黒の処刑人ー3
3
ガルディアン第3支部基地管轄内ー廃都市ベツマデフ。
異空間の狭間から1体の侵略者が出現し、ガルディアン第3支部基地を目指して移動を開始した。
今回、出現した侵略者は珍しい個体だ。
戦闘機と同じくらいのサイズの球体型で、重力に逆らって空を飛行移動する。
外見から推進機構が見られず、どのような原理で飛行しているのか不明。
得体の知れない侵略者に与えられたコードネームは『ベムイト』。
ベムイト討伐のため、ガルディアン第3支部基地は、シレディアを単機出撃させた。
ガルディアン第3支部司令は、今回も実戦慣れを兼ねて新兵の誰かを同行させたかった。
しかし、シレディアから1人で出撃させて欲しいという要望が出た。
彼女が要望を出してきたのは非常に珍しく、何かを感じ取ったのだろうと察した司令は要望を承認し、こうしてシレディアを単機出撃した。
「なんか変な感じがする」
司令が察した通り、直感的に今回出現した侵略者から今までとは違うものを感じていた。
シレディア自身それが何なのか上手く言葉にすることができない。
「もしかしたら相当な強敵なのかも」
ベムイト出現時、異空間の狭間から発生したエネルギーは、オスやエロジオの出現時と同じく平均的な数値で脅威度はそこまで高くない。
もしベムイトが真の力を隠し、それがシレディアでは手に負えなかった場合、犠牲になるのは自分だけで済む。
新兵の誰かが一緒に出撃して隣で死なれたりでもしたら目覚めが悪く、周りの人間から理不尽な扱いを受けたくもない。
専用の大型輸送機で愛機と共に出発し、ベムイトの予測進路に到着するまであと少しだ。
「あと少し」
黒いエグゼキュシオンの薄暗いコックピット内で現在位置を確認するシレディア。
その時、大型輸送機のパイロットから通信回線で連絡が入る。
『シレディア特尉』
「なに?」
『先行していた戦闘機が出現した侵略者の撃墜に成功したとの報告が入りました』
「撃墜?!」
これまでの侵略者には戦闘機に搭載された従来のミサイル兵器や銃器などは通用しなかった。
それどころかエグゼキュシオンの武装ですら歯が立たなくなってきている現状だ。
現状から考えて今回出現したベムイトが戦闘機のミサイル程度で撃墜されたとは信じ難い。
ミサイルで撃墜されたベムイトは、煙に巻かれながら廃都市ベツマデフの中心部に落下したとのこと。
「あの変な感じはわたしの勘違いだった?」
これまでにない程、弱くて呆気ない幕引きにシレディアは拍子抜けだ。
自分がベムイトから感じ取った違和感のようなものは勘違いだったと思わざるを得ない。
『基地に引き返しますか?』
「帰還命令は出てない。それに念のため落下した侵略者の生死を確認したい」
『了解しました』
シレディアの指示に従い、大型輸送機のパイロットは予定通り廃都市ベツマデフを目指す。
数分後、黒煙が上がる地点の近くにシレディアが乗っている黒いエグゼキュシオンを切り離し、直ちに大型輸送機はその場から退避する。
「侵略者固有の生体反応はない」
戦闘機のミサイルで撃墜されたベムイトから生体反応は探知できない。
黒いエグゼキュシオンが近づいても微動だにしないため、ベムイトは戦闘機のミサイル攻撃で死亡したとシレディアは判断する。
「呆気ない」
興味を失ったように機体の向きを変え、ベムイトから視線を逸らす。
そして、ガルディアン第3支部基地だけでなく、上空で待機しながら様子を伺う数機の戦闘機に対しても通信回線を繋ぐ。
「目標の沈黙を確認。これより……っ!?」
背後から敵意を察知したシレディアは、素早く自分のエグゼキュシオンを振り返らせる。
振り返った先にいるのは、沈黙したと思われたベムイトだ。
目にも留まらぬ速さで銀光する液体状の触手を伸ばし、上空にいた戦闘機1機を撃破する。
「生きてた!?」
これ以上、犠牲者が出る前に黒いエグゼキュシオンは、両腰に装備していたエグゼツインブレードを引き抜き、上空に伸びる触手を切断する。
切断された触手は、コンクリートの地面に落下し、不気味にうねりながら徐々に生気を失う。
「戦闘機はすぐに退避して」
シレディアの指示にすぐさま従い、上空に待機していた戦闘機が次々とその場から離れていく。
「こいつはわたしが倒す」
無数の触手を生やした球体が重力に逆らって浮いたかと思うと触手が不気味かつ不規則に動き出す。
エグゼキュシオンの残骸など自然以外のものを無作為に取り込み、自身の体を形成していく。
瞬く間にベムイトは人型へ変化を遂げ、黒いエグゼキュシオンの前に立ちはだかる。
全長はエグゼキュシオンと同じであり、全身に甲冑を纏ったような容姿だ。
顔面にある単眼を不気味に動かした後、目の前で身構える黒いエグゼキュシオンを捉える。
「気持ち悪い」
黒いエグゼキュシオンは、2本のエグゼツインブレードを構えて戦闘態勢に入る。
「いく」
シレディアの言葉を合図に黒いエグゼキュシオンのカメラアイが発光し、ベムイトに立ち向かう。
なりふり構わず黒いエグゼキュシオンは、ベムイトにエグゼツインブレードを振り下ろす。
対するベムイトは、瞬時に自身の片腕を盾へ変化させ、エグゼツインブレードの刃を防ぐ。
反撃に転じるベムイトは、もう片方の腕をバレットアサルトライフルに似た形状に変化させ、銃口を黒いエグゼキュシオンへ向ける。
「っ!?」
危険を察知したシレディアは、いち早く黒いエグゼキュシオンを後退させる。
生まれながら持つ高い反射神経を活かし、近くの建物の陰に隠れ、襲い来る銃弾から身を守る。
「あの侵略者、エグゼキュシオンの武装を使えるみたい」
人型に変化する際、取り込んだエグゼキュシオンの残骸から学習し、武装を真似ているのだ。
人型になったのもエグゼキュシオンの姿を模倣したからだ。
侵略者の中でも高い知性を持った個体だと分かる。
「銃撃が止んだ?」
状況確認のため、黒いエグゼキュシオンの頭部が静かに覗き込む。
「い、いない」
そこにいたはずのベムイトの姿はなかった。
「何処に……っ!?」
敵意を感じ取ったシレディアが見上げるとそこには高層ビルを踏み台に飛び上がるベムイトがいた。
勢いのまま襲い来るベムイトの攻撃をエグゼツインブレードで受け止める。
今度はバレットアサルトライフルではなく、鋭い刃状に腕を変化させ、黒いエグゼキュシオンを襲う。
「真似して」
エグゼツインブレードの刃とベムイトが形成した刃が火花を散らして何度もぶつかり合う。
ベムイトの太刀筋は、近接格闘戦を得意とするシレディアに引けを取らない。
「やる」
久方ぶりの強敵にシレディアは、戦闘中にも関わらず、自分が高揚していることに気付く。
(わたし戦いを楽しんでるの?)
シレディアは、敵と刃を交えながら今の自分の心境に驚きを隠せない。
今日に至るまで何体もの侵略者と戦ってきてこのような感情を抱いたことはなかった。
何も感情を抱くことなく、目の前の侵略者を討伐するだけだった。
ベムイトよりも巨体の侵略者や異能の力を使う厄介な侵略者と何度も相対したけれどもこのような感情を抱いたことはない。
もしかしたら最近相手をした侵略者がシレディアにとって歯応えがなく、久方ぶりの強敵だから彼女をそのような感情にさせるのかもしれない。
「もらった」
ベムイトの太刀筋を見切り、刃を切り返すと素早い剣捌きでベムイトの首を切り裂いた。
胴体から切り離された生首は、重力に引かれてコンクリートの地面に落下する。
しかし、シレディアは、侵略者の弱点を切り裂き、トドメを刺したにも関わらず、手応えのなさを感じた。
「……変な感じ」
違和感を抱いているシレディアに胴体だけになったベムイトが襲う。
予想もしてなかった事態に反応が遅れ、機体の腹部に蹴りを浴びてしまう。
「くっ!」
戦い慣れしているシレディアは、すぐさま機体の体勢を立て直す。
「首を切っても死なない」
落下した頭部から無数の触手が生え、新たに自分の体を形成する。
胴体だけのベムイトと頭部を持つベムイトの2体がシレディアに立ちはだかる。
「増えた」
不気味な鳴き声を轟かせ、銀色の刃を黒いエグゼキュシオンへ向ける。
「弱点はあるはず」
太陽の光を反射して輝く刃を向けられた黒いエグゼキュシオンは、エグゼツインブレードを構え直す。
「的確に弱点を破壊しないとまた増えるかもしれない」
これまで討伐してきた侵略者の中でも厄介な相手にシレディアの表情が険しくなる。
首を切り裂いても死なず、増殖する侵略者を相手にするのは今回が初めてだ。
「どれだけ増えても残らず倒す」
シレディアの言葉に呼応するように黒いエグゼキュシオンの紫色のカメラアイが光輝く。
そして、2体になったベムイトに正面から立ち向かうのであった。




