似た者ー4
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ガルディアン第3支部管轄内ー廃都市アイエラメント。
ガルディアン第3支部基地管轄内の海域。
その海底に存在する異空間の狭間から1体の侵略者が出現した。
当然、侵略者が目指すのは人々が密集するガルディアン第3支部基地だ。
ガルディアンが侵略者に与えたコードネームは『ヌロンブ』。
ヌロンブ討伐にポストルとミソンプの2人が出撃した。
戦闘シミュレーションを行っていたため、既に出撃可能な状態だったからだ。
本来ならベテランパイロットを同行させるところだが、タイミング悪くシレディアは不在。
ユノを同行させた場合、万が一の時、タージュとサラリエの新兵2人でガルディアン第3支部基地を防衛することになる。
流石にそれでは心許ないと判断され、ポストルとミソンプの2人にヌロンブ討伐を任せた。
ミソンプは、新兵でありながらベテランパイロット並みの実力があり、どうにかなるだろうという楽観的な考えもあっての判断だ。
「ミソンプが一緒とは言え、新兵2人で侵略者を倒せるのか」
専用の大型輸送機から切り離され、エグゼキュシオンと共に現地に到着したポストルは、コックピットの中で不安を隠せない。
決してミソンプの実力を疑っている訳ではない。
いつも同行していたシレディアがいないことがポストルを不安にさせているのだ。
せめてユノが一緒なら話は変わったが、ガルディアン第3支部基地の戦力を考えれば我がままは言えない。
「何か予想外のことが起きたらミソンプと2人で何とかしないといけない」
いざという時は新兵2人で状況を判断し、適切に対処しなければならない。
しかも、ミソンプはポストルと違って今回が初陣だ。
実際の戦場ともなれば凄まじい緊張感と死の恐怖が嫌でも襲ってくる。
冷静沈着なミソンプは表情に出さないが、恐らくそれらに押し潰されそうな思いだろうとポストルは、コックピットモニター越しに彼女のエグゼキュシオンを見つめる。
既に何度か出撃し、実戦の空気を味わっているポストルですら今もその感覚に襲われ、息が詰まりそうな思いだ。
「いつまでもシレディア特尉に頼る訳にはいかないって分かってるけど」
強くなって自分1人でも侵略者を倒せるようになるだけではない。
自分を戦うためだけの存在と肯定し、孤独に戦おうとするシレディアに寄り添えるくらいの強さが欲しい。
それがポストルの願いではあるが、実戦の恐怖がシレディアという心強い存在を求めさせる。
「打ち合わせ通り、私が前でポストルは後ろ」
通信回線を通して聞こえてきたミソンプの声でポストルは過去を思い出す。
それはコードネーム『エロジオ』を討伐するため、シレディアと一緒に出撃した時のことだ。
司令からの命令に不満を抱いていたポストルは、大型輸送機に揺られながら通信回線でシレディアと一緒に前へ出て戦いたいと申し出た。
しかし、シレディアから『邪魔だから前に出なくていい』と冷たく突き放され、結局最後まで彼女の戦いを後ろで見ていることしかできなかった。
その場面と今回の場面が重なり、シレディアとミソンプの姿までもが重なり合う。
「ミソンプまで1人で戦わせてしまうのか俺は」
コックピットモニターに映るミソンプの白いエグゼキュシオンが、シレディアの黒いエグゼキュシオンにポストルは見えて仕方がない。
ポストルは、自分だけが安全な後方で見ているだけなんて卑怯であり、決して納得できない。
これでは人工適合者や疑似人工適合者に戦いを任せ、自分たちは何もしない連中と同じと言われても仕方がない。
ポストルの場合、自分の意思でそうしている訳ではないが、毛嫌いしている連中と同じなのが気に入らない。
「ミソンプだけに負担をかけさせたくない。俺も前に出るよ」
「無理しなくていい。あんたはわたしが守る」
「守れられるだけなんて情けないよ。俺だってこう見えてもエグゼキュシオンのパイロットだ」
「前回の侵略者みたいなことがあるかもしれない。いざという時のためにわたしの後ろにいて」
ミソンプは、シレディアが討伐した侵略者、コードネーム『ベムイト』のような事態が起きることを警戒している。
確かに今回の侵略者もシレディアが討伐したコードネーム『ベムイト』のように2体に増える可能性はある。
そうなればミソンプを守れるのはポストルしかいない。
「きた」
いち早く侵略者をコックピットモニターで視認したミソンプの声に釣られ、ポストルも侵略者をその目で視認した。
「あれが今回出現した侵略者」
コードネーム『ヌロンブ』は、ゆっくりと2本の脚で草木が生い茂る地面を踏み、正面から堂々と接近してくる。
蝿のような顔にクワガタを思わせるハサミが口部から生えている。
また、昆虫の体節を蔓のようなものが覆い、頭部から生える触角には蝿か蝉を思わせる複眼ある。
腰にあたる部分には蜂を思わせる腹部が存在し、不気味に数か所穴が開いている。
多種類の昆虫と植物が混在した容姿を持つ侵略者だ。
「くっ!ま、また手が震えて」
ヌロンブを見た瞬間、またしても精神病による手の震えが始まり、嫌な汗が額から溢れ、頬を伝って滴り落ちる。
移動中にコックピット内で精神安定剤を飲んだが、本物の侵略者から放たれる威圧や恐怖がそれを上回る。
何とか自身を落ち着かせ、症状を抑え込もうとするポストルをよそに素早くミソンプが動き出す。
「ポストルが苦しむ姿は見たくないからさっさとあんたを殺す」
エグゼキュシオンに追加装備された地上用スラスターを限界まで吹かし、一気にヌロンブとの距離を詰めていく。
それにヌロンブが気付かない訳もなく、右手の刺々しい鞭を振るう。
向かってくる鞭を軽々とアクロバティックに避け、勢いを殺さず回転蹴りを顔面に浴びせる。
強烈な一撃に怯むヌロンブに間髪入れず、ミソンプが操る白いエグゼキュシオンは再び顔面を蹴り飛ばす。
連撃に体勢を崩したヌロンブは、草木が生い茂る地面に膝をつく。
「これで終わり」
エグゼキュシオンの両腕部から展開した超高周波ブレードをヌロンブの首筋目掛けて振り下ろす。
超高周波ブレードは、どの世代機にも装備されているエグゼキュシオンの標準武装だ。
未使用時は、両腕部に収納されており、コントロールグリップのスイッチを押下するとことで展開する。
「っ!?」
振り下ろされた超高周波ブレードは、ヌロンブの首ではなく地面を切り裂いた。
ミソンプを油断させるため、やられた振りをしていたヌロンブは、寸前で超高周波ブレードを避けたのだ。
そして、お返しと言わんばかりに連続で白いエグゼキュシオンの頭部や脇腹を蹴り上げる。
「ミソンプ!」
ポストルは、ミソンプを援護しようと震える両手で自分のエグゼキュシオンを動かす。
彼が乗るエグゼキュシオンは、装備していたバレットアサルトライフルの銃口をヌロンブに向ける。
しかし、手が震えてヌロンブに上手く照準を合わせられない。
「友達がピンチになのに!」
合わない照準ではミソンプに命中する恐れがある。
それが分かっているようにヌロンブは、ミソンプの白いエグゼキュシオンを盾にするような立ち位置にいる。
「まさかあの侵略者、ミソンプを盾にして!」
ずる賢い思考を持つヌロンブは、虫の羽音のように耳障りな鳴き声を上げる。
まずはミソンプのエグゼキュシオンを仕留めるため、不気味に6つの穴が開いた蜂を思わせる腹部から棘を発射する。
それ見たミソンプは、素早く機体を後方に下げ、上手く避けていくが、棘に意思でもあるかのように方向を変え、再び迫り来る。
「追尾してくる!?」
ヌロンブが放った棘は、消滅するまで対象を追ってくる自動追尾式なのだ。
ミソンプくらいの実力者なら避けるのは容易い速度だが、これでは避けてもキリがない。
「なら弾き飛ばす」
素直に真っ直ぐ向かってくる棘を超高周波ブレードで弾き飛ばそうと刃を振り下ろす。
「っ!?」
超高周波ブレードと棘が接触した瞬間、棘が爆発してミソンプの白いエグゼキュシオンを爆煙が包み込む。
視界を奪われてしまったミソンプは、残りの棘を回避できず、爆撃を受けてしまう。
「ミソンプ!」
爆撃によって機体の通信回線が故障したのか応答がなく、酷い雑音しか聞こえない。
巻き上がった爆煙が空気に混ざるように消え去り、地面に膝をついた白いエグゼキュシオンが姿を現す。
爆撃で至る箇所が破損し、装甲が黒く汚れ、通信の役割を果たすアンテナがへし折れている。
「き、機体のダメージが」
攻撃が命中する寸前、コックピット前で機体の両腕を交差させ、身を守ったミソンプ。
お陰で怪我はせずに済んだが、想像以上に機体がダメージを負い、上手く機体が立ち上がらない。
そんな動けないミソンプの白いエグゼキュシオンにトドメを刺すべくヌロンブは、離れた距離から6発の棘を放つ。
安易に近づいてミソンプから反撃される可能性を恐れての判断だ。
勝利を確信するヌロンブは、高笑いするように体を小刻みに動かし、鳴き声を轟かせる。
しかし、次の瞬間、放った棘が次々と爆発しながら消滅し、ミソンプの白いエグゼキュシオンに命中しなかった。
突然のことに驚いたヌロンブは、ポストルの白いエグゼキュシオンへ視線を移す。
「な、なんとか命中した」
構えたバレットアサルトライフルの銃口から白い煙が漂う。
「ポストル」
メインカメラが故障し、画質が荒れているコックピットモニター越しにポストルの白いエグゼキュシオンを見つめるミソンプ。
心の中でいざとなればきっとポストルが助けてくれると信じていたミソンプは、ピンチな状況でありながら微かに微笑んだ。
「こ、こっちに来い!」
ヌロンブが自分に注意を引くようバレットアサルトライフルをなりふり構わず乱射する。
ポストルの誘いに乗るようにヌロンブは、ポストルの白いエグゼキュシオンに狙いを変える。
今のポストルは、ミソンプを守ることだけに意識が集中しており、手の震えや汗が止まっていた。
本人は全くそのことに気付いておらず、無我夢中で引き金を引き続ける。
「棘を飛ばしてこない。もしかして弾切れか?」
棘は次弾の補充までに時間が掛かるため、近接戦でポストルの白いエグゼキュシオンを倒そうとヌロンブは走り出す。
「私も戦わないと」
加勢しようとミソンプは、コントロールグリップを何度も動かすが、機体の動きが酷く鈍い。
そんなことをしている間にもヌロンブは、徐々にポストルの白いエグゼキュシオンと距離を詰める。
バレットアサルトライフルの弾丸が皮膚を貫いてもお構いなしだ。
「くそ!」
ポストルがミソンプよりも能力が低いと見抜いたヌロンブは、余裕な様子で右手の鞭を振るう。
「ライフルが!?」
意図も簡単にバレットアサルトライフルを薙ぎ払われ、後退りするポストルの白いエグゼキュシオン。
「ポストル逃げて!」
爆撃で通信回線が故障したため、ミソンプの必死の叫びは残念ながらポストルには届かない。
「俺だってやれる!」
コントロールグリップのスイッチを押下し、機体両腕部から超高周波ブレードを展開する。
ミソンプのように超高周波ブレードを構えてヌロンブに立ち向かうが、動きが単調過ぎてヌロンブは軽々と避けてしまう。
必死に攻撃を繰り出すポストルを弄ぶようにヌロンブは、避けるだけで反撃はしない。
流石のポストルもヌロンブが自分を馬鹿にしていると察し、怒りを露わにする。
「馬鹿にして!」
後方に回り込んだヌロンブを振り向くと同時に切り裂こうとするが、それもヌロンブにはお見通しだ。
左手で白いエグゼキュシオンの右腕を鷲掴み、右手の鞭を左腕に絡ませ、攻撃を封じる。
「くっ!」
装甲が激しく軋む音が響き渡る中、ヌロンブが口部を広げ、その奥に隠していたドリルでコックピットを貫こうとする。
しかし、背後から何者かに銃撃され、攻撃を中断してよそ見をする。
そこには中破しながらもバレットアサルトライフルを手に持ち、銃撃してきたミソンプの白いエグゼキュシオンがいた。
「今だ!」
ミソンプが作ってくれた隙を逃さず、反撃に転じるポストル。
ヌロンブの腹部を蹴り、怯んだ隙に拘束を振り払い、超高周波ブレードを振り下ろす。
超高周波ブレードの刃は、ヌロンブの腹部を切り裂き、大量の血飛沫が飛び散る。
「これで終わりだ!」
腹部を切り裂かれた強烈な痛みで何もできないヌロンブは、見下していたポストルに頭部を貫かれる。
大脳を破壊されたヌロンブは、岸辺に打ち上げられた魚のように体を何度か跳ね上がらせた後、地面に膝をついて力尽きた。
「や、やったのか?!」
無我夢中だったためか侵略者を自分の手で討伐した実感が湧かないようだ。
「手の震えもない」
今になって症状が落ち着いていることに気付いたポストルは、何度も自分の手を見渡す。
大切な友達を助けたい強い気持ちが一時的に症状を打ち消したのだろう。
「ミソンプ!」
思い出したかのようにポストルはコントロールグリップを動かし、ヌロンブの頭部を貫いた超高周波ブレードを引き抜く。
そして、中破して立ち上がれないミソンプの白いエグゼキュシオンに駆け寄る。
こうしてポストルは、ミソンプの助けがありながらも初めて侵略者を討伐できたのであった。




