レインの勇者育成スパルタ指導?③
ぱぱっとレインがお菓子を買い、戻ってきた。
巻き込まれ体質ということもあり、レアは色んな意味で心配していたのだが、どうやらなんともなかったようだと安堵の息を吐き出し、食べやすいようにお皿を取り出す。
「少し待っていてくださいね。今盛り付けます」
「え〜……そんな丁寧にする必要ある? そのまま食べればいいでしょ」
「……立場を考えてください……そもそも、ユウ様はお客様です。できることは限られていますが、なるべくおもてなしをしないといけません」
「お、俺に様付けなんて……! レアさんは、偉い人なんですよね……!?」
「自覚が無いのは当然のことですが、ユウ様は慎重に対応すべきお客様なんです。……あっ……良い意味ですよ! 希少な……大切なお客様という意味です……!」
慎重に対応すべき、という言葉選びは誤解を招きかねないということに気が付いて、レアが慌てて補足した。
やっぱりまだ可愛らしい、未熟なところがあるな、とレインは頬を緩める。
リウは、専属補佐官としていつも張り切り、大人っぽい振る舞いをしようとするレアのことをとても心配していたから。
「……まぁまぁ、ほら……誰も咎める人はいないんだし、レアも気を張りすぎないで。ほら、好きそうなの買ってきたからレアも食べなよ」
「だ、だから、立場が……!」
「だらけるのはダメだけど、気を張りすぎる必要もないでしょ? ほどほどにリラックスして待てばいいよ。ずっとそんな風にしてたら疲れて、限界が来るものだよ。レアが僕のお目付け役であるのと同時に、僕もレアのお目付け役を任されてるんだからね?」
休まなければ報告するぞ、という警告であることを察して、レアは口を噤んだ。
リウのことだから、きっとずっと気を張っていたと知れば強制的に休みを取らせようとする。
それは嫌なので、レアは仕方無くお菓子に手を伸ばした。
「……美味しい」
「でしょ。ふふ……さぁ、ユウも食べて。君のために買ってきたんだからね」
「い、いただきます……あ、うま……」
ぼそ、と感想を零すユウに、レインはにっこりと笑顔を浮かべた。
そうしつつ、レインは冷静にユウのことを観察し始める。
たぶん、どこかの世界から偶然やってきただけの、何の変哲も無い少年だ。
見た目より多少大人びているが、それでも幼さ、未熟さが目立つ。
特に気になる点は無い、とレインは結論付けつつ、首を傾げる。
個人的に、少しだけ気になったのだ。
大したことではないが――可愛い寄りの容姿をしているのに、口調はやんちゃだから。
敬語も、少しぎこちなく聞こえる。
ダメなことではないが、容姿と口調が乖離しているのが珍しく感じたのだ。
「……貴族社会に長く身を置きすぎたかな。うるさい老人どもみたいなことを……はぁ。歳を取るって嫌だねぇ、レア……君が羨ましいよ」
「……不老不死も同然じゃないですか。精神的な話なら、条件はほとんど同じではないですか?」
レインは人で、レアは竜だがその精神はゆっくりと、だが同じ過程を経て成長する。
違いなんて、ほとんど無いだろう。
まぁ、完全な死を遂げることのないレインにとって、精神の老いに限界があるレアが羨ましい、という話はわからないでもないが、それはそれでものすごく今更な話である。
「……おっと、ごめんね。客人を置いてけぼりにはできない」
「あ、いや……お菓子、うま……美味しかった、ので……気にしてません」
「ぎこちないね。いいよ、話しやすいように話して。こんなことを言ったら失礼だろうけど、あくまでも好意的な意味で――その容姿と口調の乖離が、興味深い。この世界の特色なのかもしれないけど、結構外見通りの口調をしてることが多いからね。大人しい子は大人しい外見と口調をしてるものだから。……まぁ、どの世界でも少数派なだけかもね」
レインはそう言って肩を竦めると、驚かせないようにそっとユウの頭を撫でた。
そして、少し微笑んで、優しい声で言う。
「子どもは子どもらしくしていいんだよ。そう背伸びをしなくていいんだ」
「……あ、ありがとう?」
「ふふっ。……さて、することも無いしのんびり待とうか〜」
レインはそう言うと、べしゃりと机に突っ伏した。
今日の仕事はもう終わりなので、完全に気を緩めているらしい。
ここなら、レアを守るために動かずとも、危険が及ぶことなんてそうそう無いので。
とはいえ、リウの命令を完全に忘れるなんてことはありはしないが。
「君のこと教えてよ、ユウ。えーと……何歳? 十歳前後くらいに見えるけど」
「あ、えっと……十一歳です」
「敬語いいってば……まぁいいか、ふーん……若いね。ごめんね、こんなことに巻き込んで……ごめんね、なんて言葉では許されないことなんだけど……今は、それしか言えないから。どんなところで暮らしてたの? 良ければ、教えてほしい」
レインはユウをゆったりとした口調ながらも、次々に質問を繰り返した。
ユウが答えたら、次の質問へ。
同じようにそんな流れを繰り返して、繰り返して、レインはユウの素性を調べた。
立場上、リウとも会うかもしれない人物なので、怪しまれない範囲で調べられることは調べておこう、と思ったのだ。
それに、どうせリウの仕事が終わるまでやることなんて無いのだから、いい暇つぶしになる。
「異世界の話って面白いよね。レアも聞けばいいのに」
「……私はあなたと違って、真面目なのでっ」
ぷい、と顔を逸らすレアに、レインは苦笑いを浮かべた。




