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返り血ー1


1


ガルディアン第14支部基地管轄内ー上空



シレディアは、黒いエグゼキュシオンが積み込まれた大型輸送機の客席で揺られている。



ガルディアン第3支部基地から目的のガルディアン第14支部基地まで約1,000キロある。



飛行時間にして約2時くらいの距離だ。



こうしてシレディアが長い移動時間をかけ、ガルディアン第14支部基地を目指す理由。



ガルディアン第3支部基地司令の護衛として同行することになったからだ。



ガルディアン第14支部基地で年に1度の模様し物が開催される。



兵器開発を主とする様々な企業が集まり、自社の製品をお披露目するのだ。



例年通り業界を牛耳るレアシオン社はもちろん、普段は目立たない中小企業まで参加する。



それにガルディアン第3支部基地司令が招待され、護衛としてシレディアが選ばれた。



因みにシレディアは、このイベントに対して特に興味はない。



「起きていたか」



代わり映えしない空の景色をぼんやり見つめるシレディアに渋い声の男性が声をかける。



声をかけられたシレディアは、窓ガラスから視線を逸らし、声がした方向へ顔を向けた。



「はい、司令」



「せっかくの暇な時間だ。気にせず休んで良いんだぞ」



声をかけてきた男性は、ガルディアン第3支部基地司令を務めるテモワン・レゾヌマンだ。



ガルディアン内で司令のみが身につけることが許される特別仕様の制服。



そして、いくつもの勲章が目立つガルディアンの上着を肩からかけている。



強面と評判の顔は、皺が多少目立ち、白髪混じりの黒髪はワックスでオールバックにセットされている。



パイロットを引退した現在でも整った肉付きの体型であり、とても40代後半とは思えない。



「いえ、大丈夫です」



シレディアとテモワンは、ガルディアンから正式に認められた親子の関係にある。



人工適合者であるが故に身寄りがないシレディアをテモワンが自分の娘として引き取った。



しかし、親子の会話にしては素っ気ないものばかりであり、2人の会話は何処かぎこちない。



「今年も同行させてすまなかった」



「命令ですから」



せっかく2人きりなのに親子の会話というより上司と部下のような会話だ。



(少しは自分の気持ちを言ってくれても良いのだがな)



テモワンとしては、もう少し親子らしい関係を築きたいが、年頃の女の子とどう接して良いか分からない。



特にシレディアは、感情を表に出すタイプでもなければ口数が少ないクールな性格だ。



少しでも表情や言動から気持ちを読み取れれば接し方も工夫できるが、彼女相手だとそれは難しい。



「今年も『じー』は参加するんですか?」



「ん?あぁ、昨日連絡が来た時には参加すると言っていたが」



「そうですか」



「アイツがそう呼ぶの許しているとは言え、他の人が聞いたらびっくりするだろ」



とある人物のことを名前ではなく、親しみから『じー』と呼ぶシレディアに苦笑いを浮かべたテモワン。



「だっておじいちゃんだからじー」



「やれやれ」



シレディアの回答にテモワンは、呆れた表情を浮かべながら肩を落とす。



「たまにアイツが羨ましくなる」



「えっ?」



思わず溢れ出たテモワンの本音を隣で聞いたシレディアは、彼を見つめたまま軽く首を傾げた。



疑問が浮かぶ彼女を見て本音が漏れてしまったことに気付いたテモワンは、右手で自分の口を押さえる。



「いや、何でもない」



今日に至るまでテモワンは、シレディアから『お父さん』などの呼ばれ方をされたことがない。



いつか彼女がそう呼んでくれることを内心で期待しているが、残念ながら一向にその気配はない。



(アイツに先を越されるとは思っていなかった)



血縁関係でもないとある男性を『お爺ちゃん』としてシレディアは慕っている。



その男性もシレディアを孫のように受け入れ、可愛がっているからこそ彼女が懐いているのだろう。



(恐らくシレディアは私を『父親』として見ていない)



人間的感情が欠如しているシレディアが、テモワンを父親として認識しているかどうか怪しい。



そもそも『父親』という概念自体を彼女が把握していない可能性もある。



幼い頃から兵士として育てられたシレディアには与えられなかった知識だからだ。



(シレディアにとっては私もガルディアン上層部の連中と変わらないのだろうな)



シレディアは幼くしてガルディアン上層部によって人間らしい感情を出すことさえ許されない環境で育てられた。



命令に従うだけの無機質な兵器として仕立て上げられ、危険な最前線で戦ってきた。



どれだけ周りから理不尽な仕打ちや差別などを受けても自分の心を殺して戦うしかなかった。



テモワンの娘になったからと言ってシレディアに刻まれた傷が癒える訳がない。



加えてシレディアから見れば立場的にテモワンもガルディアンのお偉いさんだ。



テモワンがガルディアン上層部の連中と違うとしても彼らと同じく見えてしまうのも無理もない。



(もしあんな連中と同じに見られているなら心外だな)



同じ組織に所属し、目上の人たちではあるが、テモワンはガルディアン上層部の人間を心底嫌悪している。



テモワンがシレディアを娘として引き取る際も相当苦労した。



昔、シレディアはガルディアン本部所属のパイロットだった。



強力な戦力としてシレディアを手放したくなかったガルディアン上層部は、首を縦には振らなかった。



命令に忠実に従う兵器である彼女が、テモワンというう家族によって人間らしくなることを恐れたのだ。



その点から見てもガルディアン上層部は、シレディアを全く人間として見ていないと分かる。



何度もテモワンの申し出を無理矢理な理由を付けて却下し、シレディアを渡そうとはしなかった。



諦めなかったテモワンは、試行錯誤を重ねて強引に承認させることに成功。



こうして人工適合者という出生から身寄りがなかったシレディアを自分の娘にできた。



しかし、ガルディアン上層部は今でもシレディアのことを完全に諦めた訳ではない。



遠回しにテモワンへ嫌がらせしたり、シレディアを本部へ異動させるようと画策している。



「アイツに会うのが楽しみか?」



「はい」



会話が長続きせず終わってしまい、沈黙する2人の間に大型輸送機のエンジン音が鳴り響く。



今のシレディアは、兵士である前に年頃の女の子だ。



肉体のあらゆる部分が年相応に成長し、綺麗な大人の女性へ発展している。



親としては戦いと無縁の幸せな日々を送って欲しいというのが本望だ。



「そういえば最近何か違和感を感じたりすることはないか?」



「違和感?」



テモワンは、結局また仕事の話を切り出してしまう。



シレディアは、先日の身体検査のことを聞いているのだと勝手に思い込む。



多少体内に流れる侵略者アントリューズの血の濃度が高くなったが、些細な数値の変化に過ぎない。



検査を担当した女性職員も気にする必要はないと言っていたため、シレディアはそのことを伝える。



「別に異常はないと検査結果が出ました」



検査の結果は、女性の担当者を通じて毎回テモワンにも伝わっているはず。



それにも関わらず、聞いてきたということは忙しくて結果に目を通す暇がなかったのか。



シレディアは、そんな疑問を抱きながら彼の言葉を待つ。



「いや、そのことではなく、機体を操縦している時に違和感とかはないか?」



瞬時に思い当たる節が出てこないシレディアは、少しの間考え込む。



強いて言えば自分の反応に機体の動きが僅かにズレているような感覚が最近するくらい。



とは言え、違和感というには些細であり、シレディア専用機は、他の量産機に比べて調整が難しい。



完全に設備が整った環境ならその些細な違和感も解消されるだろう。



「特にはありません」



「そうか」



「どうしてそんなことを?」



「例の件が順調に進んでいるらしいからお前の調子が気になってな」



「例の件……まさかあれが?」



「あぁ、昨日アイツがそう言っていた」



2人にしか分からない会話をしていると目的であるガルディアン第14支部基地に大型輸送機が到着。



地上の誘導員の指示に従い、大型輸送機がゆっくり降下を始め、指定の場所に着陸した。



着陸してから程なくして大型輸送機からテモワンとシレディアの2人が降りる。



「ようこそガルディアン第14支部へ」



「出迎えに感謝する」



出迎えに来たガルディアン第14支部基地司令を務める中年男性とテモワンが簡単な挨拶を交わす。



挨拶を交わしたガルディアン第14支部基地司令は、シレディアを異物でも見るように横目で見つめる。



人工適合者には挨拶などする必要はないと言わんばかりに彼女を無視し、テモワンを会場へ案内する。



あからさまな態度にテモワンが気付かないはずもない。



(どいつもこいつも人の娘を人として見ない)



良い方向に仕組みが変わっても人から負の意識が消えないという人の醜さを象徴しているだろう。



テモワンは、己の感情に任せ、相手の胸ぐらを掴んで文句の1つでも言いたくなるがそれを堪えるのであった。

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