実力ー3
3
ガルディアン第3支部基地内ー第2格納庫
戦いを終えたポストルとシレディアは、ガルディアン第3支部基地へ帰還した。
スタッフの誘導に従い、自身のエグゼキュシオンを指定の場所に固定する。
手際良くコックピットに簡易階段が設置され、安全を確認したポストルはハッチを開けた。
コックピットから出て簡易階段を降りるとタージュがポストルを出迎える。
「どうだった第3支部のエースさんは?」
「圧倒的な実力差を目の当たりにしたよ」
改めて先の戦闘を思い出したポストルは、シレディアと自分との実力差に肩を落とす。
その様子を見て彼の心中を察したタージュは、ポストルの肩を叩く。
「シレディア特尉は人工適合者の中でも特別優秀らしいから落ち込む必要ないぜ」
「慰めの言葉ありがとう」
シレディア以外にも多くの人工適合者がパイロットとして活躍している。
もちろん人工適合者だけでなく、ユノのような擬似人工適合者も同様だ。
誰もが優秀な力を持ち、侵略者を次々討伐している。
その中でもシレディアは、3本の指に入るパイロットとしてガルディアンから賞賛を受けている。
人工適合者や擬似人工適合者の枠を抜きにしてもトップクラスのパイロットだ。
シレディアの実力を間近で見たポストルもガルディアンの評価に間違いないと心底納得する。
「噂で聞いた話だと昔よりシレディア特尉の腕が鈍ってるらしいぜ」
「あれで鈍ったと言われても冗談にしか聞こえない」
「昔からシレディア特尉の戦闘を見てる訳じゃないから実際のところは分からんから何とも言えないな」
「是非、その噂を流した人にじっくり聞いてみたいね」
ポストルは、根拠のない噂話に呆れて溜め息を吐き、タージュと共に第2格納庫の後にしようと歩き出す。
昔のシレディアを知らないため、腕が鈍っていないとポストルの口から言い切ることはできない。
とは言え、彼女の実力を見たばかりのポストルには根拠なき妄言を言っているようにしか聞こえない。
「もしシレディア特尉が鈍っていたとしてもあれだけ強いなら心強いことに変わりないな」
「だからってシレディア特尉に頼りっぱなしじゃダメだ」
第2格納庫の分厚い出入り口が開き、ポストルとタージュは鉄の廊下に足を踏み入れる。
「このまま戦力外なのは嫌だ」
エロジオとの戦闘時には気付かなかったが、初陣の時みたいに侵略者を見ても精神病による症状が現れなかった。
今回は離れたところで戦いを見ているだけだったからだけではない。
心の何処かでシレディアが何とかしてくれるという甘えと安心がポストルの中にあったからだ。
僅かにでもそう思ってしまった自分が心底情けなくて悔しい。
「俺も侵略者を1人で倒せるくらい強くならないと」
いつにも増して真剣な表情を浮かべ、拳を握り締めるポストルをタージュは横目で見る。
「だからって無理すんなよ。いざとなったらオレたちもいる」
「分かってるよ」
「オレだって侵略者を残らず殺したいんだ。お前1人でアイツらを皆殺しにされたら困るぜ」
「あぁ、一緒に侵略者を倒そう」
廊下を歩きながらポストルとタージュは、互いの友情を確かめるように拳同士をぶつけ合う。
「ん?あれは……?」
第1格納庫を後にしたシレディアが、向こう側から歩いてくるのにポストルは気づいた。
シレディアは2人の存在に気づいているのかどうか表情から読み取れない。
相変わらず無機質な表情で廊下を1人で歩く。
このまますれ違ってしまう前にお礼を言わなければとポストルがシレディアに声をかける。
「し、シレディア特尉!」
「……なに?」
足を止めたシレディアに対し、ポストルは礼儀正しく背筋を伸ばし、頭を下げてお礼を言う。
「先の戦闘ではシレディア特尉の戦い方を拝見させて頂き、ありがとうございました」
「そういうのいらない」
「し、しかし」
「わたしは命令に従って侵略者を殺しただけ。そこに誰がいようと私には関係ない」
「ほ、本来なら俺も戦闘に参加すべきところをシレディア特尉1人に戦わせて」
「あなたじゃ足手纏いになるだけ」
未熟な自分を見透かされ、的確に痛いところを突かれたポストルは、言葉を詰まらせる。
「あなた先行したところで結局わたしが倒すことになるんだから最初から黙って後ろにいてくれた方が助かる」
シレディアが先行して侵略者と戦い、侵略者を倒してくれるだろうと密かに甘えていた自分。
そして、もし彼女と一緒に先行しても侵略者を前に精神病の症状が発症し、足手纏いになってしまうかもしれないと思っていた自分がいたから余計に言葉が出ない。
「シレディア特尉」
ポストルの隣で黙って2人の会話を聞いていたタージュが口を開いた。
「なに?」
確かにポストルもタージュも訓練兵を卒業したばかりの新兵だ。
歴戦を戦い抜いてきたベテランのシレディアからしたら足手纏いかもしれない。
それが事実だとしても流石に彼女の発言は言い過ぎだと感じたタージュは、眉間に皺を寄せて怒りを露わにする。
「流石にその言い方はないんじゃないですか?」
「事実を言っただけ」
「自分がエリートだからって何でも思ったことを口に出して言えば良いってもんじゃありませんよ!」
上官相手に感情を剥き出しにし、今にも手を出しそうな勢いのタージュを慌ててポストルが止める。
「やめろタージュ!俺は気にしてないから」
「けどよ!」
2人に構っていられないと言わんばかりに視線を逸らし、シレディアは無愛想にその場から離れていく。
残されたポストルとタージュは、そんな彼女の背中をただ見送ることしかできなかった。
「何様のつもりだあの女!」
「やめろって」
「自分が特別だからって周りを見下しやがってよ!所詮、科学によって与えられた力だって言うのによ」
火が点くとなかなか冷静にならない性格のタージュは、感情のまま発言を続ける。
「あんなんだから周りから嫌われて差別されんだよ」
「シレディア特尉の場合、敢えて孤独を選んでるのかもしれない」
「はぁ!?」
「いや、人工適合者や擬似人工適合者はみんなそうかもしれない」
「どういう意味だよ」
タージュは、どうしてポストルがそのような発言をしたのか全く理解できない。
あれだけのことを言われたら例えシレディア相手でも怒って当然だ。
ましてポストルは、精神病を患いながらも過酷な訓練を乗り越え、パイロットに合格した。
そんな彼を密かに尊敬しているタージュにとって、シレディアの無神経な発言が心底気に入らない。
ポストルの悲惨な過去や現状を知れば尚更だ。
「タージュも人工適合者や擬似人工適合者が非道な扱いを受けてきたのは知ってるだろ?」
「あぁ、知ってはいるけどよ」
「誰だってそんな扱いを受ければ心が荒むし、誰も信用できなくなる」
「そりゃーそうかもしれねぇけどよ」
「それでも侵略者と戦い続けているなんて凄いよ」
人工適合者や疑似人工適合者が受けてきたことを思えば、シレディアの心が冷めきっているのも納得ができる。
だからポストルの中に怒りという感情より悲しさという感情が沸き上がって止まない。
「俺だったらきっと戦うことを辞めてガルディアンに復讐でもしてたかもしれない」
「お前は誰に対しても優し過ぎるぜ」
ポストルの何処までも純粋な優しさを改めて実感したタージュは、抱いていた怒りが急激に冷める。
「そうかな?」
「あぁ、そこがお前の良さだってのは分かるけどよ少しは怒ってもいいんだぜ」
隣でそう言われたポストルは、照れ臭くなり、頬を僅かに赤くし、視線を泳がせる。
「い、一応お礼は言っておくよ」
「なんだ照れてんのか?」
「う、うるさいよ」
仲良く会話している2人にサラリエが後ろから駆け寄ってくる。
「お疲れ様ですポストル!」
「よし!タイミング良くサラリエも合流したことだし、飯でも行こうぜ」
「いいですね」
「なら、俺は制服に着替えてから合流するよ」
食堂で待ち合わせの約束を交わしたポストルは、一旦タージュとサラリエの2人と別れる。
そして、ダイレクトスーツから制服に着替えるため、男子更衣室へ向かうのであった。




