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意味編ー1

1


ガルディアン第3支部基地内ー会議室


ポストルは、ガルディアンが主催し、隔月で開催される講義を受けている。


エグゼキュシオンのパイロット及びオペレータは、講義への参加が義務付けられており、余程の事情がない限り参加しなければならない。


開催日は、職員に配慮し、週ごとに間隔を空けて数日用意されており、自身の都合に合わせて参加することができる。


ガルディアンが用意した日程で、1回でも講義に参加すれば他の開催日には参加しなくて良い。


講義内容は、侵略者アントリューズに関するものだ。


しかし、侵略者アントリューズについて、大半が未解明であり、内容の大半が憶測や学説に過ぎない。


そのため、講義の優位性を疑問視する者もいる。


「ったく、まだ終わんねぇのかよ……」


ポストルの隣で不本意ながら講義を受けさせられているタージュも講義に不満を抱く1人だ。


タージュの場合、講義を受ける意味などではなく、単に長時間黙って椅子に座り、聞き飽きた話を聞かされるのが苦痛なのだ。


タージュは、ポストルと違い、学業が不得意であり、シュミレーターを使った訓練や体を動かす方が性に合っている。


「辛抱するしかないよ」


ポストルは、タージュの気持ちも理解できるが、組織に所属している以上、嫌でも従わなければならない。


特にエグゼキュシオンのパイロットならば、侵略者アントリューズに対する理解を深める必要がある。


「4体の巨大不明生物の出現を機に異空間の狭間から出現するようになった侵略者アントリューズの目的は、今も解明されておりませんが、彼らの行動から推測するに人類を絶滅させることが目的とされております」


ガルディアン本部から来訪した中年男性の研究者が、講師として正面のモニターを活用しながら講義をスムーズに進行していく。


「ここの研究者はいつも何してんだ。毎日部屋から出られないくらい忙しいようには見えねぇけど」


あからさまに不機嫌な態度のタージュは、ポストル以外の人には聞こえないよう小声で愚痴を零した。


その愚痴を隣で聞いたポストルも周りの迷惑にならないよう小声で言葉を返す。


「司令は何をしてるのか知ってるんじゃない?」


「部屋に引きこもってるだけで生活できるなんて羨ましいこった」


「第3支部の研究者がこの講義をやれば経費削減できるのにね」


2人の会話にある通り、ガルディアン第3支部にも侵略者アントリューズの研究に従事する男性が1人所属している。


しかし、理由は今のところ不明だが、自身の研究室に引きこもり、ほとんど研究室から出てこないことで有名だ。


その男性が講義を行えば、遠方から研究者を呼ばず、掛かる経費を削減でき、その分を別のところに回せるだろう。


「それでは次のページに移動してください」


講義を進行する研究者の言葉に従い、ポストルは、机の上に設置したタブレット端末の画面を人差し指で横にスワイプさせる。


ポストルたちが見ている講義資料には、侵略者アントリューズの行動原理や生態など様々なことが数十ページに渡り記されている。


しかし、侵略者アントリューズの行動原理など全く解明できていないため、あくまで仮説などに基づいた内容で信憑性に欠ける。


「皆さんご存じの通り、人類に害をもたらし続ける侵略者アントリューズですが、地球環境には多大なる恩恵をもたらしております。こちらの映像の通り、人類が破壊した自然を復元するだけでなく、より豊かな自然を形成しています」


慣れた様子で講義を進行する研究者の背後にあるモニターにとある映像が映し出される。


4体の巨大地球外生命体が地球に出現する以前の記録映像であり、人間のエゴで荒廃した大地や汚染された川など悲惨な地球環境の映像が流れる。


その後、場面が切り替わり、侵略者アントリューズが地球に襲来するようになって以降、同じ場所を撮影したと思われる映像が流れる。


侵略者アントリューズの血がもたらす恩恵により、人類の手により荒廃・汚染された大地や海などが、綺麗に浄化され、豊かな自然が形成されている。


「このことから侵略者アントリューズは、予め地球に備わった免疫力であり、一種の自浄作用を担う存在ないのではないかという見解もあります」


研究者の発言を聞いたタージュは、呆れた表情を浮かべ、頭の後ろで両手を組み、皮肉じみた言葉を小声で零す。


「あの怪物たちをそんな風に見るなんてめでたい研究者もいるもんだぜ」


「地球目線からすれば侵略者アントリューズは、一部の研究者が言うような存在かもよ」


「おいおい!まさかお前まで侵略者アントリューズを擁護するのかよ!?」


予想外のポストルの発言に驚いたタージュは、講義中ということを忘れ、思わず大声を出した。


「そこ静かに!」


「は、はい!すみませんでした!」


講義を進行する研究者の男性から注意を受けたタージュは、気まずい空気の中、礼儀正しく謝罪した後、ポストルの方へ視線を向け、彼からの言葉を待つ。


ポストルは、わざとタージュとは視線を合わせず、講義資料を目にしつつ会話を始める。


「擁護する訳じゃないけど俺たち人間に免疫力があるみたいに地球にも免疫力があってもおかしくないだろ?」


「その免疫力とやらがあの怪物ってか?オレにはあの怪物にそんな役割があるように見えねぇけど」


「もしあのまま人類が地球環境の破壊と汚染を続けていたら地球は滅んでいたかもしれない」


「だとしても仇の侵略者アントリューズに感謝なんてオレには死んでもできないぜ」


「それは俺も同じだよ」


以前から人間に免疫力が備わっているように地球にも何かしらの免疫力が予め備わっているのではないかという説が存在している。


当初、この説を有力視する者は少数派だったが、異空間の狭間から侵略者アントリューズが襲来したことで、有力視する者が急増した。


人口増加とそれに伴う環境破壊で崩れた自然界のバランスを取り戻す役割を侵略者アントリューズが果たしているのかもしれないが、それが明らかになる日は訪れないだろう。


侵略者アントリューズが意思を持ち、そのような役割を自覚し、意図的に地球へ襲来しているのか不明だからだ。


可能なら侵略者アントリューズと意思疎通を図り、彼らの真意を見極めたいが、現状それは叶わない。


「もしその説が正しいなら認めたくないけど俺たちが地球にとって病原菌か」


「冗談じゃねぇぜ」


ふとポストルの脳裏にある考えが過る。


それは二度と侵略者アントリューズが地球に襲来しなくなった時、人類は再び私利私欲に地球環境を汚すのではないかというもの。


歴史を振り返っても人類は、戦争や環境破壊を幾度となく繰り返し、地球に甚大な被害を与えてきた。


侵略者アントリューズが地球に予め備わった免疫力ならば、再び人類が地球環境を破壊・汚染した時、侵略者アントリューズが再び地球に襲来する恐れがある。


つまり、そうなればポストルたちが命を懸けて侵略者アントリューズと戦っても徒労に終わる。


侵略者アントリューズが来なくなる未来が訪れても俺たち人間の行い次第でまた侵略者アントリューズが襲ってくるのかな」


今日に至るまでポストルは、何度も同じ講義を受け、侵略者アントリューズについて聞いてきたが、今のように考えたことはなかった。


意味や後先を考えず、今を生きるため、自身の憎しみと人類存続のため、侵略者アントリューズと戦っている。


どうして今になってそのような考えに至ったのかポストル自身にも分からない。


もしかしたら何気なく自分で口にした『俺たちが地球にとって病原菌』という言葉が、きっかけをもたらしたのかもしれない。


「この先の未来は、神のみぞ知るってところだな」


唐突なポストルの疑問にタージュは、欠伸をしながら呑気に言葉を返した。


「俺たちが必死に侵略者アントリューズと戦っても無意味になるかもしれないよ」


「そんなこと言ってもよ侵略者アントリューズが全部で何体いるのか分かんねぇし、この先のことなんていくら考えても分かんねぇよ」


タージュの言う通り、侵略者アントリューズの規模や個体数は不明であり、侵略者アントリューズが絶滅させられる日が来るのか誰にも分からない。


ポストルやタージュがエグゼキュシオンのパイロットになったきっかけの1つである両親の仇も永遠に叶わないことになる。


「もしお前の言うような未來になったとしてもオレのやることは決まってるぜ」


「えっ?」


「死ぬまで侵略者アントリューズと戦って奴らを殺してやる」


ポストルは、自分のように物事を難しく考えず、単純に物事を捉え、迷わず戦う意思を持つタージュが羨ましく感じた。

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