リアとヴェルジアの結婚式⑲
「リウちゃ〜ん……生きてる〜?」
ヴェルジアとリアが挨拶回りをしているのを横目に、少し首を傾げながらディライトがリウにそう声を掛けた。
リウは椅子の上で固まって顔を覆っており、その指の隙間からは真っ赤に染まった顔が見える。
「……生きてない……」
くぐもった返事が来て、ディライトが無言で苦笑いする。
リウがこんなことになったのは、リアとヴェルジアが誓いのキスをしたからである。
照れ屋が過ぎて、あの瞬間を見ただけでリウは動けなくなってしまったのだ。
「……そんなに恥ずかしがることかな〜……ヴェルくん、あんなおしゃれなことまでしてたのに」
「う、うぅ……わかってるけど、わかってるけど……っ。あ、ああいうの、ちゃんと見る機会……無いから。……結婚式に参列させてもらうのも、リアとヴェルジアの一度目の結婚式以来だし……た、耐性が無くてごめんなさい……お祝い、改めてしに行きたいんだけど……」
「待つからいいよ〜。それとも、一人にした方がいい〜? あ、ボクより女性の方が良いかな〜……リテアちゃんとか、レイシェちゃんとか」
「……だ、大丈夫。すぐに……落ち着くから……」
震え声でリウはそう言うと、ゆっくりと深呼吸をした。
そして、数秒ほどしてそっと手を降ろすと、申し訳なさそうにディライトに言う。
「ごめんね。傍に居てくれてありがとう……でも、お祝いしに行っても良かったのよ?」
「顔覆って固まってるんだもん、放っておけないよ。それにボクは……なんか、今更お祝いするのも落ち着かないというか……そわそわするんだよね〜。だから、いいよ。あんな熱意のあるお祝いとかしないし」
ディライトはそう言って肩を竦め、リウに手を差し出した。
リウはその手を取って立ち上がると、きょろきょろしながら質問する。
「ええと……あの後すぐ、この状態に入った……ということで、いいのよね? 記憶、飛んでないわよね……?」
「ん〜? うん、そうだよ〜。もしかしたら両親にも何か言ってもらうのかな〜って思ってたんだけど、無かったね〜。凄く自由」
「……ディライトも、何か話したかったの? あなただって、ヴェルジアの親でしょう?」
「えっ。……いや〜、そういうのじゃないよ〜……ボクはいいから……」
困った顔をしてディライトが言い、息を吐き出した。
自分は、そういうのは柄じゃないから、あの二人がやればいいとずっと思っているのだ。
もちろん、自分の子どもの結婚式は二度目だろうと嬉しいし、祝う気持ちもあるが、別にそんなものは個人的にやればいいのだ。
人前で祝いたいなんて、そんなことを思ったことは一度もない。
「お祝いはしてくれないんですか、お義父様?」
「……げ……妹ちゃん……こっち来てたんだねぇ〜……」
「げ、とはなんですか。もちろん行きますよ、こちらにお姉さまがいらっしゃるのは見えていますから。……お姉さま、その……もう大丈夫ですか? 話せますか?」
「え、ええ……大丈夫。……大丈夫だから……もう蒸し返さないで……思い出しちゃうから……」
リウが少し顔を赤くしながらそう言い、ゆっくりと息を吐き出して自分を落ち着かせた。
そして、ちらりとリアを見ると、その髪に挿された花に優しく微笑む。
「……それは……ヴェルジアが、さっき……えっと……く、口元を隠したお花ね。とても似合っているわ」
「ふふ……はい。こんなに素敵なドレスを用意してくれたお礼にって……魔法で作り出したものですから、しばらくは綺麗な姿を保っていられるそうです。残念ながら、永遠ではないのですが……生命力に溢れているので、お世話をすれば数年は持つと。きっと記念になりますよね」
「数年も……それは凄いわね。……あ……記念にするなら、時が来たら押し花にする? 作り方は教えられる……ああ、でも、ヴェルジアも知っているから出しゃばらなくてもいいかしら。提案だけはしておくわね、ヴェルジア?」
リウがそんなことを言いながらリアの斜め後ろへと視線を向けた。
そこには、ずっと上機嫌にニコニコ笑っているヴェルジアが立っている。
ヴェルジアはずっとリアの傍にいて、何も言わずにニコニコ会話を聞いていたのである。
「……ふふ、素敵な提案をありがとう。もしリアがそうしたいなら、喜んでやるよ。リアはどうしたい?」
「……先ずは生花を楽しむところからですから、そういう話をするのは時間が経ってからです。それよりも……お姉さま、どうぞ!」
リアが手渡してきたものを見て、リウはぱちぱちと目を瞬かせた。
咄嗟に受け取ってしまったが、これは……と、リウは手元と花束を眺める。
「ウェディングブーケ?」
「はい。ブーケトスって、あるでしょう? それを受け取ることができたら、幸せが訪れると」
「え、ええ……そうね。……これがそうだと言うのなら……直接手渡すものでは、ないと思うのだけれど……」
「そうですね。でも……結婚式は、幸福で、おめでたいものです。それをお裾分けできるのが一人だけだなんて、勿体ないではないですか。ですから……結婚式に参列してくださったみなさまにお配りしているんですよ。お姉さまも受け取ってください!」
「受け取るけれど……これ、意味ってあるのかしら……?」
リウが困惑しながら呟くと、リアはにっこりと笑顔を浮かべてみせた。
そして、眩しい笑顔のまま言う。
「お姉さま、ブーケトスに魔法的な効力はありませんよ。所詮はおまじないなのですから、別にいいではありませんか」
「み、身も蓋もないことを……でも、まぁ、そうね。気持ちだものね……幸福を祈って、こうして花束を贈ってくれたのだものね。大切にさせてもらうわ。ふふっ……私にも、何かいい縁が訪れたりするのかしら」
「お姉さまが結婚するのは嫌です。……お姉さまが幸せなら……強く反対はしませんが……」
「……たぶん、結婚はしないと思うけれど。政略結婚も、今のところ大きなメリットは無いし……新しいお友達が作れたらいいなって」
「それは必ず叶います!!」
リウのささやかな願いに、リアが大声でそう叫んだ。




