似た者ー1
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ガルディアン第3支部基地内ー第2格納庫
レアシオン社からエグゼキュシオン用の地上用スラスターが届いた。
現在、技術兵たちが各機体への装備を進めている。
地上用スラスターが装備されることで、エグゼキュシオンの機動力増強に繋がる。
専用の作業着を着た技術兵たちが、忙しそうに装備作業を進める様子を地上からポストルは見上げていた。
「いくらエグゼキュシオンが強化されても侵略者はさらに上を行く」
先日のシレディアとベムイトの戦闘記録を見たポストルは、よりそう思えてしまう。
これまでの侵略者とは違って首を切断されても死ななかった。
それどころか切断された頭部から新たな胴体が生成され、2体に増えてシレディアと対等に渡り合った。
シレディアを凌駕する侵略者が現れるのも時間の問題かもしれない。
「今回もシレディア特尉が倒してくれた」
ポストルは、もし自分がベムイトと戦っていたらと脳内で想像する。
「俺が戦っていたら呆気なく負けていたな」
恐らくベムイトの弱点を見抜く前に敗北していただろうとポストルは、自分の力不足に落胆する。
「俺はいつになったら侵略者をこの手で殺せる?」
ポストルが自分の右手に視線を移すと小刻みに震えていた。
脳内でベムイトと戦った自分を想像したからではなく、朝から精神的に調子が悪い。
症状を抑えるため、医者から処方された薬を服用したが、あまり良くならない。
彼が後ろ向きな発想ばかりなのもこれが原因だ。
「こんな状態の俺なんか」
早く忌々しい精神病から解放されたい気持ちとは裏腹に症状は改善されない。
初陣で生の侵略者と対峙して以来、症状が酷くなっているようだ。
悪夢を見る頻度も多くなり、こうして朝からポストルの精神を蝕む。
「ポストル」
背後から名前を呼ばれると同時に肩を叩かれたポストルは、反射的に体を跳ね上がり、慌てて振り返る。
「み、ミソンプ!?」
「なにしてるの機体を黙って見つめて」
「いや、特に何かあるって訳じゃないけど」
どう答えればいいか分からないポストルは、曖昧に言葉を濁して黙り込む。
常人よりも勘が鋭いミソンプは、彼の暗い表情と右手が小刻みに震えていることに気付く。
「なるほど」
今日のポストルは、精神的に不安定な状態だと見抜いたミソンプは、彼の手を握って強引に引っ張る。
力を入れる暇もなかったポストルは、まるで親に手を強引に引かれる子どものようだ。
「ちょ!?み、ミソンプ!?」
「いいから来て」
「ど、何処に行くんだ!?」
ミソンプに手を引っ張られる形で第2格納庫を後にし、ポストルは鉄の長い廊下を歩く。
偶然にもその姿を遠くから目撃したシレディアは、表情を変えることなく、ただ黙って見つめた。
弱々しく手を引っ張られ、何処かに連れて行かれる姿をシレディアに見られたとは知らないポストル。
やがてガルディアン第3支部基地で働く職員たちの部屋が並ぶ廊下に到着する。
「こ、ここって」
「わたしの部屋」
「そうかミソンプの部屋か……ってなんで!?」
「入って」
異性を自分の部屋に招き入れることに何も感じないのかミソンプの表情は何も変わらず冷静だ。
手を引かれるポストルは、自分の現状を認識し、頬を赤く染め、慌てて彼女の手を払おうとする。
いくら同期とは言え、女の子の部屋で2人きりになるのは流石に不味いと感じたからだ。
こんなところを誰かに見られでもしたら変な噂を流されてしまう可能性だってある。
「さ、流石に2人きりは」
「いいから入って」
「こ、心の準備がまだ!」
強引に部屋へ連れ込まれたポストルは、生まれて初めて女の子の部屋に足を踏み入れた。
室内は女の子の部屋とは思えないほど殺風景であり、必要最低限のものしかない。
自分の部屋と大して変わらない風景のせいか緊張感が僅かに和らぐ。
違いを挙げるとしたら部屋中に女の子の……ミソンプの甘い香りが漂っていること。
「こ、これがミソンプの部屋」
「こっち」
ミソンプに導かれるがままポストルは、ベッドの上に腰を下ろし、そのまま彼女に優しく抱き締められた。
「み、み、ミソンプさん!?」
突然のことにポストルが顔を真っ赤にするのに対し、相変わらずミソンプの表情は変わらない。
それどころかまるで最愛のペットを撫でるように丁寧かつ優しくポストルの頭を撫でる。
「じっとして」
付き合っていないにも関わらず、側から見れば恋人同士のような光景だ。
恥ずかしさと緊張でポストルの感情が沸騰寸前まで膨れ上がり、熱を帯びて動悸が加速する。
もしこの光景をタージュにでも見られたら恐らく死ぬまでポストルを茶化すだろう。
「あんたの気持ちが少しでも落ち着けばいいなって」
「ミソンプ」
ミソンプの行動の意味を理解したポストルは、さっきまで抱いていた感情が急激に冷める。
そして、ミソンプに気を遣わせてしまったことに対して申し訳ない表情を浮かべる。
「ごめん。気を遣わせて」
「あんたが楽になるなら何でもする」
「何でもは流石に」
「わたしにとってあんたは何より大切な存在」
ミソンプの抱擁も相まって気付かぬうちに手の震えが治り、心の沈みもなくなっていた。
「ありがとうミソンプ。そんな風に俺のことを思ってくれているなんて嬉しいよ」
「そう」
「正直、出会ったばかりの頃はそう思ってもらえるなんて思っていなかったから」
ポストルとミソンプの出会いは、訓練兵としてガルディアンに入隊した時まで遡る。
ミソンプはその性格から周囲の人間とは必要以上に絡もうとせず、同期の中でも孤立していた。
(昔のミソンプってシレディア特尉に似てるような)
昔を思い出していたポストルの脳内でシレディアとミソンプの姿が重なり合う。
2人の雰囲気や性格が似ているのもあって余計に姿が重なったのもかもしれない。
「わたしは最初、あんたを慣れ慣れ奴だと思ってた」
「ご、ごめん。迷惑だったよね」
「謝らなくていい。お陰で今のわたしがあるから」
当初、ポストルを馴れ馴れし奴だとして邪険にし、相手にしようとしなかった。
ミソンプはとある日、彼が幼い時に両親を失い、それがきっかけで重度の精神病を患っていることを知る。
精神病に苦しめられ、症状が酷くても訓練に取り組む懸命な彼にミソンプは興味を持つ。
自分が辛いにも関わらず、純粋な優しさを振り撒くポストルにいつしか心を許し、惹かれるようになった。
「そのリボン使ってくれてるんだね」
三つ編みの髪を結んでいるリボンが視界に入ったポストルは、嬉しそうな表情を浮かべた。
「あんたが誕生日にくれたリボンだから」
訓練兵卒業が間近に迫ったある日、ポストルは綺麗な白いリボンをミソンプの誕生日にプレゼントした。
頻繁にではないが、ガルディアン基地から出て領土内を自由に行き来する許可が出る。
領土内では所持金の範囲内で好きなものを買ったり、食べたりして構わない。
ガルディアン職員に許された貴重な休日とも言える。
「ちょうど外出の許可が出た日、ミソンプの誕生日だったし、ミソンプに似合いそうだなって」
いつもミソンプがボロボロなリボンで髪を結んでいたことを密かにポストルは気にしていた。
そこまで愛用するからには何か理由やら愛着があるのかと思い、ミソンプに尋ねると深い意味はなかった。
ただ髪を結べるものがこのリボンしかなかったため、それを使っていただけだった。
それを聞いたポストルは、今度領土内で買い物できる機会があればミソンプにリボンを買ってプレゼントしようと決める。
当時のポストルは、まだ訓練兵ということもあり、今よりも少ない給料だった。
それでもポストルは自分のためではなく、友達のために使うことを迷わず選んだ。
「あんたの誕生日はわたしが何か買ってあげる」
「そんないいよ」
「遠慮しないで。あんたの欲しいもの言って」
「そう言われても思いつかないよ」
「誕生日までに考えておいて」
「ど、努力するよ」
ミソンプの温もりを味わいながらポストルは、彼女の胸で安らいだ表情を浮かべるのであった。




