嫉妬編ー3
3
ガルディアン第3支部管轄内ー廃都市ベツマデフ。
異空間の狭間から1体の侵略者が出現し、他のガルディアン支部基地から出撃したエグゼキュシオン部隊が交戦。
その戦いで負傷した侵略者は、逃げるように進路を変え、ガルディアン第3支部管轄内の廃都市ベツマデフへ移動した。
現在、侵略者は、戦闘で負った傷や体力を癒すため、廃都市ベツマデフで廃墟と化した建物を次々と捕食している。
出現した侵略者にガルディアンが与えたコードネームは『オニタ』。
オニタ討伐のため、ガルディアン第3支部は、シレディア、ユノ、ポストルの3人を出撃させた。
大型輸送機で現地に運ばれた3人は、各自のエグゼキュシオンを慎重に前進させ、討伐対象のオニタを探す。
今回、各エグゼキュシオンのバックパックと両脚部、両腰に地上用スラスターが追加装備され、一定時間なら滞空可能だが、地上用スラスターであるため、長時間の航空移動はできない。
「目標を確認」
廃墟と化した建物の後ろから目標をコックピットモニター越しに確認したシレディアは、ユノとポストルのエグゼキュシオンに位置情報を送る。
シレディアの黒いエグゼキュシオンが近くに潜んでいることにまだ気づいていないオニタは、まるで何日も飢えたように建物を貪り食う。
怪獣のような分厚い筋肉質な左手でコンクリート製の建物を意図も簡単に砕き、自身の巨大な口の中へ放り込む。
まるで子どもが好きなお菓子を頬張るように硬いコンクリートを生え揃った白い歯で細かく砕き、喉を鳴らしながら食事を堪能する。
先の戦闘で負った傷は、何事もなかったように再生し、体力も十分なまでに回復しているようだ。
侵略者は、人間に比べて再生能力が遥かに高く、擦り傷程度なら瞬く間に再生する。
「お待たせシレディア!あれが今回の討伐対象ね」
「は、迫力が凄い」
シレディアの黒いエグゼキュシオンに背後からユノとポストルのエグゼキュシオンがそれぞれ合流し、各コックピットモニターにオニタの姿が投影される。
オニタの容姿は、棍棒と化した右腕に体全体が筋肉質かつ刺々しく、額から2本の太い角を生やし、まるでアニメや漫画などに登場する怪獣もしくは鬼と呼ぶに相応しい容姿だ。
「ユノとポストルは後方で援護」
「任せて!」
「了解」
ポストルの返答を通信回線で聞いたユノは、すぐさま怒号を上げる。
「あんたの援護はいならないわよ!」
「そ、そんな」
ポストル自身、どうしてユノが怒っているのか分からず、コックピット内で肩を落とす。
戦場にも関わらず、嫉妬心を抑え切れないユノは、ポストルを目の敵にしている。
「2人ともいくよ」
シレディアの合図で3機のエグゼキュシオンが一斉に行動を開始する。
地上用スラスターを吹かし、地面を滑るように高速でオニタへ接近するシレディアの黒いエグゼキュシオンに気づいたオニタは、食事を中断し、棍棒状の右腕を地面に叩きつけて威嚇する。
その後、額から生える青黒い一角を発光させ、体内で蓄積した電気エネルギーをシレディアの黒いエグゼキュシオンに向けて口部から放つ。
「当たらない」
シレディアは、放たれた電撃を見事な操縦で回避しつつ攻撃可能な距離まで接近し、黒いエグゼキュシオンが左手に持つエグゼツインブレードを振り下ろさせる。
しかし、オニタを切り裂く寸前で棍棒状の右腕が、横からシレディアの黒いエグゼキュシオンに迫り来る。
危険を察知したシレディアは、コントロールグリップを動かして素早く攻撃を中断し、黒いエグゼキュシオンの両腕を交差させ、防御姿勢に切り替えることで受けるダメージを緩和する。
「ぐっ!」
オニタの攻撃を防御できたが、その反動で機体が後方に吹き飛ばされ、廃墟の建物に背中から激突してしまう。
その衝撃で崩れた瓦礫が黒いエグゼキュシオンに降り注ぎ、砂埃が黒い装甲を汚す。
すぐに動けないシレディアの黒いエグゼキュシオンへ電撃を放とうとするオニタだが、ポストルのエグゼキュシオンとユノの黒いエグゼキュシオンがそれを阻止する。
オニタに向け、各機が装備していたバレットアサルトライフルを一斉射撃し、オニタの注意を引く。
いくつもの弾丸に皮膚を貫かれ、攻撃を邪魔されたオニタは、雄叫びを上げて怒り狂い、狙いを2機に変更し、口部から電撃を放つ。
ポストルもユノも素早くコントロールグリップを手前に引き、自身のエグゼキュシオンを回避させるが、ポストルのエグゼキュシオンが持つバレットアサルトライフルに電撃が命中してしまう。
その影響でバレットアサルトライフルが爆散し、破片が辺りに飛び散る。
「ポストル!」
シレディアがフォローに入ろうと自身のエグゼキュシオンを起き上がらせようとするが、そこをオニタの肉厚な尻尾に薙ぎ払われ、瓦礫の上に倒れ込む。
「よくも私のシレディアに!」
眉間にしわを寄せ、怒りを爆発させたユノは、自身の黒いエグゼキュシオンを前進させ、バレットアサルトライフルを連射する。
「弾切れ!」
ユノの黒いエグゼキュシオンは、弾切れになったバレットアサルトライフルを放り投げ、エグゼキュシオンの両手首に収納されている超高周波ブレードを展開した。
ユノは、シレディアに引けを取らない操縦技術でオニタが放つ電撃をアクロバティックに避け、オニタの顔面に強烈な飛び蹴りを浴びせる。
「これなら!」
跳び蹴りを浴びて怯んだ隙を逃さず、ユノの黒いエグゼキュシオンが、超高周波ブレードでオニタの分厚く筋肉質な腹部を切り裂く。
「あ、浅い!?」
ユノの感覚は正確であり、オニタの分厚い筋肉が邪魔し、思っていた以上に刃が通らず、大したダメージを与えることができなかった。
「きゃぁ!」
オニタの左手が、動きが止まったユノのエグゼキュシオンの頭部を鷲掴み、そのまま雑に放り投げる。
勢いよく宙を舞ったユノの黒いエグゼキュシオンは、背中から廃墟のビルの上に落下し、衝撃で倒壊するビルの瓦礫と共に沈む。
「ユノ……っ!?」
体勢を立て直した直後のシレディアの黒いエグゼキュシオンにオニタは、体内で蓄積した電撃を放つ。
体勢を立て直したばかりで回避が間に合わないシレディアの額から嫌な汗が滴り落ちる。
「シレディア!」
シレディアの黒いエグゼキュシオンを庇うようにポストルのエグゼキュシオンが現れ、オニタの電撃を機体に装備していた盾で防ぐ。
しかし、電撃の威力が高いことから全て防ぎ切れず、エグゼキュシオン全体に電撃が広がり、ポストルのエグゼキュシオンが感電する。
「ポストル!?」
「い、今だシレディア!あ、あいつの動きが止まっている隙に!」
ポストルの呼び掛けに応え、シレディアは、自身の黒いエグゼキュシオンの両手を動かし、2本のエグゼツインブレードを投げ飛ばす。
まるでブーメランのように空気を巻き込み、高速回転する2本の刃が、オニタの首筋と胴体を切り裂く。
切り口から侵略者特有の青黒い血液が噴き出し、オニタは、電撃を放つのを止め、痛々しい雄叫びを上げた。
「いける」
オニタが予期せぬ攻撃に怯んだ隙にシレディアは、コントロールグリップを前に倒し、素早く自身の黒いエグゼキュシオンをオニタの懐に潜り込ませる。
黒いエグゼキュシオンのツインアイカメラが紫色に光り輝き、両手首に収納された超高周波ブレードを展開する。
「これで終わり」
シレディアの黒いエグゼキュシオンは、オニタの首に超高周波ブレードを突き刺し、そのまま首を切り落とす。
切断された首は、青黒い血液を散らしながら宙を舞い、鈍い音を立て地面へ落下し、頭部を失った胴体は、力なく地面に倒れ、青黒い血液が地面に広がっていく。
「討伐完了」
獲物を仕留めたシレディアの黒いエグゼキュシオンが、刃に付着した青黒い血を払い、ポストルのエグゼキュシオンに駆け寄る。
シレディアは、エグゼキュシオンの通信回線を開き、コンクリートの地面に膝をつくエグゼキュシオンのパイロットであるポストルの安否を確認する。
「大丈夫ポストル!?」
「あ、あぁ、無事だよ」
「良かった」
「シレディアは怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫。またわたしを助けてくれてありがとう」
その会話を聞いていたユノは、自身の黒いエグゼキュシオンから溢れんばかりの殺気を放ち、一歩ずつポストルのエグゼキュシオンに近づく。
「私のシレディアを守ったからって調子に乗らないでくれる!」
「ゆ、ユノ中尉!?」
「あんたみたいな弱々しい奴にシレディアは渡さない!」
ポストルが戸惑っている最中、ユノの黒いエグゼキュシオンがポストルのエグゼキュシオンにヘッドロックを決め込む。
そんな光景を目の当たりにしたシレディアは、初めて戦場で柔らかい笑みを浮かべた。