意味編ー2
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ガルディアン第3支部基地内ー食堂
侵略者に関する講義を終えてから約1時間ほどが経過した。
ポストルは、シレディアやユノの2人と一緒に食堂で代り映えしない昼食を食べている。
今では彼女たちのパイロットスーツ姿も見慣れ、ポストルは赤面したりせず、普段通り食事をする。
(侵略者との戦いに終わりがないなら俺たちの戦いに意味はあるのか)
ポストルは、自分たちの戦いが徒労に終わるのではないかという考えが頭から離れず、心なしか味気ないポレンタが、いつも以上に味気なく感じる。
両親の仇や自身と同じ思いを他の人にさせないため、エグゼキュシオンのパイロットとなり、人類を守るため、復讐のために戦っている。
しかし、ポストルが守ろうとする者の中には欲に塗れた人間も少なからず存在する。
もし侵略者との戦いに一時的な終わりが来たとすれば人類は、豊かになった自然を我が物とし、生態系の頂点に返り咲くだろう。
そして、私利私欲に取り憑かれた人たちが、再び豊かな地球環境を汚すかもしれない。
侵略者が地球の免疫システムだとすれば、再び地球環境が深刻化した時、彼らがまた襲来し、自然界のバランスを保つため、人類に猛威を振るうことになる。
そうなれば己の身を削る思いで戦っても徒労に終わり、再び侵略者の脅威に怯える暮らしがやってくる。
今のポストルにはそうなる未来しか見えない。
何処か思い詰めた表情を浮かべるポストルに違和感を抱いたシレディアは、栄養ドリンクを片手に尋ねる。
「ポストル何かあった?」
「えっ!?」
考え事をしている最中、シレディアから問いかけられ、我に返ったポストルは、下を向いていた顔を上げ、正面に座る彼女に視線を合わせる。
「難しい顔してる」
シレディアからそう言われたポストルは、義母から『あなたは感情がすぐ表情に出る』と注意されたことを思い出した。
そんな彼に対し、シレディアの隣に座るユノが、何処か不機嫌そうな態度で言葉を発する。
「あんたは分かり易いのよ」
ユノが不機嫌なのは言わずもがなシレディアと2人きりの食事かと思いきやポストルがいるからだ。
もちろんポストルにシレディアとユノの中を割こうとする意思は一切なく、今回はたまたま彼女たちと昼食の時間が重なり、シレディアに誘われ、こうして3人で食事をしている。
「何か悩み事?」
不思議そうに首を傾げ、ポストルにそう訊ねたシレディアは、ストローを柔らかい唇で咥え、不味い栄養ドリンクを飲む。
「俺たちの戦いに意味があるのかなって」
ポストルの言葉を聞いたユノは、愚問な彼の悩みに呆れた表情を浮かべた後、強い言葉を浴びせる。
「今更なに言ってんのよ!あるに決まってるじゃない!」
ユノは、左手に持つスプーンの先をポストルに向け、間髪入れず話を続ける。
「あの化け物を殲滅するためでしょ!」
ポストルは、自信たっぷりなユノから思わず視線を逸らし、質問を投げかける。
「もし戦いが終わらなかったら?もし戦いが終わった後、また侵略者が襲ってきたら?」
「ふん!戦いが終わろうと終わらないだろうと私は、シレディアと一緒に暮らせればそれで満足よ」
ポストルの問いにそう答えたユノは、無表情で不味い栄養ドリンクを飲むシレディアの左腕を抱き締め、満足げな表情で頬を擦り付ける。
「戦いが終わって世界が平和になっても人類の行いで、また侵略者が襲ってくるかもしれないって思ったんだ」
それを聞いたシレディアは、咥えていたストローから唇を離し、ポストルに尋ねる。
「そうなればわたしたちの戦いが無意味になるって考えたの?」
シレディアの勘が鋭く、人の考えや行動を見抜くのに長けているとポストルは、改めて実感した。
「うん」
「誰にもそんな未来にならないとは言い切れないし、なるとも言い切れない」
「もちろん俺の考えは確証のない話だって分かってるよ」
「でも、ポストルは、そうなる可能性が少しでもあるなら戦いたくないんでしょ?」
シレディアに本心を突かれたポストルは、言葉を詰まらせ、沈黙がその場にいる3人を包み込む。
ポストルにとって、侵略者は両親の仇であり、彼らにどのような役割があろうと皆殺しにしてやりたい。
しかし、死ぬまで自分の願いが叶わないかもしれないという恐れ、もし叶ったとしても人類の愚かな行為でそれが徒労に終わるかもしれない不安が、彼の心を惑わせる。
「それは……」
ポストルが重い口を開いたその時、ガルディアン第3支部基地内に侵略者の出現を知らせるサイレントと緊迫したアナウンスが流れ、緊張が瞬時に場を支配する。
「異空間の狭間から侵略者が4体出現!パイロットは至急出撃に備えてください!」
侵略者と戦う意味が揺らぎ、現実から目を逸らすように視線を壁に向けるポストルをシレディアは見逃さなかった。