レインの勇者育成スパルタ指導?①
そこは、とある町外れにある塔。
その地下室にて、怪しげな風貌の人物が、足元の魔法陣に魔力を注いでいた。
怪しげな老人は、恨みを込めてぶつぶつと呟く。
「あの忌々しい魔王め……この積年の恨み、今こそ晴らす時よ……! 異世界より来訪する勇者が、貴様を成敗してくれる……!」
ハハハ、と老人は狂気の混じる笑い声を上げると、魔法陣から離れた。
すると、魔法陣からは眩い光が溢れ出し、この部屋を包み込んでいく。
魔力が迸り、この世界と、そしてこことは異なる世界とを繋ぎ、そして――
「はい、そこまで――あれ、間に合わなかったか。……あー、どうしよ……」
真剣なようで、微妙に軽い声音がその厳粛な空気を破った。
声の主は部屋に一歩踏み出すと、トンッと軽い足音だけを立てて老人の前に立ち、その首元に剣を当てる。
「……うん。レア、入ってきていいよ」
そんな風に声の主――レインが呼び掛けると、部屋の扉からレアが入ってきた。
レアは部屋に入ると、きょろきょろと部屋の中を見回してから呆れたような声で言う。
「レインさん、私も戦えます。魔法陣の破壊はともかく、その人の制圧まで一人でしなくても……」
「レアに傷一つでも付けたら殺す……って、据わった目して言われたんだからしょうがないでしょ。奴隷である僕は、元よりあの女王様の命令には逆らえないよ?」
「……嬉しそうですね。はぁ……ええ、と。……仕事を続けましょう。とりあえず、この人は拘束して、そのまま牢屋送りですね。この国では、異世界からの召喚は原則禁止ですから」
「そうだね、こっちはその処理でいいと思う。後処理に関しては……担当に回すのかな。とりあえず、拘束と転移よろしく。あ、転移の距離って平気? 城から結構離れてるけど」
レインの心配にレアはぷいっとそっぽを向き、心配は不要とばかりにずんずんと老人の方へと足を進めた。
肩を竦めたレインが老人に剣を当てたままレアが魔法を掛けやすいよう横にずれた。
すると、老人は突然やかましく騒ぎ出す。
「貴様らァッ! あの魔王の手先だな!? 勇者よ、こいつらを今す――ァがッ」
しかし、すんっと表情を消したレインが膝蹴りを食らわせ、老人を静かにさせた。
バキッ、なんて音も聞こえた気がして、レアは眉を顰めて訊ねる。
「……レインさん。骨……」
「ヒビ入れただけだし、命の危険は無いよ。上手くやった。……ほら、痛みで気絶してる。後はよろしく……僕はあっちの方対処するよ。リウにお伺いも立てて……どうするか聞かないと。……あと、ヴェルジアも。はぁ……」
レインは疲れたような溜息を吐き、壊れた魔法陣の中心に向かった。
そこには、未だ混乱の最中にあるらしい少年が座り込んでいる。
レインは少年の近くに歩み寄り、しゃがんで視線を合わせると、優しい表情を浮かべた。
「初めまして。僕はレイン、あの犯罪者を捕まえに来たんだ。まだ状況を飲み込めなくて、混乱してると思うんだけど……先ずは、名前を教えてくれないかな?」
「――、――――――? ――――!」
「……ん、……あれ」
何かを伝えようとしてくれているのかわかるが、全く聞いたことのない言語にレインは目を瞬かせた。
そして、数秒すると、状況を理解して頬を引き攣らせる。
「……言葉が、通じてない? ……魔法陣の不備か。あー、ええと……どうしよう……リウに頼る……にしても、一旦城に連れて行かないとどうしようもないよね。あ〜……ええと……」
「言葉が通じないんですか。……異世界から召喚されたのなら、確かに……通じるわけがないですね」
「通常、人間の召喚には意思の疎通ができるように、自動翻訳ができるような効果がついてるはずなんだけどね。今回は、魔法陣が不完全だったみたい。えーっと、意思疎通……意思疎通……身振り手振りとか、絵とかでなんとか……レアって、そういう魔法は使えないよね? 無属性だったとは思うんだけど」
なんとか意思疎通をできるようにできないか、とレインがレアに訊ねた。
しかし、レアは申し訳なさそうな顔をすると、首を横に振って答える。
「すみません。知識としてはあるのですが、まだ習得していなくて……リウ様も、優先度は低いから後回しでいいと仰って」
「だろうね、僕でもそう判断するよ……え〜っと……ちょ、ちょっと待っててね? 今、どうにかするから……あー、えっと……ここで! 待ってて! わかる?」
身振り手振りでレインがなんとかここで待っているよう伝えると、少年は少し考え込んだ後、こくりと頷いた。
言葉が伝わらないこと、どうにかしようとしていることは伝わったようで、レインは一先ず安堵の息を吐き出す。
そして、慌てふためいて散らかっている思考を深呼吸で落ち着かせると、冷静に状況を再認識した。
とりあえず、意思疎通の手段を確立して、少年をもっと安全な場所に移動させなければならない。
移動自体は可能だろうが、難しいのは意思疎通だ。
これからどうするにしても、意思疎通は絶対に必要になる。
なので、さっさと意思疎通の手段を確立しておきたいところなのだが――
「あ」
ふと思い付いたことがあって、レインはぽつりと声を零した。
リウにはできれば頼らずに、と思うあまり、見落としていたことがあったことに気が付いたのだ。
頼れる人は、何もリウだけではない。
「……えっと……ヴェルジア? いるー……?」
レインは躊躇いがちにそう呼び掛けて、そわそわとあちこちへと視線を投げた。




