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ガルディアン第3支部基地内ー食堂。
各ガルディアン支部基地には職員たちが利用する食堂があり、決められた時間内に職員たちがそこに集い、各自食事をする。
しかし、食堂と言っても自分の食べたい料理を好き勝手に選んで注文できる訳ではない。
提供される料理は、大抵朝昼晩と決まったものであり、主菜はポレンタ、副菜に豆とコーンのサラダ、薄味のコーンスープだ。
変化があるとすればスープが、薄味のオニオンスープになるか副菜がマッシュポテトになるかくらいの変化しかない。
このように大抵決まった料理しか提供できないのには理由がある。
1つ目は、侵略者の出現により、人類の約半分が壊滅し、食料自給率が極端に低下したこと。
2つ目は、食料自給率が低下している中、ガルディアンは、武装搭載型防護壁内部や外部居住区で暮らす人々に最優先で食料を供給しているからだ。
だからガルディアン職員は、ほとんど毎日変わり映えしない食事を朝昼晩と食べざるを得ない。
武装搭載型防護壁の限られた領地では、収容民全員の口を賄えるだけの十分な食料を確保できないのが現状だ。
皮肉にも侵略者のお陰で地球環境が復元され、減少傾向だった動植物や魚類の数は増加している。
各ガルディアン支部基地の許可があれば一般人でも定められた範囲内で漁や狩りを行うことが可能だ。
獲った魚や肉をガルディアンに売ることも可能であり、相応の値でガルディアンが買い取ってくれる。
しかし、いつ侵略者が出現して自分の身が危険に陥るか分からない状況で、好き好んで漁や狩りを行う者は少ない。
そのため、流通している肉や魚の約8割が、人造や養殖のものであり、天然のものはあまり出回らない。
質素な食事でも食べれるだけでもありがたいご時世だが、代わり映えしない食べ飽きた食事に不満を抱いてしまうのが人の心だろう。
「……食べ飽きた」
ポストルは、他のテーブルで食事をするガルディアン職員たちに聞こえないように気を遣い、食事に対する日頃の不満を小声で口にした。
恐らく他のガルディアン職員たちもポストルと同じような不満を抱いているだろうが、だからと言って堂々と不満を口にする者はいない。
世の中には満足な食事ができない人々がおり、このご時世、食事ができるだけでも有難いからだ。
「気持ちは分かるわ」
ポストルの向かい側に座り、一緒に食事をしながら冷静に言葉を返したクールな印象の少女。
綺麗な紺色の髪を白いリボンで三つ編みに束ねている彼女の名前は、ミソンプ・ジャンティー。
ポストルやタージュたちと同期の新兵だが、新兵ながらベテランパイロット並みの高い実力を持つ。
その実力の高さからガルディアン本部直属の部隊にスカウトされたが、とある理由からミソンプは、それを断固として断り、ガルディアン第3支部基地所属を希望して現在に至る。
「そういえば輸送中だった試作機2機が『クリミネル』に強奪されたって聞いた?」
食事しながらポストルは、いつものようにミソンプと世間話を始めた。
「えぇ、ニュースで聞いたわ」
ポストルが口にした『クリミネル』という名は、ガルディアンが最も危険視している反政府勢力だ。
明確な目的は不明だが、ガルディアンに反旗を翻す行動からガルディアンを崩壊させ、世界支配を企んでいると推測される。
クリミネルは、行き場を失った人々や現体制に不満を抱く者を取り込み、壊滅したガルディアン支部基地跡地や廃都市内を自らの拠点としている。
こうすることで迂闊にガルディアンが手出しできないようにしているのだ。
一部ではガルディアンに匹敵する戦力を保有しているのではないかと言われている組織が、昨日ガルディアン本部へ輸送中だった試作機2機を強奪した。
幸い負傷者はおらず、被害は試作機2機を奪われただけで済んだ。
「レアシオン社の人や護衛してた人たちが無事だったのは良かったけど」
レアシオン社とは、ガルディアン第10支部基地領土内に本社と大規模な工房を構え、エグゼキュシオンや侵略者用の兵器、ダイレクトスーツの開発及び生産を専門で行っている企業だ。
ガルディアン第4支部基地とガルディアン第8支部基地に支社を構えており、ガルディアンとは切っても切り離せない重要な関係にある。
「噂では護衛がいつもより手薄だったらしいけど」
ポストルは、意図的にレアシオン社がクリミネルへ試作機2機を渡したのではないかと考察している。
何故なら、今回の強奪事件には不審な点が多いからだ。
あくまで噂であり、実際に現場を見た訳ではないため、何も確証はないが、レアシオン社が派遣した護衛がいつもより手薄だったらしい。
また、いつも攻撃的かつ過激な行動を繰り返すクリミネルが、何も危害を加えず、試作機2機だけを奪い、退散したのも不自然だ。
もちろん負傷者が出なかったことは喜ばしいが、突然クリミネルが襲撃してきたにも関わらず、交戦した痕跡すらなく、試作機2機だけ綺麗に奪われた。
「もしそうならただの注意不足」
憶測をあれこれ議論しても意味がないと考えるミソンプは、左手に持つ銀色のスプーンでポレンタを掬い上げ、自身の口に運ぶ。
「そうかもしれないけど裏でクリミネルとレアシオン社が繋がってるって噂を信じたくなるよ」
ポストルが今回の事件に違和感を抱く前からクリミネルとレアシオン社が裏で繋がっているのではないかという噂がある。
根拠として、クリミネルが所有する機体や武器がレアシオン社製のものばかりだからだ。
レアシオン社側は、クリミネルとの繋がりを否定し、ガルディアンと侵略者が戦闘した際、廃都市などに破棄された武器や機体をクリミネルが回収して再利用している。
またはガルディアン側が裏でクリミネルに対し、機体や武器を横流しているなどと主張している。
ガルディアン側は、レアシオン社に依存しており、レアシオン社との関係悪化を恐れ、これ以上強く主張できない。
また、レアシオン社の主張通り、ガルディアン側にもクリミネルを支持している人が少なからず存在し、裏で協力している可能性も否定できない。
「ポストル」
「ん?」
聞き覚えのある声で背後から名前を呼ばれたポストルは、スプーンを片手に振り返る。
そこには相変わらず黒いダイレクトスーツ姿のシレディアが、食事が盛り付けられたアルミ製のトレイを両手で持って立っていた。
「シレディアも来てたんだね」
「うん、今来たところ」
「し、シレ……ディア?!」
ポストルがシレディアのことを平然と呼び捨てにしたことに衝撃を受け、目を見開いたミソンプは、左手に持っていたスプーンを落とす。
何故なら、ポストルが自分やサラリエ以外の異性を呼び捨てにしているところを見たことがないからだ。
ましてやポストルが呼び捨てにした相手は、階級が自分たちよりも上の上司であり、他者と積極的に関わろうとしないシレディアだ。
そんなシレディアのことを堂々と呼び捨てにし、呼び捨てにされたシレディアも嫌がる素振りを一切見せない。
勘の鋭いミソンプは、自分の知らないうちにポストルとシレディアが距離を縮めたと察した。
「一緒に食べていい?」
「もちろんだよ」
快く承諾してくれたポストルの隣にシレディアが平然と座り、彼と肩を並べる。
それを前にしたミソンプは、クールだった表情を一変させ、正面に座るポストルを鋭く睨みつける。
正面から注がれるミソンプの鋭い視線を受けたポストルの額から自然と冷や汗が流れ出す。
「ど、どうしたんですかミソンプさん?」
「……別に」
ミソンプが急に機嫌を損ねた理由が全く分からないポストルは、困惑しながら気不味い空気に包まれ、味が良く分からない昼食をすることになるのであった。




