁ、この辺りは後で考えるとして。その子のことについては、ちゃんと考えてあるから安心して』
リウはそこで一度言葉を区切ると、ふ、と小さく笑みを零した。
レアやレインからは見えない遠くで足を組み、リウは愉快そうな顔をしながら言う。
『その子はあなたが育てて頂戴な、レイン』
『……は?』
『わかっているでしょう? その子、魔法の効果で勇者になっちゃったの。となれば、あなたが育てるのも当然のこと。そうは思わない?』
『思わないよ?? いやだって、僕は勇者である以前に罪人なんだからね? わかってる?』
レインはそんな風に伝えながら、目元を引き攣らせた。
まぁ確かに、勇者のことはレインはよく知っているし、理解している。
それはただの称号ではなく、世界にとっての役割で、彼からその因果を引き剥がさなければ帰すことはできない。
そして、勇者としての役割を果たすことは、そのための方法の一つではある。
それはわかるが、だからと言ってレインに預けるのは危険すぎるというものだ。
『リウ様、レインさんにそんなこと……洗脳教育とかもできてもおかしくないですよ』
『ふふ……知っているわ。それで? レイン、やるの? それともやらない?』
『一応拒否権あるんだ。断ったらあの子、どうなるの?』
『んー、そうねぇ。少し時間があれば、帰すことはできるけれど……因果がもうねじ曲がっていて、ヴェルジアにも手が出せないみたいだし……またどこかの世界に勇者として召喚されるか、帰った先で何らかのトラブルに巻き込まれるかの二択になるでしょうね』
『……リウって因果弄れないの?』
『できるけど、魔法で弄ったら新しい厄介な因果が生まれるだけよ。私の力が強すぎるの』
物憂げにリウがそう言うと、一陣の風がレインの頬を撫でた。
ここは室内で、窓は開いているがレインは直接風が当たる位置には居ない。
返答をわかっていてからかっているな、とレインはこっそりと息を吐き出した。
『わかったよ……やればいいんでしょ。で、何? リウに謁見でもすればいい?』
『それはまだだーめ。ふふっ……その子のために、私は魔王役に徹してあげないとね。勇者の敵は魔王、そうでしょう?』
『……リウ様、リウ様。私には、勇者や聖女の役割は魔海の対処と……』
『細かいことはいいのっ。その子の相手は魔王――私。だから、ある程度、私の前に立っても戦えるよう、しっかり鍛えてあげて頂戴ね? 転生の勇者……私の怨敵さん?』
やけに跳ねる声でリウがそんなことを言うので、レインは深い溜息を吐いた。
必要なことなのは確かではあるが、それはそれとして、絶対に私情を挟んでいる。
最近は執務ばかりしているので、戦いたくてうずうずしているのだろう。
『そういうのなら、僕が相手になるのに……今の僕が敵うとは思ってないけど、遠慮なくやれるでしょ?』
『あはっ……それはそうね。だけどね、レイン……あなたが本気で鍛えた勇者がどうなるのか、見てみたいの。大丈夫、その結果起こる元の世界での不便は、転送した際に全て消し去っておくから』
『……わかったよ……はぁ……何、洞窟にでも連れていけばいいの?』
『新しく家を用意しておくから……というか、レイシェのために用意してあったお屋敷があるから、レイシェも一緒にしばらくそっちに移って。異世界からの大事なお客様を、あんなところで寝泊まりさせるわけにはいかないから。洞窟での仕事はしばらくお休みでいいわ』
リウの指示を聞き、レインは浅く頷いてユウに向き直った。
もう説明は不要と判断したのか、ふっと会話が途切れ、肉声が聞こえやすくなる。
「……コホン……ユウ、これからの行動について、我らが女王様から指示をもらったから、説明するね?」
レインは穏やかな声でユウにそう言い、色々なことを伏せながら簡単に説明をした。
帰せるようになるまでレインやその妹と屋敷に住んでもらうこと、召喚の際に植え付けられた使命を果たすため、レインがユウを鍛えること、などなど。
必要なことを説明すると、レインはレアを見た。
その視線に浅く頷いたレアは、椅子から立ち上がるとユウの傍に寄り、そっとその手を取る。
「ユウ様、移動しますので少し目を閉じていていただけますか?」
「レア、距離的には行けるの? 三人でしょ?」
「お屋敷までなら行けます。ギリギリなので、目眩などは起こってしまうと思いますが……すみません」
「め、目眩? 何の話だ……?」
「いいから、目閉じて。ね? 大丈夫だから」
レインは優しい声でそう言い、そっとユウの目を手のひらで覆った。
ユウは不安そうにレインの袖を握り締め、言われた通りにぎゅっと目を閉じる。
瞬間訪れる、一瞬の浮遊感。
一瞬だけ呼吸が詰まり、周囲の空気が一気に変わる感覚がして、ユウは恐る恐る目を開いた。
「……え?」
目の前には、いつの間にかとても大きな屋敷が鎮座していて、ユウはぱちくりと目を瞬かせた。




