意味編ー3
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ガルディアン第3支部管轄内ー廃都市ナオラッカ
ガルディアン第3支部が管轄する領土にある廃都市の中で1番小規模な都市だ。
昔は、小規模ながらもショッピングモールや有名飲食店が立ち並び、現地の人々や観光客で賑わっていた。
しかし、侵略者に滅ぼされて以降、見る影もなく朽ち果て、人間が生活していた面影はない。
人間がいた証を覆い隠すように青々と生い茂る草木が包み込み、野生動物たちが優雅に活動している。
自然に満ち溢れた廃都市ナオラッカに2機のエグゼキュシオンが足を踏み入れ、その衝撃に反応した野生動物たちが次々とその場から逃げ去る。
襲来した4体の侵略者のうち1体が、ガルディアン第3支部を目指して進行中であり、彼を討伐するため、ガルディアン第3支部から出撃したシレディアとポストルの2人。
「人型の侵略者なんて久しぶり」
シレディアは、機体のコントールグリップを両手で握り、前面のコックピットモニターに表示している侵略者の情報を見て、コックピット内でそう呟いた。
人型の侵略者が襲来する頻度は少なく、数ヶ月に1~2体襲来するかしないか珍しい固体だ。
一説では、侵略者が人間を敵視しているから人型の個体が少ないのではないかという説がある。
「今回の侵略者を倒してもどうせまた湧いて出てくる」
戦う前から戦意を失いつつあるポストルは、機体のコントロールグリップを握る手にもあまり力が入らない。
(シレディアやユノ中尉も自分勝手な人たちに利用されて)
ポストル機の隣で漆黒のエグゼキュシオンを操縦するシレディアやガルディアン第3支部基地で待機するユノの2人が、過去に周りから受けた被害を知れば尚更、人間がどれほど醜いか分かる。
以前、ポストルは、シレディアが押し殺し続けてきた内心を聞き、ガルディアンの歪みを知った。
組織とは、一筋縄ではいかないものだと若いながらポストルも理解している。
しかし、幼い女の子だろうと人権や本人の意思を無視し、洗脳的教育を施すことで都合の良い兵士に育て上げてきたガルディアン……いや、同じ人間に嫌悪感を抱く。
一部の人は、自分たちと同じ人間にも関わらず、生まれ方や血が異なるなどという些細な理由から彼女たちを差別し、ただの道具か兵器としてしか見ない。
そんな人たちを守るため、自分の命を危険に晒し、必死に侵略者と戦うのが馬鹿らしく思えてくる。
「ポストルは戦わなくていい」
通信回線を通して聞こえたシレディアの予想もしなかった言葉にポストルは、驚きと動揺を隠せない。
「な、なにを言って」
普通の人より勘が鋭いシレディアは、全てではないもののポストルの気持ちを理解していた。
「わたしが戦うからポストルは戦わなくていい」
自分よりも人間の醜さに絶望しているはずのシレディアが、こうまでして戦うのはガルディアンに植え付けられた歪んだ概念のせいだと思ったポストルは、怒鳴り声にも似た声を上げる。
「シレディアは戦うためだけの存在じゃないんだ!だからガルディアンの言いなりになって戦う必要なんてないよ!周りには自分のことしか頭にない身勝手な人たちがいて、シレディアだって嫌な思いをたくさんしてきただろ!そんな人たちを守るために戦って何の意味が」
抱いている不満を爆発させたポストルの言葉を遮るようにシレディアが口を開く。
「昔のわたしもそう考えながらいつも戦ってた。でも、そんなわたしを変えてくれたのはポストル」
ポストル自身、シレディアからそう言われても自覚がないため、驚くことしかできない。
「ポストルは、わたしを助けるために戦ってくれた。わたしの気持ちを聞いても嫌な顔をしないで受け止めてくれた。同じ仲間として一緒にご飯食べたり会話してくれる」
シレディアは、話ながら自身の機体を操縦し、漆黒のエグゼキュシオンにエグゼツインブレードを握らせ、目の前から迫る強敵との戦闘に備える。
「だからわたしは決めた。わたしに優しくしてくれる人たちと一緒に過ごすために戦う。それが今のわたしの戦う理由、わたしが存在する意味」
シレディアの断固たる意思を感じたポストルは、自身の情けなさと彼女の優しさが入り混じった感情に胸が締め付けられるような感覚を味わう。
明確に戦う意味と自分の存在理由を持ち、侵略者に立ち向かおうとする彼女が、いつも以上に大きい存在としてポストルの瞳に映る。
「わたしが戦うことで悪い人たちが得をしても構わない。永遠に侵略者との戦いが終わらなくても構わない」
シレディアの迷い無き眼差しが迫り来る侵略者、コードネーム『シュヴァ』をはっきりと捉える。
まるで騎士をモチーフにしたかのような容姿を持つ2足歩行の侵略者は、不気味に2つの青黒い瞳を輝かせ、シレディア機を睨む。