嫉妬編ー1
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ガルディアン第3支部基地内ー第2格納庫。
数機のエグゼキュシオンが、直立した状態で専用のアームに固定され、横並びに格納されている。
鉄臭さが充満する第2格納庫内でポストルは、いつも通り仕事を進める。
自身のエグゼキュシオンのコックピット座席に座り、タブレット端末とディスプレイを通信線で接続し、システムチェックを行う。
どちらかと言えばポストルは、エグゼキュシオンの操縦よりもこうした作業が得意だ。
彼自身も自覚しており、エグゼキュシオンのパイロットを引退したら技術兵もしくはクレアシオン社に就職しようか考えている。
エグゼキュシオンのパイロットは、歳による衰えから大体30歳でパイロットを引退することになり、引退後は技術兵としてガルディアンで働くことが可能だ。
また、クレアシオン社に就職することも可能であり、ガルディアンが推薦状を用意してくれるため、一般の人よりもクレアシオン社に就職しやすくなっている。
どちらにも属さず、ガルディアンからの資金提供を受けながら武装搭載型防護壁内部の居住区で暮らすことも可能だが、年々ガルディアンの資金提供額が減少しているため、厳しい生活を強いられるだろう。
そんな現状からポストルは、パイロットを引退後、整備兵かクレアシオン社で就職し、お金を稼ぎながら生活する未来を今からイメージしている。
(今のところシステムに異常なし)
ポストルは、手慣れた手つきでエグゼキュシオンのシステムに異常がないかタブレット端末でチェックする。
その時、彼の側で仕事を手伝っていたタージュが、作業を進めながらふとある疑問を口にする。
「シレディア特尉のエグゼキュシオンってカラーリングと見た目がオレたちエグゼキュシオンと違うんだっけか?」
ダージュの問いにポストルは、第1格納庫に収容されているシレディアの黒いエグゼキュシオンを思い浮かべ、タブレット端末の画面を人差し指で操作しながら答える。
「それもあるけどシレディアの機体には俺たちが乗ってる量産機と違う特別なエグゼ・リアクターが2基搭載されてるんだよ」
エグゼキュシオンの動力であるエグゼ・リアクターは、内部に『エクゼニウム』と呼ばれる特殊合成された物質を搭載しており、1基だけ機体運用に十分な出力を持つ。
エクゼニウムとは、侵略者の亡骸を解析した際、侵略者の体内から偶然発見された未知の特殊な物質だ。
研究者たちの見解では、侵略者が環境浄化の一環として核物質や汚染物質を吸収し、それらを体内で分解した際に生まれた産物ではないかとされている。
「確か人工適合者用に新たに開発されたリアクターだったよな?」
「あぁ、量産機のリアクターよりも高出力なリアクターだよ」
人工適合者専用に新規開発した高出力なエグゼ・リアクターを機体に搭載するに留まらず、それを2基並列稼働させることで、従来のエグゼキュシオンを遥かに凌駕する機体性能と高出力化を初めて実現したのがシレディア専用機だ。
しかし、エグゼ・リアクター2基の並列稼働は、まだ技術的に困難な部分が多く、時間やコスト面から考え、現状では量産に向かない。
「最近ロールアウトしたばかりの新型機は、小型のリアクターを合わせて3基搭載してるって話だよ」
「1基だけでも体力持っていかれるってのによ3基もかよ。パイロットはシレディア特尉並みかそれ以上の化け物だな」
ポストルが言った新型次世代機は、シレディア専用機の開発データ及び戦闘データを基に開発された新型の人工適合者専用機だ。
小型ではあるが、シレディア専用機よりも1基多くエグゼ・リアクターを背部に搭載し、それらを並列稼働させ、シレディア専用機を超えた機体性能と高出力化を実現した新型次世代機に該当する。
「俺たちの体が薬で強化されているとは言え、俺たちには1基が限界だよ」
薬で肉体を強化したとは言え、ポストルやタージュたちのような一般兵がシレディア専用機や新型次世代機を操縦できる確率は無に等しい。
もし操縦できたとしても数秒で肉体が悲鳴を上げ、様々な異常がパイロットの体に現れ始めるだろう。
「そもそもあの異空間の狭間とやらを塞げたら侵略者との戦いを終わらせられるのによ」
「それができたら苦労しないね」
人類は、過去に侵略者が出入りする異空間の狭間をあらゆる手段を使って何度か塞ごうと試みたが、全て悉く失敗した。
何故なら、異空間の狭間には常にバリアのような膜が張り巡らせており、侵略者以外の存在が通るのを断固として拒絶しているからだ。
異空間の狭間内部に爆弾を投下しようとしても弾かれ、エグゼキュシオンを内部に侵入させようとしても結果は同じ。
そのため、人類は異空間の狭間を全く解明できておらず、異空間の狭間が別次元世界へ通じると言われているのも仮説でしかない。
「よし!こっちのチェックは終わったぜ」
「こっちも終わったよ」
「それならこれから食堂で時間でも潰さねぇか?」
「ごめん、これからシレディアと会う約束があって」
それを聞いた途端、タージュは悪戯な笑みを浮かべ、ポストルに詰め寄る。
「ほー!最近シレディア特尉と急接近してるみてぇだな」
「な、何だよその言い方」
エロジオとの戦闘以来、ポストルは積極的にシレディアと交流を続けている。
シレディア側も最初はぎこちなかったが、徐々にポストルに心を開き、今では彼との交流を楽しんでいる。
シレディアに並ならぬ好意を抱くユノが、深まる2人の絆に嫉妬心を剥き出しにする程だ。
他の職員たちもポストルとシレディアが一緒に行動しているところを頻繁に目撃するようになり、その様子から2人が恋仲に進展したのではないかと噂をする者までいる。
しかし、ポストルとシレディアは、友人同士というだけでそこまでの関係には発展していない。
また、シレディアの保護者であるガルディアン第3支部基地司令も2人の関係を断固否定し、ユノもそれに同調している。




