飛羽編ー1
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ガルディアン第3支部基地内ー第2格納庫
「ふー……シミュレーター完了」
機体のシミュレーター機能を使った訓練を終え、一息ついたサラリエは、機体の電源をシャットダウンする。
同時に機体の電源が落ち、電気が消えた薄暗いコックピットにあるボタンを押し。コックピットハッチを開けた。
座席から立ち上がると身に着けているラバー製のパイロットスーツが伸縮し、ゴム独自の音が静かなコックピット内に響く。
シミュレーターの最中に侵略者が襲来した場合、すぐ出撃できるようシミュレーション時には、パイロットスーツの着用が義務付けられている。
当初は、着替えるのが面倒に感じていたが、すっかりルーティン化したせいか今では何も不満はない。
「お疲れ様サラリエ」
「ぽ、ポストル!?どうしてここに?」
ポストルの出迎えに驚くサラリエに彼は、左手に持っていた栄養ドリンクを手渡す。
栄養ドリンクを受け取ったサラリエは、同い年かつ同期であるポストルに対し、律義に軽く一礼する。
「ありがとうございます!」
「仕事が終わって廊下を歩いてたら偶然サラリエが特訓してるって聞いてさ」
ポストルは、仕事終わりに廊下を歩いていたところ自整備士の2人の話を小耳に挟み、その中でサラリエがシミュレーターで特訓していることを知ったのだ。
「わざわざありがとうございます」
わざわざ自分を待ってくれたポストルの優しさにサラリエは、嬉しさから胸に手を当て、頬を赤く染める。
「大した差し入れじゃないけど」
本来なら不味いと評判の栄養ドリンクではなく、違った差し入れをしたいが、このご時世、手軽に入手できるのはこれくらいしかない。
シレディアくらいの階級になれば、多少入手できる物資の種類も変わってくるが、まだ階級の低いポストルはこれが精一杯だ。
(とは言え、前にシレディアから貰ったキャンディも大して味的に変わらないか)
ポストルは以前、シレディアが好んで食べている棒付きキャンディを貰って食べたことがある。
珍しい食べ物に期待大だったが、味は何となく甘い味がするだけで、栄養ドリンクよりは多少マシな程度だった。
正直言って毎日食べたいかと聞かれたら食べたいとは思わない。
しかし、何故かシレディアは、それを好んでおり、ガルディアンから定期的に支給してもらっている。
ポストルは、内心で彼女が味音痴なのではないかと一瞬疑ったが、味音痴ならあんなに美味しいサンドウィッチが作れるはずがない。
「いえ!凄く嬉しいです!」
栄養ドリンクで大袈裟なまでの喜ぶサラリエにポストルは、彼女に気を遣わせてしまったと勘違いし、苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうな仕草をした。
しかし、彼女には大袈裟や気を遣ったとかではなく、純粋にポストルからの気持ちが嬉しなかった。
「なんか気を遣わせちゃったかな?」
「そんなんじゃありません!私はポストルから頂けるものなら……っ!?」
勢いに任せて自分の内に秘めている気持ちを打ち明けそうになり、寸前のところで我に返る。
ポストルから見ても分かるくらい頬を赤く染め、サラリエが動揺していると下からポストルの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「ポストルー!わたしと一緒に晩ご飯食べる約束忘れてない?」
声の主は、ポストルと夕食を一緒に食べるため、彼を探していたミソンプだった。
表情がいつもあまり変わらず、シレディアと同じで何処かぼっとしており、感情が掴み難い彼女に対し、ポストルは上から言葉を返す。
「忘れてないよー!今そっちに行くよ!」
ポストルに好意を伝えるチャンスを思いもしない形で失ったサラリエは、抱いていた嬉しさが急に冷める。
「そうだ!サラリエも一緒にどう?」
ポストルからの誘いはサラリエの耳に届いていたが、すぐに答えることができず、表情に影を落とし、パイロットスーツに包まれた自身の右手を力強く握り、自分の気持ちを抑え込む。
そんな彼女の様子を不思議に思った彼は、もう一度サラリエの名前を呼ぶ。
「サラリエ?」
「えっ!?あ、はい!是非ご一緒させてください」
ポストルは、さっきと何処か様子が違うサラリエを不思議に思ったが、追及することはしなかった。
「それじゃ食堂前に集合でいいかな?」
「はい、急いで着替えてきますね!」
「焦らなくても大丈夫だよ」
簡易階段から降り、鉄の床に足を付いたポストルとサラリエは、食堂で待ち合わせの約束を交わし、一旦別れる。