レインの勇者育成スパルタ指導?②
躊躇いがちに呼べば、ヴェルジアはすぐに応えてくれた。
創世神なので、一般人が居る場には行けずに会話だけだが、ヴェルジアは開口一番に、憐れみをたっぷりと含んだ声で言う。
『なんというか……凄いよね。トラブルばっかり起きてて』
『うるさいな、やろうと思ってやってるわけじゃないんだから仕方ないでしょ……今回のは、僕の不手際で起きちゃったことだけど』
『……ヴェルジア様。お仕事なので、一先ずは手早く済まさせてください。一時的でも構いませんので、言葉が通じるようにできませんか?』
『ああ……そうだね、できると思うよ。ちょっと待ってね……この子は……うん、問題無く魔法は掛けれるよ。急に掛けるとびっくりするだろうから、一応声掛けてくれる?』
ヴェルジアがそんな指示をすると、レインが浅く頷いて再び少年と目線を合わせた。
そして、少し困った顔になりながら、できるだけ優しい声で話しかける。
「えっと……君。これから、ちょっと……びっくりするようなことが起こるかもしれないんだけど、悪いことじゃないからね。大丈夫」
レインはなるべく全身を使って少しでも伝わるように工夫しながらそう話すと、数歩だけ少年から離れた。
すると、レインが合図をするよりも前に、ヴェルジアの魔力が少年に振り注いだ。
少し待って、レインは再び少年に声を掛ける。
「えっと……どうかな? 言葉、通じてる?」
「……え? あ、言葉が……」
「ああ、良かった! 知り合いに頼んで、どうにかしてもらったんだ。まだ混乱してると思うけど、自己紹介をさせてもらってもいいかな? 説明は、道中でするから。ここには居られないからね」
「……あ、ああ……うん……大丈夫だ」
少年が頷くのを見て、レインはほっと息を吐き出した。
そして、そっと自分の胸に手を当てると、優しく微笑む。
「僕はレイン。そこにいる彼女の手伝いで、犯罪者を捕まえに来てたんだ。少し遅かったみたいで、君を巻き込んでしまうことになって……ごめんね。……彼女は……」
「レアと申します。……ええと……この国の女王様の専属補佐官をしております。お見知りおきください」
「は、はじめまして。俺は……ユウって言います。……え、えっと……」
「まだ、状況なんて何もわかってないよね。大丈夫。とりあえず、ついてきてもらえるかな? 何にせよ、ここはまだ調査しないといけないし……移動しないと。道中で、状況については説明するね」
「……わかりました」
少年は、ほんの少しだけ疑いを含んだ目でレインとレアを見た後、こくりと頷いた。
こんなわけのわからない状況で、疑念を抱かずにはいられなかったが、少年――ユウには、彼らに頼らざるを得ない。
もし悪人たちだったのなら、その時はその時だ。
ユウはそう覚悟を決めると、差し出された手を取った。
レインと名乗った、ユウよりもずっと年上の成人しているであろう青年。
美しい容姿をした彼の手は、綺麗なのに触れるとどこかゴツゴツとしていて、ユウは意外そうな顔をしながら緩くその手を握る。
レインはそれに嬉しそうに微笑むと、驚かせないようにゆっくりと握り返した。
「……よし。じゃあ、レア……この子、どうしようか。特殊な身分だし、僕の身分じゃ勝手な判断もできないから……指示が欲しいな」
「そう……ですね。ええと……リ……女王陛下の判断は仰がないといけませんけど、今は外交の真っ最中ですし……一先ず、警備隊の詰所に預けましょう。少し窮屈ですが、外よりはマシです。そこで会談が終わるのを待ってから、指示を仰ぎます」
「うん……そうだね、それが妥当かなぁ。普通の子どもならまだしも、異世界人で、あの老人が言ってたことから推測するに……はぁ」
レインは深い溜息を吐くと、ふるふると首を横に振った。
そして、ユウの目を見ると、状況についての説明を始める。
ここは異世界であること、ユウは今極めて特殊な立場にあり、自分たちではそうやすやすと今後について決められないこと、そして推測段階に過ぎないが、ユウはこの世界の勇者になった可能性があること、などなど。
ユウの常識とこの世界の常識を擦り合わせて、レインは足りない部分を補っていく。
そうこうしている内に、三人は警備隊の詰所に到着した。
そこで、レアが一部の情報を伏せて状況を説明し、休憩室の一つを借りる。
この件に関しては、レアとて独断では行動できないので、何をするにも先ずはリウに判断を仰がなければならない。
「時間は……はぁ。しばらく掛かりそうですね……」
「そうだね。……ねぇ、えっと……ユウ。甘い物って好き?」
「え? ……あ、はい……好き、です」
「なら良かった。レア、ちょっとここにいてくれない? 時間かかりそうだし、ちょっとその辺の店でお菓子でも買ってくるよ」
「……私が行きます。あなたを一人にはできませんので」
「ダメ、子どもは大人しくしてて。何かあった時のために、お金もらってるでしょ? ちょっと貸して、使わなかった分は返すから。ああ、なるべく早く戻ってくるね。それでいいでしょ?」
子どもじゃないとか、大罪人を一人にできるかとか、レアには言いたいことはたくさんあったが、仕方無く頷いた。
たぶんリウは、そういう雑用はレインにやらせろと言うだろうから。
今更、レインがこの立場から逃げるとも思えない。
「……見ていますからね、ちゃんと」
「ふふ……それは何より。じゃ、行ってくる。ユウのことよろしくね」
レインはそう言って、笑顔で部屋から出ていった。




