飛羽編ー2
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ガルディアン第3支部基地内ー食堂
ポストルは、サラリエやミソンプと日常会話を交わし、毎日代り映えしない質素な夕食を食べている。
「そういえばクリミネルがテロを起こしたとニュースで報道されていましたね」
食堂に来る前、自室でクリミネルに関するニュースを見たサラリエは、それを会話の話題にする。
彼女の話題にポストルは、口の中で味わっていたサラダを飲み込み、一拍置いて口を開く。
「最近、またクリミネルが活発的になってきたね」
「そう?前からあまり変わらない気がするけど」
無関心そうな表情でそう言葉を返したミソンプは、左手に持つカップを自身の唇に近づけ、薄味のコンソメスープを一口飲む。
彼女の表情や声から感情を読み取り難く、クリミネルに対し、無関心なのかそれとも関心があるのか分からない。
「ミソンプはクリミネルに興味ないの?」
ポストルからの問いにミソンプは、片手に持っていたカップをテーブルに置きながら答える。
「そうじゃないけどそもそも人なんて一筋縄でどうにかなるような単純な生き物じゃないでしょ」
ミソンプの言葉に返す言葉がないポストルやサラリエは、食事をする手を止め、ミソンプを黙って見つめる。
「何かしらルールや組織があればそれに不満を抱く人が出るのは必然でしょ」
説得力のある言葉にポストルは、同意せざるを得ない。
「そ、そうかもしれないけど」
「抱いた不満をどう吐き出すかの問題でクリミネルの場合、それが武力ってだけ」
「ガルディアンに不満を抱く気持ちは分かるけど関係ない人を巻き込むなんて」
「そうでもしないと世間の目を引けないからでしょ。まぁ、テロを起こしたところで、他人事のように考える人がほとんどだろうけど」
ミソンプの冷静沈着な性格からかポストルは、彼女から何処かシレディアに似たものを感じ取った。
人間の愚かさに絶望し、何も変わらない、変わろうともしない人間に諦め、冷め切った印象をミソンプに初めて抱いた。
「それでも俺は、侵略者やクリミネルと戦うよ」
確固たる決意を胸にそう発言したポストルにミソンプは、冷たい言葉を返す。
「戦っても変わらないかもしれないのに?」
「それでも構わない。俺は戦うって決めたから」
初めて見るポストルの真剣かつ揺るがない表情を見たミソンプは、密かに笑みを浮かべた。
ポストルたちがクリミネルの話題で盛り上がっていると彼らが座る席に何者かの足音が近づいてくる。
「あれ?サラリエじゃん!」
「ゆ、ユノ中尉!?」
足音の正体は、パイロットスーツ姿のユノだった。
彼女の隣にいつもいるはずのシレディアがおらず、単独行動をしているユノが新鮮に見える。
自身の名前を呼ばれたサラリエは、右手に持っていたスプーンをトレーの上に置き、素早く立ち上がって律儀に一礼した。
「だからユノでいいよって言ってるじゃん!あと、そんな堅苦しいのもなし!」
「す、すみませんつい」
「まぁ、そこも含めて可愛いんだけどね」
「か、可愛い!?」
思いもしなかったユノからの褒め言葉にサラリエは、自身の顔が急激に熱くなるのを実感し、挙動不審に陥ってしまう。
「サラリエとユノ中尉って知り合いだったんだね」
ポストルは、いつの間にかサラリエとユノが、名前で呼び合う関係にまで進展していたのを初めて知った。
「あんたと知り合ってからすぐの頃にね」
サラリエとユノの出会いは、ガルディアン第3支部基地の女子更衣室で偶然一緒になったことがきっかけだ。
何か思い悩んでいるような表情で更衣室のベンチに座り、着替えようとしないサラリエが気になり、ユノから声をかけたことがきっかけだ。
恥ずかしさからサラリエは、更衣室で悩んでいた本当の内容をユノに伝えず、取って付けたように悩みを相談した。
そのため、ユノは、サラリエがポストルに特別な感情を抱いていることを知らない。
「ところでシレディアは?」
いつもユノの隣にいるはずのシレディアがいないことを不思議に思ったポストルは、シレディアを探す素振りしながらユノに尋ねた。
彼からの何気ない質問にユノの眉がピクリと反応し、穏やかだった表情が一瞬で豹変し、殺気に満ちた瞳でポストルを睨む。
「なんであんたに教えないといけないのよ」
「え、あ、その」
まるで蛇に睨まれた蛙が如く、ユノの鋭い睨みと殺気にポストルが怖気づいてしまう中、彼と同じ疑問を抱いたサラリエがユノに同じ質問をする。
「シレディア特尉はどうかされたんですか?」
サラリエの質問を聞いたユノは、再び表情を一変させ、ポストルの時とは異なり、和やかな表情で質問に答える。
「シレディアは司令とご飯なのよ」
「司令と!?」
「えぇ、月1くらいの間隔でシレディアと司令って一緒にご飯食べてるのよ」
シレディアの保護者であるガルディアン第3支部司令の提案により、シレディアは月に1回程度、司令と食事を共にしている。
司令としては、そこで娘のシレディアと交流を深める魂胆だったが、いざ食事会が始まるといつも仕事の話ばかりになってしまう。
年頃の女の子であるシレディアにどう接していいのか司令が分からず、手探りな会話のため、余計にそうなってしまうのかもしれない。
「な、なんか俺、ユノ中尉に嫌われるようなことしたかな」
サラリエとユノが楽し気に会話する中、どうしてユノの態度があからさまに他者と自分で違うのか全く分からないポストルは、肩を落として呟いた。
一方、またしても思わぬライバルの出現かと思いきやユノの態度からその可能性が完全に消えたミソンプは、安堵の表情を浮かべ、残りのコンソメスープを飲む。
自分のすぐ隣に自身と同じくポストルへ好意を抱く人物がいると知らずに。